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決戦前夜

~特別攻撃隊の紹介~


【レオンハルト】

辺境の小国、オルドヴィア王国の王子。魔王を討つため、特別攻撃隊を編成した。度が過ぎるほどの生真面目。


【グン】

レオンハルトに育てられたフェンリル(神獣の銀狼)の双子の兄。冷静沈着で自信家。


【カミロ】

騎士。故郷の村を魔族に蹂躙された過去を持つ。陽気で荒っぽい。


【ブリュー】

カミロに育てられたフェンリルの双子の弟。好奇心旺盛で無鉄砲。


【ルカ】

魔法使い。奴隷のように働かされていた採掘場から連れてこられた。温和で仲間思い。


挿絵(By みてみん)


一行は空を覆い尽くす星々の下、海岸沿いの山道を駆け抜けていた。

ついに、この日がやって来たのだ。

早朝の寒空の下、焚き火を囲む一行の元に使者が現れた。最前線が崩壊し、魔王軍が中央王都への侵攻を開始したという凶報――。

それは人類絶滅へのカウントダウンが始まったことを意味する最悪の報せだった。だが、レオンハルトはこの瞬間を待っていた。全軍が侵攻に回る今こそ、城塞の守りが最も薄くなる。この絶望の日にこそ、唯一の勝機を見出していた。

グンの背の上、振り落とされぬようレオンハルトの腰にしがみつきながら、ルカは女王に謁見したあの日の出来事を思い出していた。

『レオンハルト。お前は死に場所を求めて彷徨う哀れな人間に過ぎぬ。今のままでは、お前はただの壊れた道具だ』

女王は神と人間の違いを「愛を知っているか否か」だと言った。

もし、この旅が神から愛を教わるためのものだったのなら。心を壊したレオンハルトとカミロが、人間らしい心を取り戻すための旅だったのなら。

(もう、目的は果たしているじゃないか……。死地に飛び込む必要なんてない。このままどこか遠くへ逃げて――)

そこまで考えて、ルカは激しく自分を諌めた。言えるわけがない。彼ら自身が決めた、魂を賭けた戦いを否定することなんて、誰にもできはしないのだ。

ルカは肩の震えを悟られぬよう、必死に涙を堪えることしかできなかった。

徐々に、駆ける速度が落ちていく。

ルカが涙を拭い、レオンハルトの背中越しに前方を仰ぐと、一行は山道から浜辺へと続く急な坂を下っていた。

漁民に扮した使者に案内された先は、微かに明かりの灯る冷たい洞窟だった。

四人の険しい表情を少しでも和らげたくて、ルカは無理に明るく振る舞った。リュックから、この日のために大切に取っておいたとっておきの食糧を取り出す。

「ブリューの大好きな鶏の甘辛煮もあるぞ~! さぁ、準備するからね」

だが、食事の支度をするルカをよそに、レオンハルトは迷わず地図を広げた。

三人は作戦を指揮するレオンハルトの言葉に神経を研ぎ澄ませ、食事に目を向ける空気はない。彼らはもう、完全に「戦場」にいた。

「ここから崖伝いに魔王軍の城塞の真下を目指す。海獣がうろついているが、相手にする必要はない。極力、崖の棚を進み、泳ぐ距離は最小限に抑える」

「今夜は……ここに泊まるんだよね?」

急な不安に襲われ、ルカは確認するように声を震わせた。

レオンハルトは地図から目を上げず、淡々とした声で答えた。

「あぁ、そのつもりだ」

(なんて間抜けなことを聞いているんだ、僕は……)

黙々と、今生の別れになるかもしれない食事の支度をしながら、ルカの目からは勝手に涙が溢れ出した。止めたくても、止まらない。

(何をやっているんだ僕のバカ! 最後くらい、笑って見送れよ!)

心で自分を叱咤すればするほど、視界は滲んでいく。

その時、濡れた感触が頬に触れた。

グンが大きくて薄い舌で、ルカの顔を優しく舐め上げたのだ。続いてブリューも、鼻を鳴らしながら反対側の頬を舐める。二人に代わる代わる顔を舐められ続け、ルカは泣きながら吹き出した。

「く、くすぐったいよ。やめろよ、二人とも……」

「今夜はしっかり食べて寝て、体力を温存しろ。明朝出発する」

一番聞きたくないはずの言葉が、強がっていたルカの心臓を鋭く貫いた。胸が締め付けられ、もう声が出ない。

ルカは無理やり笑顔を作った。そして、自分を労わるように見つめる、あの透き通った黄金の瞳をじっと見据える。

この世で最愛の、僕の二人の神獣。

ルカは祈りを込めるように、グンとブリューの額にそっと唇で「刻印」を刻んだ。

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