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あくびの意味①

~特別攻撃隊の紹介~


【レオンハルト】

辺境の小国、オルドヴィア王国の王子。魔王を討つため、特別攻撃隊を編成した。度が過ぎるほどの生真面目。


【グン】

レオンハルトに育てられたフェンリル(神獣の銀狼)の双子の兄。冷静沈着で自信家。


【カミロ】

騎士。故郷の村を魔族に蹂躙された過去を持つ。陽気で荒っぽい。


【ブリュー】

カミロに育てられたフェンリルの双子の弟。好奇心旺盛で無鉄砲。


【ルカ】

魔法使い。奴隷のように働かされていた採掘場から連れてこられた。温和で仲間思い。


挿絵(By みてみん)


舐めていた。遺跡探索以前に、そこへ至る道のりがこれほど険しいとは。

ゴーレムが眠るとされる王家の遺跡は山の頂上に位置し、そこから垂直に近い断崖を降りた先にある。レオンハルトとカミロは矛を岩肌に突き刺して支えにし、グンとブリューもその矛を足場にして器用に跳ねながら下っていく。

「……待って、置いていかないで……っ!」

ルカは手足に強化魔法を固め、岩にしがみついてずり落ちるのが精一杯だった。瞬く間に四人の姿は見えなくなる。落ちたら即死。その恐怖に震えながら、ようやく辿り着いた遺跡の入り口には、人影一つなかった。

「王都の駐屯部隊……いないんですか……」

ルカが遺跡に降り立った姿を見てレオンハルトとカミロが休む間もなく洞窟のような入口の階段を降りていこうとしたため、ルカは膝を震わせながら必死に制止した。

「待ってください、一休みさせてください! 強化魔法を掛け直してからじゃないと危ないです」

「ならば今すぐ掛けろ」

「無理ですよ! さっきの崖降りで、指先まで魔法を流しすぎて感覚が麻痺してるんです。このままじゃ精密な強化は使えません。少しだけ休ませて……!」

ルカの必死な訴えに、レオンハルトはようやく足を止めた。仕方なく手頃な石柱の土台に腰掛ける一行。ルカが震える手で水筒から温かい紅茶を注ごうとした、その時だった。

突如として大地が鳴動した。

広場を囲んでいた石柱が地中に沈み込み、上空から巨大な影が降り注ぐ。岩壁の一部が崩れ落ち、それが意思を持つように組み合わさって、巨大な岩の巨人――ゴーレムへと変貌した。

駐屯部隊がいない本当の理由を、ルカは理解した。入り口前の広場そのものが、侵入者を圧殺する巨大な罠なのだ。

「……臨戦態勢! 陣形を組め!」

レオンハルトの鋭い声。カミロとブリューが左、レオンハルトとグンが右に位置取る。

「こりゃあ、長期戦になりそうだな」

カミロが低く呟いたが、二人には臆する様子もない。しかし、初めての「強敵」を前にしたフェンリルの双子は殺気立ち、かかり気味だった。

「待て、ブリュー!」

カミロの制止も聞かず、ブリューが陣形を無視してゴーレムの巨体を駆け上がった。

カミロが慌てて足元に牽制を叩き込み、ゴーレムの踏み付けを寸前でかわす。その隙を逃さず、レオンハルトが矛で痛烈なアッパーを突き上げた。硬質な衝撃音と共に、巨大な足の親指が宙を舞う。ブリューとは対照的にグンは、レオンハルトの背後にぴたりと控え、陣形を保っている。

巨体を駆け上がったブリューがゴーレムの視界に入った瞬間、大きく開いた口がブリューを飲み込もうと襲い掛かった。寸前なんとかそれを回避したブリューだったが、体勢を崩して落下する。それを下から飛びついたグンが受け止め、床への叩きつけを防いだ。

そこからは執拗な「解体」が始まった。

四人は左旋回で間合いを詰め続け、矛で削っては下がるヒットアンドアウェイで、手の指、肘、足の指、膝と関節をことごとく破壊していく。

四肢を失い、胴体だけになったゴーレムが土埃を上げて倒れ込むと、目から光線を乱射して足掻き始めた。

「……っ、うわぁ!」

ルカのすぐ横の岩が、光線を受けてドロドロのマグマのように溶け落ちる。それを見たルカは自分が強化魔法を掛けただけの鎧ではひとたまりもないと知る。

「光線に当たると死ぬぞ!」

ルカの声が聞こえたのか分からないが、四人は左旋回しながら間一髪のところで光線を避けている。奥歯を強く噛み締め、ルカは祈るように見守ることしかできない。

レオンハルトが隙を見て頭頂部に登り、矛を突き刺して支えにすると、拳骨を連打し始めた。

確かに鎧の拳部分にもルカの強化魔法が掛かっているが、そんな攻撃がゴーレムに通用するのか分からない。

それでもこれしか勝てる見込みがないのだと素人のルカにも分かる。

どれほどの時間が過ぎたのか、もはやルカには分からなかったが、徐々にゴーレムの足掻きはおとなしくなっていき、やがて巨体はただの石の山に還った。

安堵してどっと疲労困憊が返ってきたルカをよそに、カミロの怒鳴り声が響いた。

「ブリュー! お前、何を考えてやがる!」

陣形を崩したブリューを、カミロは容赦なく叱り飛ばした。ブリューは耳を伏せ、シュンと小さくなって這い蹲る。レオンハルトもグンも、厳しい表情でその光景を黙って見守っていた。それが命に関わる失態だと分かっているからだ。

「カミロさん、もうそのへんで……」

ルカが止めに入ろうとした、その時。ブリューがふわりと大きなあくびをした。

「……てめぇ、この期に及んであくびだと!? 反省の色もねえのか!」

カミロが激昂し、拳を振り上げると、グンがさっとグリューの隣に駆け寄って、カミロに対してふわりと大きなあくびをした。

カミロはその行為の意味が分からず困惑したが、レオンハルトが何かを悟った。

「……待て、カミロ。それは、謝っているのではないか?」

「あぁ?」

「あくびには『敵意がない』『リラックスしてくれ』という意味がある。……もう怒らないでくれ、と伝えているんじゃないのか」

カミロは振り上げた拳を止めた。「……そうなのか?」と聞くと、ブリューとグンはまたあくびをする。

「……そうか。あくびが反省の印かよ。ったく、紛らわしい奴らだ」

カミロは毒気を抜かれたように拳を下ろした。「まあ、今日のところは許してやる。だが、次はねえぞ」

ブリューは安堵したように尻尾を一振りすると、逃げるようにルカの足元で丸まった。

遺跡の広間に、緊張で忘れていた冷たい風が吹き抜ける。離れた場所で見つめ合うブリューとグンの間には、初めて共に強敵を打ち破った自信と結束が漂っていた。

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