上陸作戦①
~特別攻撃隊の紹介~
【レオンハルト】
辺境の小国、オルドヴィア王国の王子。魔王を討つため、特別攻撃隊を編成した。度が過ぎるほどの生真面目。
【グン】
レオンハルトに育てられたフェンリル(神獣の銀狼)の双子の兄。冷静沈着で自信家。
【カミロ】
騎士。故郷の村を魔族に蹂躙された過去を持つ。陽気で荒っぽい。
【ブリュー】
カミロに育てられたフェンリルの双子の弟。好奇心旺盛で無鉄砲。
【ルカ】
魔法使い。奴隷のように働かされていた採掘場から連れてこられた。温和で仲間思い。
その日の夜、ルカはさっそく包みを開き、手に入れたばかりの矛に強化魔法を練り込み始めた。
ふと横を見ると、王子とグンが抱き合って眠っている。あんなに小さかったグンは、いつの間にか王子より一回り大きくなっていた。今では逆に、王子が大きな毛並みに抱かれているように見える。
風の音に耳を澄ませて夜番をするカミロとブリュー。なかなか寝ようとしないルカを案じてか、ブリューが「寝ないのか?」とでも言いたげに湿った鼻先を押し付けてきた。
「月明かりの下で魔法を練り込むのが、一番精度が高まるんだ。もう少ししたら寝るよ」
ルカは銀色に光る矛先を見つめた。
自分は彼らを死地に送り込むために武器を研いでいるのか、それとも守るために研いでいるのか。作業の手を止めれば、彼らの「寿命」は延びるのだろうか。
(いや……いずれ人類は蹂躙される。それでは遅すぎるんだ)
ただ、死んでほしくない。四人の命を慈しむ一心で、ルカは魔力を指先に込めた。
武器を手に入れてからも、修行の旅は続く。
殿で地図を広げ、一行を導くのはレオンハルトだ。昼下がり、一行は深い山中にある滝へと辿り着いた。
「本当にこの道で合っているのか?」
カミロが訝しげに尋ねると、王子は足を止め「合っている」と短く答えた。
「ジャジャーン!」
そこでルカが、興奮気味に一本の瓶を取り出した。
「王子にお願いして買ってもらった、騎馬用特製エーテルシャンプーでーす! 毛の導魔率を高めて、保護魔法を定着させるんですよ。二人だけ鎧があるのは不公平でしょう? グンとブリューの体も、これで守るんです」
ルカは服を脱ぎ捨てながら、二人を急かした。
「ほら、グン、ブリュー、行くぞ! 水浴びだ!」
三人が水しぶきを上げて滝壺へダイブするのを、王子とカミロは微笑みながら見下ろしていた。
いつしか遊びは訓練に変わり、グンがルカを背中に乗せ、激しい川の流れに逆らって泳ぎのトレーニングを始める。
「……あれはなかなか良い訓練になるな」
焚き火を囲んで焼き魚を頬張りながら、レオンハルトが呟いた。
「魔王軍の城塞は断崖の際に建てられている。敵に察知されずに侵入するためには崖伝いに舟を進め、素早く崖を駆け上がる必要があるが、……二人が泳ぎをマスターすれば舟はいらない。隠密の機動力も上がる。」
「なるほどな。おいルカ! もっとやらせろ!」
カミロが容赦ない檄を飛ばす。
水流に逆らうトレーニングは日が落ちるまで続き、ようやく川辺に上がると、泳いでいた二人よりも、ルカの方が疲労困憊だった。
そこでグンとブリューが「ブルブルッ!」と勢いよく体を震わせる。あたりに水しぶきが飛び散り、せっかくの焚き火が消えた。
突然の暗闇の中でカミロに叱られてシュンとする二人。だが、その滑稽な姿にすぐ笑いが漏れた。
ルカは風魔法で豪快に二人の体を乾かすと、手にたっぷりのエーテルシャンプーを取り、マッサージするように丁寧に保護魔法を塗り込んでいった。
グンもブリューもうっとりと目を細め、実にうやうやしくルカに身を預けている。
この水流に逆らうトレーニングは、滝に着くたびに行われる恒例行事となった。
マッサージをするルカの掌は、日に日に彼らが大きく、逞しくなっていくのを実感していた。当然、シャンプーの減りも早くなる。
王子にせがむと、彼は快く追加発注に応じてくれた。二人の安全のためという名分もあるが、それと同じくらい、シャンプーをした後の二人は驚くほどさらさらでふわふわになり、夜の抱き心地が抜群に良くなるのだ。
一週間も経つと、シャンプーの香りと彼ら自身の体臭が混ざり合い、極上の香りを放つようになる。清潔な石鹸の奥に、陽だまりに干した藁のような、どこか懐かしく温かな獣の匂い。
その香りに包まれて眠るひとときだけは、戦いも、使命も、遠い世界の出来事のように思えた。




