カミロ
~特別攻撃隊の紹介~
【レオンハルト】
辺境の小国、オルドヴィア王国の王子。魔王を討つため、特別攻撃隊を編成した。度が過ぎるほどの生真面目。
【グン】
レオンハルトに育てられたフェンリル(神獣の銀狼)の双子の兄。冷静沈着で自信家。
【カミロ】
騎士。故郷の村を魔族に蹂躙された過去を持つ。陽気で荒っぽい。
【ブリュー】
カミロに育てられたフェンリルの双子の弟。好奇心旺盛で無鉄砲。
【ルカ】
魔法使い。奴隷のように働かされていた採掘場から連れてこられた。温和で仲間思い。
城の一画、窓のない石造りの会議室。
そこには、レオンハルトと共に馬車で帰還した数人の男たちが、重苦しい沈黙の中で円卓を囲んでいた。みな、かつての輝かしい勲章を泥と血で汚した、前線の生き残りだ。
扉が開き、顔を包帯で覆ったレオンハルトが入室すると、男たちは弾かれたように起立し、音を立てて敬礼を返した。レオンハルトの視界の端で、一人の兵士の指先がわずかに震えている。それは寒さでも恐怖でもなく、極限の緊張が解けぬまま肉体に焼き付いた戦慄だった。
「座れ」
レオンハルトは短く告げると、卓上に古い地図を広げた。
「共に最前線で戦った君たちには不要な説明だが、あえて言わせてくれ。……民衆が夢見ている『膠着状態』など、もはやどこにも存在しない。人類は繁殖力と進化の速度だけで魔族を圧倒してきたが、それも聖油による一時的な優位に過ぎなかった。誰もが聖油の力で魔族を駆逐できると信じ、怠惰に浸ってきた。その代償を、今、我々が払わされている」
レオンハルトの声には、冷たい刃のような響きがあった。
「奴らにとって、我々は異常な速度で増殖し、聖油を撒き散らして世界を塗り替える害虫だ。奴らが村を作る間に、我々は国を建てる。だからこそ、奴らは種の本能として我々を根絶やしにすることに決めた。成長の遅い魔族にとって、ここで人類を叩かなければ自分たちが滅ぼされるからだ」
男たちは黙って頷いた。彼らが前線で見たのは、聖油で動く自慢の機械兵器が、知能を得た魔族の戦術によって次々と鉄屑に変えられていく現実だった。
「だが、弱点はある。魔王軍を動かしているのは、一握りの長寿で知能の高い幹部たちだ。末端の兵がいくら強大でも、頭脳を失えばただの烏合の衆と化す。私の狙いは、軍を率いる魔王軍幹部の暗殺。そのための、独自編成による特別攻撃隊だ。正面から戦えば、確実に全滅する。ならば、心臓だけを狙う小さな針になるしかない」
レオンハルトは地図の一点を、穴が開くほど強く拳で叩いた。
「この隊は、生きて戻ることを想定しない。志願する者は残ってくれ」
レオンハルトは、あえて彼らの目を見なかった。去りゆく友の顔を覚えることは、残された者にとっての救いにはならないからだ。
沈黙。それは限界まで擦り切れた男たちの、精一杯の拒絶だった。一人、また一人と、椅子を引く重い音が響き、兵士たちは部屋を去っていく。
最後に残ったのは、痩せこけた体躯に鋭い眼光を宿した男、カミロだけだった。
「……残ったか、カミロ」
「俺の故郷は、知能の低い魔族どもの遊び場にされたんですよ」
カミロは震える手でタバコに火をつけようとして、やめた。マッチの軸が折れ、乾いた音が室内に響く。
「あいつらは、女、子どもをどう扱えば一番大きな声で鳴くかを楽しんでいた。知能が低いからこそ、残酷さにも底がない。俺には、もう帰る場所も、守るべき相手もいません。あるのは、奴らの喉笛を食いちぎりたいという飢えだけだ」
カミロはそこまで一気に捲し立てると、ふっと自嘲気味に鼻で笑い、レオンハルトを睨みつけた。
「だがな、王子。あんたの理屈は立派だが、現実はどうだ? 結局、残ったのは俺一人だ。あんたと合わせて、たった二人だぜ? たった二人の『特別攻撃隊』で、何ができるってんだ。笑わせるな」
レオンハルトは、カミロの言葉を否定しなかった。ただ、その瞳には、絶望を燃料に変えて燃え続けるような、暗い光が宿っていた。
「……何人なら満足した?」
その乾いた問いにカミロは答えられなかった。仮に今日集まった全員が特別攻撃隊に志願したとしても到底勝機があるとは思えなかったからだ。
長い沈黙の後、カミロは再び自嘲気味に鼻で笑い、レオンハルトと同じ瞳を返した。
「勝てるから戦うんじゃない……か。」




