パレード
王都が瓦解し、灰燼に帰した今、人類に残された生存圏はわずか二カ国――。
レオンハルトたちの故郷である辺境オルドヴィア王国と、第二の経済大国メルカトリア公国のみとなった。
魔王城が尾根に墜落し、その巨躯が動かぬ残骸となった光景を見て、メルカトリアの人々は狂喜乱舞した。だが、レオンハルトたちだけは知っていた。それが、ただの「猶予」に過ぎないことを。
神話に語られる神々の数は三〇〇から五〇〇。未知の存在も含めれば、その数はさらに膨れ上がる。自分たちが屠ったのは、その中のたった三柱。神々が軍勢となって押し寄せれば、人類に抗う術がないのは火を見るよりも明らかだった。
魔王城の墜落後、一行はメルカトリアに滞在し、魔王軍の残党狩りに奔走した。
ソニックブームの轟音と共に現れ、瞬く間にワイバーンの首を刎ね飛ばす。その圧倒的な姿から、いつしか彼らは**「銀狼の死神」**という畏怖を込めた名で呼ばれるようになった。
軍参謀に招かれたルカは、あの地下実験場で得た知見を活かし、サイクロプスの保護魔法を解析。自動歩兵機の弾丸一つ一つに「解除魔法」を付与する術を編み出した。これによって人類は、かつて絶望の象徴だった一つ目の巨人を次々と撃破し、魔王軍を北へと押し戻すことに成功したのだ。
そして国王が勝利を宣言した。
魔王の手から世界を救った「英雄」として、特別攻撃隊を称えるパレードが華々しく開催される。
降り注ぐ花火、雨のような歓声、誇らしげに行進する兵隊。
宮殿のバルコニーに立つレオンハルトは、隣のカミロに促され、眼下を埋め尽くす大観衆に手を振った。だが、その瞳は憔悴しきっている。
「……こんなことをしている場合ではないのだがな」
「まったくだ……。だが、民を鼓舞するのも戦士の務めだろう?」
カミロもまた、無理に作った笑みを浮かべていた。連日の死闘による疲労以上に、出口の見えない闇が彼らの心を削っていた。神々との和睦。そのための「糸口」が、どこにも見当たらないのだ。
「……明朝、ここを発とう。オルドヴィアへ……。フェンリルの女王に、もう一度謁見する」
王子の呟きを、笑顔で手を振っていたルカが拾う。彼は即座に真剣な眼差しに戻り、短く頷いた。
翌朝、メルカトリアは嘘のような平和に包まれていた。
活気づく朝市、談笑する人々。魔王軍に勝利した人々の顔は誇らしげだ。その喧騒を背に、銀色の二条の光は既に森を疾走していた。
ブリューの斜め後方、風を切り裂きながらグンは一人、思案に耽っていた。
実は、彼にはこの戦争の発端に心当たりがあった。それを、いつ、どのように伝えるべきか。あるいは、伝えるべきではないのか。
(罪を犯した者が、神である私から「正解」を教わって反省の言葉を述べたところで、それは真の悔い改めではない。欺瞞はすぐに見破られ、和睦への道は永久に閉ざされるだろう……)
人間が、自らの力でその答えに行き着かなければ意味がないのだ。グンは神の視座で、ともに走る「家族」を静かに見守っていた。
「見えてきたぞ!」
カミロが叫ぶ。だが、その後ろで彼にしがみついているルカからは返事がない。極限の連戦による疲労か、結束魔法で身体をガチガチに固定したまま、豪快に仰け反って居眠りを決め込んでいる。
グンが並走し、鼻でルカをつついたが、目覚める気配はない。
「天下の大魔法使い様はいいですねぇ。下々に警戒させて、自分はおねんねだぜ」
カミロの言葉は嫌味っぽいが、その横顔は慈しみに満ちていた。
やがて、山脈の斜面を開拓したオルドヴィアの街並みが姿を現す。
この山頂を越えた裏手に、フェンリルの住処はある。
ブリューが加速を強め、グンがそれを追う。一気に斜面を駆け上がり、オルドヴィアの街の上空を大きく跳んだ。
「こりゃぁ……絶景だなっ!」
珍しく、レオンハルトが弾んだ声を上げた。
「本当だぜ! ルカの奴、居眠りして損したな!」
カミロも風に負けない声で笑う。
ブリューが着地したのは、街の中心に聳える時計台の頂。グンもその隣へと滑り込む。
「……民を鼓舞するのも、戦士の務めだ」
レオンハルトが静かに告げた。
その瞬間、二頭の神獣が天を仰ぎ、猛々しい遠吠えを夜明けの空に響かせた。
「オオォォォォーーーーンッ!」
「オオォォォォーーーーンッ!」
カミロとレオンハルトが矛を天高く突き上げる。
朝日を背負い、時計台に立つその姿は、特別攻撃隊こそが人類最後にして最強の希望であることを、誰よりも力強く誇示していた。




