制圧作戦②
~特別攻撃隊の紹介~
【レオンハルト】
辺境の小国、オルドヴィア王国の王子。魔王を討つため、特別攻撃隊を編成した。度が過ぎるほどの生真面目。
【グン】
レオンハルトに育てられたフェンリル(神獣の銀狼)の双子の兄。冷静沈着で自信家。
【カミロ】
騎士。故郷の村を魔族に蹂躙された過去を持つ。陽気で荒っぽい。
【ブリュー】
カミロに育てられたフェンリルの双子の弟。好奇心旺盛で無鉄砲。
【ルカ】
魔法使い。奴隷のように働かされていた採掘場から連れてこられた。温和で仲間思い。
修行の仕上げとして選ばれたのは、遮るもののない開けた平野でのスパーリングだった。
レオンハルトが仮想敵である魔王軍の幹部役を担い、左翼にカミロを乗せたブリュー、その少し斜め後ろにルカを乗せたグンが右翼を担う。一年間、来る日も来る日も繰り返してきた基本陣形だ。
左翼が牽制し、隙を突いて右翼がトドメの一撃を叩き込む。
数えきれないほどのコンビネーションを、彼らは一つずつ丁寧に復習していった。
復習が何周目かに差し掛かった、その時だった。
ブリューが、これまでの教えとは明らかに異なる動きを見せた。突進の途中で不自然にかがみ込み、鋭くバックステップしてから、改めて踏み込み直したのだ。
「おい、集中を切らすな! やり直しだ!」
背に乗るカミロが即座に檄を飛ばしたが、ブリューは指示に従わなかった。それどころか、何度も、何度も頑なに同じ動きを繰り返す。
カミロはブリューの背から飛び降りると、額を突き合わせるほどの距離で激昂した。
「どういうつもりだブリュー! 最後の最後でわがままを言うんじゃねえ!」
だが、顎を掴んで考え込んでいたレオンハルトが、鋭い声でそれを制した。
「待て、カミロ。……ブリューは、フェイントが必要だと訴えているんだ」
カミロは絶句したが、すぐに激しく反論した。
「今さら基本戦術を増やすってんですか! 中途半端な小細工は敗因になる!」
「確かに、全ての型にフェイントを組み込む時間はない。だが……実戦でフェイントが必要になる場面が来ないとも言い切れないだろう」
「それを言い出したらキリが――」
捲し立てようとしたカミロの背中を、ブリューの鼻先が力強く小突いた。
「なにしやがる、てめえ!」
生まれて初めてブリューが見せた、明確な反抗だった。その瞳に、いつもの甘えた「あくび」を誘うような態度はない。
『俺はできる。やらせろ』
黄金の瞳は、そう雄弁に語っていた。
「……ブリューがそこまで言うなら、やってみよう。グン、合わせられるか?」
レオンハルトの問いに、グンは短く、力強く吠えて応えた。
「ブリューがバックステップした瞬間、お前もバックステップで距離を保て。その分、踏み込みはさらに深く、鋭くなるぞ」
グンは「当然だ」と言わんばかりに再び吠えた。
カミロはまだ納得がいかない様子だったが、レオンハルトが静かにその肩に手を置いた。
「カミロ、お前の懸念はもっともだ。だが、この戦いは泣いても笑っても最後になる。……二人にとってもな。悔いのないよう、挑ませてやろう」
王子の言葉に、カミロは大きく息を吐き、ようやく腹を括った顔を見せた。
いつの間にか四人は、種族の壁を超え、言葉を介さずとも対等に語り合う戦友となっていた。
ブリューが隣のグンに視線を送る。その目は、俺のわがままを聞いてくれてありがとう、と伝えていた。
グンは自慢げに鼻を鳴らし、「当たり前だろう、兄弟」と答えた。




