エピローグ
「コケコッコーッ!」「コケコッコーッ!」
「コケコッコーッ!」「コケコッコーッ!」
ニワトリたちの元気な鳴き声が、黄金色に染まる朝焼けの空に響き渡る。トロッコに乗ったニワトリの旗は、この国の象徴――イザベル共生領の国旗だ。
「ブリュー!」
遠くから名前を呼ばれても、絨毯の上に伏せたブリューは「なーに!?」と短く応えただけで、あえて動こうとはしない。
「こっち来てってば!」
「嫌だねー!」
ドタドタと大きな足音を立てて二階から降りてきた少年が、勢いそのままにブリューの太い首周りに抱きついた。
「なに拗ねてんだよぉ〜」
少年に頬へキスをされると、ブリューはむすっとした表情で少し考えた後、あくびを返した。それから流し目を送る。
「昨日は何の日だったっけ?」
「……お風呂の日でしょう? ちゃんと覚えてますよ」
「昨日、お風呂に入れてもらってないんだけど!」
「ごめんて! 今日、絶対入ろう!」
イザベル共生領の人間たちは、伝説となった建国者たちの遺志をしっかりと受け継ぎ、人間と動物が共存する「真実の国」を築き上げていた。
この国のリーダーたる人間は、国民として迎え入れた動物から奉仕を受ける代わりに、野生にはない高度な安全と安定した食事を保障する。適度に休暇を取りながら、種族の垣根を超えて伸び伸びと労働に勤しめる環境が整えられていた。
もちろん共存することで生じる問題もある。言葉を持たぬ動物に社会のルールを守らせるには、時には気の遠くなるような教育の時間が必要だった。コミュニケーションが行き詰まると、動物に社会のルールを守らせることは無理だ!と諦める者や、鎖や隔離といった物理的アプローチで従わせようとする勢力は常に現れた。だが、家業に動物を迎え入れている人間たちは、動物と感情を共有する能力に長けており、彼らが緩衝材となることで、人間と動物はおおむね良好な関係を保つことができた。
産業が発展するにつれ、貿易を介してクトゥルヒ人との接触も増え、街には自然と混血の姿も見られ始めた。
クトゥルヒ人の少女の掌に乗せられたスフレに、鼻を突っ込んでガツガツと食べているのは、グンだ。
「グンちゃんは、手のお皿で食べるのが本当に好きだね〜」
鼻の頭に白いクリームを付けたグンが、お礼に少女の顔全体を大きな舌でべろりと舐め上げた。
「うわっ!」
「また腕を上げたね」
「何点だった?」
「文句なしの百点満点!」
「やった!」
「……ただね、私はこれでも五百歳なんです。『ちゃん』付けはおかしいですよ」
庭に設えられたフェンリル用の巨大な風呂桶。その中にちょこんと座り、泡まみれになったブリューが、うっとりとした表情で少年に洗われていた。
「ホントさ、ブリューはデカすぎて洗うの疲れる! なんでこんなにデカいの?」
「いざという時、戦うため……かな?」
「戦いなんてもうないでしょ! 小さくなりなよ」
「そんな便利な魔法、ありませーん」
通りを挟んだ向かいの家では、農機具を牽引し終えた老牛が、麦わら帽子を被った農夫と共に木陰で休んでいる。老牛が「モォ〜」と唸り声のようなあくびをすると、それが伝染して農夫も大きなあくびをした。
ブリューは、その農夫のあくびの仕草が、今は亡き父――カミロに似ていると思った。
そう思った途端、誇り高き特別攻撃隊の一員として駆け抜けた冒険の日々が、濁流のように脳裏に溢れ出してきた。
辛く苦しい訓練と決死の戦いに身を投じた日々だったはずなのに、不思議と思い出されるのは、三人から全力で愛された、眩ゆいほどに輝く家族団欒のシーンばかりだった。
少し残念なのは、カミロが夜な夜な話してくれた「羊と狼」の話。あれはどんなオチだったのだろうか?いつも冒頭で寝てしまっていたので、結局分からずじまいだった。
(まぁ、あの世で会った時に聴けばいっか……また寝ちゃうかもしれないけど)
ブリューは黄金の瞳を細めて空を見上げると、あの世で自分を待ってくれている三人に向けて、「ふわぁ」と、最大級のあくびを送った。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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