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一抹の安堵

~特別攻撃隊の紹介~


【レオンハルト】

辺境の小国、オルドヴィア王国の王子。魔王を討つため、特別攻撃隊を編成した。度が過ぎるほどの生真面目。


【グン】

レオンハルトに育てられたフェンリル(神獣の銀狼)の双子の兄。冷静沈着で自信家。


【カミロ】

騎士。故郷の村を魔族に蹂躙された過去を持つ。陽気で荒っぽい。


【ブリュー】

カミロに育てられたフェンリルの双子の弟。好奇心旺盛で無鉄砲。


【ルカ】

魔法使い。奴隷のように働かされていた採掘場から連れてこられた。温和で仲間思い。


挿絵(By みてみん)


ミルクを飲み終えた二頭の子フェンリルは、安宿の雑居房で宿泊客の子供たちに囲まれていた。その愛くるしい姿に歓声が上がる。

だが、満足げに喉を鳴らしていた赤子たちは、次の瞬間、無言でおしっことうんちを放った。

「あはは! 出ちゃった!」

子供たちが無邪気に笑い転げる。

「……なるほど。摂取すれば、排出される。道理だ」

レオンハルトは至極真面目な顔で納得し、汚れた床と向かい合う。

その傍らで、カミロが宿泊客から借りた新聞を広げた。

「王子、見な。北の砦が一つ落ちた。……また一歩、下がったな」

「……ああ」

「おいおい、そんな暗い顔すんなよ。どうせ理事国が税金を上げるための自作自演だろ?」

新聞の持ち主が、したり顔で巷の陰謀論を吹き込んできたが、二人は一瞥もくれない。

「……カミロ、行くぞ」

寝付いた赤子をルカの膝に預けた二人が剣術の鍛錬のために宿を出ようとした、その時だった。

「アン、アン……!」

眠っていたはずの子フェンリルが、親とはぐれたような悲鳴を上げて鳴き出した。

「ルカ、あやせ。命令だ」

「……よしよし、大丈夫だよ」

ルカが不器用に揺らすと、赤子たちは一旦は落ち着く。だが、レオンハルトが再び宿の扉に手をかけると、今度は火がついたように泣き喚いた。

三人は溜息をつき、赤子を再びリュックに詰めると、広場へと繰り出した。

昼下がりの穏やかな日常のなか、矛が打ち合う硬い音が響く。

カチャ、カチャ、という金属の重なり。火花。

ルカは壁に背を預け、二人のスパーリングをぼんやりと眺めていた。腹の前に担いだリュックの口からは、主人の動きを追うように二つの小さな頭が覗いている。やがて激しいリズムに安心したのか、赤子たちは幸せそうな寝顔で深い眠りに落ちていった。

(……おかしいな)

ルカは、自分を地獄へ連行する男たちの背中を見つめながら、ふと思った。

今まで自分を縛っていた採掘場の絶望に比べれば、この異常な逃避行のほうが、ずっと「息ができている」ような気がしたのだ。

矛が空気を切り裂く音を子守唄に、ルカは自分の胸の内に芽生えた、場違いなほどの安らぎに驚いていた。

――だが、その安らぎを切り裂くように、脳裏に「それ」が閃いた。

馬車の中で強制的に見せられた、王子の記憶。

青白い炎を上げて爆ぜる自動歩兵機。肉を叩き潰すサイクロプスの拳。逃げ惑う人々の顔がひき肉のように踏み荒らされる、あの圧倒的な暴力の色彩が、網膜の裏で鮮明に蘇る。

「……っ」

ルカの体が、ガタガタと激しく震え出した。

目の前で矛先を振るう二人の背中は、その地獄へ自ら飛び込もうとしている「狂人の背」だ。

この時間も、これからの時間も、全てあの巨大な足に踏み潰されるための「予備」に過ぎないではないか。

ルカは震える手で赤子の温もりを必死に確かめたが、その温かささえもが、これから失われるものの前触れのように思えてならなかった。

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