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ルカ

~特別攻撃隊の紹介~


【レオンハルト】

辺境の小国、オルドヴィア王国の王子。魔王を討つため、特別攻撃隊を編成した。度が過ぎるほどの生真面目。


【グン】

レオンハルトに育てられたフェンリル(神獣の銀狼)の双子の兄。冷静沈着で自信家。


【カミロ】

騎士。故郷の村を魔族に蹂躙された過去を持つ。陽気で荒っぽい。


【ブリュー】

カミロに育てられたフェンリルの双子の弟。好奇心旺盛で無鉄砲。


【ルカ】

魔法使い。奴隷のように働かされていた採掘場から連れてこられた。温和で仲間思い。


挿絵(By みてみん)


空気を焦がすような熱気と、煤けた聖油の臭い。

レオンハルトとカミロが足を踏み入れた聖油の採掘現場は、生きながらにして墓穴を掘らされているような場所だった。

巨大な採掘機械の刃は、絶え間なく強化魔法を掛けられ続けて異様な光を放っている。その横では、泥にまみれた魔法使いが、重力魔法で崩落寸前の岩盤を必死に支え、別の者が枯れ木のような手でポーションを煽り、すぐに仕事へと戻される。仮眠室と呼ばれた場所には、ただの肉塊と化した者たちが死体のように横たわっていた。

「ここから魔法使いを一人貰いたい」

レオンハルトは、視察の案内をしていた現場監督者に淡々と告げた。

監督者は愛想笑いを浮かべながら、揉み手をして答えた。

「王子、そうおっしゃられましても……。彼らは理事国の直轄管理下にあります。ここでの産油量が落ちれば、私の首が飛びます。どうかご理解を……」

次の瞬間、レオンハルトの手が監督者の首を万力のように締め上げた。

「ぐ、がっ……!?」

「断ればお前を殺して、死体の上を越えて一人連れていくだけだ。その場合、お前の首は言葉通り飛ぶことになるが」

「お、王子、よせ……!」

カミロが割って入り、レオンハルトの腕を掴んだ。レオンハルトは無造作に監督者を突き放した。

咳き込む監督者に、レオンハルトは冷徹に追い打ちをかける。

「次の返答に注意しろ。私は王子としての権限を、慈悲のために使うつもりはない。お前の職を奪い、お前の家族、幼い子供に至るまで、今すぐ最前線に送り込むことなど造作もないぞ」

監督者の顔から血の気が引いた。震える指が、仮眠室の隅で蹲っていた一人の痩せた青年を指した。

手に入れた魔法使い、ルカは当初、この地獄からの「救い」が来たのだと信じていた。

しかし、移動の馬車の中で行き先が「前線」だと知った瞬間、彼の顔は絶望に染まった。

「嘘だ……嘘だ! そんな、あそこは貴族たちが金儲けのために維持してる場所だって……。庶民を口減らしにするために……!」

ルカは巷に流れる陰謀論を必死に口にし、自分を納得させようと震えていた。

「黙れ」

レオンハルトがルカの頭を掴み、強引に自らの顔を近づけた。

「魔法使いなら、他人の記憶に干渉する術を知っているな。見ろ。これが貴族の享楽か?」

レオンハルトがルカの掌を自分の額に当てて精神を繋ぐよう強制すると、ルカの脳内に濁流のような映像が流れ込んだ。

空を覆うほどのサイクロプス。紙くずのように引き裂かれる兵士たち。聖油に焼かれ、助けを求めて手を伸ばす断末魔。

「あ、あああぁぁぁ!!」

ルカは白目を剥き、座席の下にうずくまって嘔吐した。

これまで心の支えにしていた、貴族たちの陰謀説という「安っぽい盾」は、レオンハルトの記憶という凄まじい濁流に飲み込まれ、一瞬で粉々に砕け散った。

「まだ……死にたくない……! お願いだ、逃がしてくれ!」

「誰に反抗しているか理解しているか? 国家反逆罪という罪名は知っているか?」

レオンハルトは、足にしがみついて泣き叫ぶルカを見下ろし、靴の裏でその顔を床に押し付けた。

「このまま首刑台送りにしてもいい。だが、仕事をするなら食い扶持と、生き残るための『猶予』を与える」

レオンハルトは、呆然とするルカの襟首を掴み、無理やり座らせると、壁に立て掛けた一対の矛を抱えさせた。

「お前の仕事は二つ。一つは、この長短二振りの『矛』の強化だ。もう一つは、鎧の下に仕込ませる魔法の緩衝材だ。鉄の硬さでは、奴らの暴力は防げない。一年だ。一年で、この矛を魔王軍の喉笛を食い破る『牙』に作り替えろ」

その言葉は、もはや王子としての命令ではなく、死神との契約のように響いた。

嘔吐の残滓を拭うこともできぬまま、ルカは理解した。

目の前の男は、自分を「人間」として連れ出したのではない。採掘場で使われていたツルハシや、ポーションの空き瓶と同じ――あるいはそれ以下の「使い捨ての部品」として買い取ったのだ。

(……逃げられない)

これまでルカは、採掘場の地獄から自分を救い出してくれる「誰か」を夢想していた。だが、現れたのは救世主ではなく、地獄のその先にある、虚無の深淵を体現したような男だった。

頭上を覆うレオンハルトの声に、自分への慈悲など一滴も含まれていない。そこにあるのは、魔王を討つという目的に対する異常なまでの執着と、自分をそのための「燃料」としか見ていない冷酷な計算だけだ。

「国家反逆罪か、魔族の餌か。選べ」

その低い声が、ルカの逃げ道を一つずつ、丁寧に、そして冷酷に塞いでいく。

自分を縛っていた採掘場の監督者たちは、まだ「聖油」という利益のために自分の命を惜しんでいた。だが、この王子は違う。目的のためなら、自分を、そして自分自身の命さえも、瞬き一つせず使い潰すだろう。

(死ぬんだ。どっちを選んでも、僕はもう、死んでいるんだ……)

「……やり、ます」

喉の奥から絞り出した声は、自分自身の葬列を見送る声のようだった。

ルカは震える手で、冷たい鉄の矛先を見詰めた。

この矛先を研ぎ、強化し、あの絶望的な怪物の肉を断つための「牙」に変える。それは、自分の死を形作る作業に他ならない。

(助けて、なんて言える相手じゃない。この人は、僕の『死』に意味を持たせようとしているだけだ)

ルカは顔を上げることができなかった。

ただ、震える指先で鉄の冷たさを確かめながら、これから始まる「一年」という名の処刑までの猶予に、静かに身を委ねるしかなかった。

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