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ビート&ヨーン  作者: ダメだ里香ちゃん


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最終決戦①

オルドヴィア山脈に潜伏していた人間たちは、絶望の淵に立たされていた。土砂崩れに呑み込まれていく同胞を救う術などない。自分の命を繋ぎ止めるだけで精一杯だった。木にしがみつき、岩に、草に、それもなければ指を土の中にめり込ませて、必死の形相で大地が滑り落ちるのを拒んでいた。

激しい横揺れが徐々に治まってくると、生き残った者たちの頭の中に直接、形而上の声が響き渡った。

《嗚呼……神よ……》

山麓一帯を支配した広大な泥沼は、異様な熱を帯びて沸騰し、ごぼごぼと不気味な音を立てながら深い湯気に包まれていく。

《嗚呼……神よ……》

湯気の向こうに、うっすらと巨大な影が浮かび上がる。突風が湯気を押し退けて吹き抜けると、跪いて神に祈る泥巨人の姿が露になった。

次の瞬間、泥巨人が真っ二つに切断された。しかし切り離された上半身が落ちて泥沼に還るだけ。中身はただの泥だ。

《嗚呼……神よ……》

次々に泥沼から泥巨人が現れては、神に祈りを捧げる。そして即座に切断され、無感情に崩れ去っていく。容赦なく天から降り注ぐ雷の雨が泥を焼き、引き裂くが、彼らは横に裂かれようとも縦に裂かれようともただ泥沼に溶け込むだけだ。

泥巨人が現れる勢いは加速し、神々がそれを屠るスピードを凌駕していく。

《嗚呼……神よ》《神よ》《嗚呼……》《神よ》《神よ》《神よ》《嗚呼……》

泥沼の表面を無数の泥巨人が覆い尽くしたその時、一体の泥巨人の内側から、ルシファーが飛び出した。

《私が神だァァァァァッ!!》

大の字に両手両足を広げたルシファーが、宙を舞う。

その胸部には肉がなく、剥き出しの肋骨の隙間から、ドクドクと拍動する心臓が覗いている。首を傾け、蛇のように大きく開かれた口。青白く光る瞳が、自分が生まれ落ちた新世界をまざまざと観察していた。

ルシファーの出現と同時に、後方の上空で輝いた光の点が急接近する。横回転する巨大な杭が、有無を言わさずルシファーの顔面を貫いた。

その杭の正体は、両腕を胸の前で交差させた女神であった。続けざまに、第二、第三の女神たちが飛来し、ルシファーの胸部、腹部、股間を無慈悲に貫いていく。

前のめりによろめいたルシファーが泥沼に叩きつけられる寸前、彼は再び泥へと化し、女神たちを虚空に残して泥沼へと還った。

《罪なき罪よ……》

そして再び無数の泥巨人が一面を覆い尽くしていく。

《嗚呼……神よ》《神よ》《神よ》《嗚呼……神よ》《嗚呼》《嗚呼》《嗚呼》《私が神だァァァァァッ!!》

大の字に両手両足を広げたルシファーが再誕した。

次の瞬間、左右から磁石のように惹きつけられた漆黒の半球が、彼を挟み込んで圧殺した。スッと縦線が消え、完全な球体が虚空に浮かぶ。

《罪なき罪よ……》

しかし再び無数の泥巨人が一面を覆い尽くしていく。

《嗚呼……神よ》《嗚呼》《嗚呼》《神よ》《嗚呼……神よ》《神よ》《嗚呼》

殺しても意味はない。ルシファーという個体は存在せず、この泥沼そのものが彼なのだ。

《私が神だァァァァァッ!!》

みたび再誕したルシファーを、今度は透明の半球が左右から挟み込んだ。ルシファーは、その透明の球体の中に閉じ込められた。

続いて、泥沼全体に絶望的な影が落ちる。上空を覆ったのは、超巨大な空中戦艦――神王アザトースであった。

巨大な錨が泥沼を貫き、鎖が猛スピードで深淵へと吸い込まれていく。大地が震え、ガシャンと大地を噛む轟音が響いた。

影を落とされた泥沼に、突如として吹き荒れた雪。無数の神々が顕現し、沸騰していた泥沼を急速に冷却し始めた。活動に「熱量」を必要とする生命の法則を突いたのだ。

《嗚呼……神よ》《神よ……》

泥巨人が発生する勢いが鈍くなる。追い詰められたルシファーは、泥巨人を小型化させ、ほとりから這い出させる作戦に出た。

そこで待ち構えていたのは、ロマール軍である。

絶え間なく這い出てくる泥人形たちは、銃弾を浴びると**《これは神の与えし試練だ!》と叫びながら散り、自動歩兵機を叩き潰すことに成功すれば《これは神のご加護だ!》**と狂喜乱舞した。

透明の球体の中でその様子を観察するルシファーは、狂気に満ちていた。自らの首を絞めて、息苦しそうに《これは神の与えし試練だ……》と漏らしては、パッと手を放して《これは神のご加護だ!》と歓喜することを繰り返している。

しかし、泥人形の勢いはピークを境に衰えていった。

泥沼の表面に霜が張り、凍り始めたのだ。

球体の中のルシファーが《罪なき罪よ……》と嘆こうとも、事態は好転しない。

やがて、一体の泥人形も動かなくなり、泥沼は巨大な凍結した塊となった。

錨が岩を削りながら引き揚げられる轟音とともに、大地が縦に揺れる。

凍らせたゼリーのように固まった泥沼が、大地から引き剥がされて宙に晒された。

そして何事もなかったかのように、その巨大な質量はアザトースと共に天へと昇っていった。


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