ブリューナクとグングニル
~特別攻撃隊の紹介~
【レオンハルト】
辺境の小国、オルドヴィア王国の王子。魔王を討つため、特別攻撃隊を編成した。度が過ぎるほどの生真面目。
【グン】
レオンハルトに育てられたフェンリル(神獣の銀狼)の双子の兄。冷静沈着で自信家。
【カミロ】
騎士。故郷の村を魔族に蹂躙された過去を持つ。陽気で荒っぽい。
【ブリュー】
カミロに育てられたフェンリルの双子の弟。好奇心旺盛で無鉄砲。
【ルカ】
魔法使い。奴隷のように働かされていた採掘場から連れてこられた。温和で仲間思い。
翌朝、宿を出た一行は、集まった子供たちの人だかりに足を止められた。
「もう行っちゃうの?」「もっと遊ぼうよ!」
昨日、雑居房で子フェンリルの虜になった子供たちが、別れを惜しんで縋り付いてくる。レオンハルトは、差し出される小さな手と好奇の視線を「作戦への干渉」と見なすように一瞥し、短く断った。
「悪いな……先を急ぐ。」
「ねえ、その子たちの名前は? なんて呼べばいいの?」
一人の少年がリュックの中を覗き込んで尋ねた。カミロは、自分の背中であくびをする赤子を見やり、迷わず答えた。
「こいつはブリューだ。千年前、魔王を貫いたっていう伝説の槍『ブリューナク』から取った」
「カッコいい!」と子供たちが沸き立つ。カミロは、まだ名前を決めていなかったレオンハルトを盗み見て、意地の悪い笑みを浮かべた。
「女王様との誓いを忘れたわけじゃねえよな、王子? 名前もねえ相棒を、実の子より大切にするなんてのは無理な話だぜ」
「……そうです。名前がないなんて、あんまりですよ」
ルカもカミロに加勢した。二人の視線を浴び、レオンハルトは珍しく居心地悪そうに視線を泳がせる。
「……グンだ」
絞り出すような声だった。
「神の槍とされる『グングニル』……。この子はグンと呼ぶ」
カミロが「グン、か。悪くねえ」と鼻で笑い、ようやく一行は歩き出した。
乳出し用の山羊を連れて村の門を抜ける際、ルカがリュックの重さに耐えかねて尋ねた。
「……ところで王子、これからどこへ? また山に戻るんですか?」
「いや、中央王都へ向かう。そこにある工房で、最高級の矛と鎧を手に入れる」
ルカはその言葉に、自分の役割を再認識した。王都の最高技術で作られた矛と鎧を、さらに一年の歳月をかけて魔法の術式で練り上げ、神の牙へと変える。それが自分の「仕事」なのだ。
門をくぐり抜けた時、一人の少年が息を切らして追いかけてきた。
「待って! これ、あげる!」
少年の手に握られていたのは、古い縄を編んで作った、犬用のおもちゃだった。
「グンとブリューに! 餞別だよ!」
レオンハルトは立ち止まり、少年の差し出す「汚れた縄」を、まるで使用不明の怪しい兵器でも見るように凝視した。
(なぜだ……。たった一日、顔を合わせただけの獣に、なぜ見返りのない情を注ぐ?)
理解不能な「無垢な善意」を前に、王子は一瞬だけ呆然としたが、丁寧に礼を述べてそれを受け取った。
再び歩き出した道すがら、カミロが王子の心境を透かすように口を開いた。
「……子供の無垢な優しさってのは、どうしてこう、心が洗われるような気がするのかね。そうだろ、王子」
「……否定はしない」
カミロは自分のリュックから顔を出して肩に乗るブリューの頭を撫でた。
「いいかブリュー。お前があの子たちの未来を守るんだ。それがお前の仕事だ」
ブリューは言葉の意味を分かっているのか、嬉しそうに笑みをたたえてカミロを見詰め返す。
「……なぁ王子。あんたも、もう少しこいつらとコミュニケーションを取ったらどうだ?」
促されたレオンハルトは、自分の肩に顔を乗せたグンの黄金の瞳をじっと見つめ、淡々と、しかし一点の曇りもないトーンで告げた。
「グン。……お前の仕事は、魔王の喉笛を噛みちぎることだ。忘れるな」
「……ちょっと、王子! もう少し言い方ってものがあるでしょ!」
ルカの呆れた悲鳴が、冬の山道に響き渡った。




