護るべき者
~特別攻撃隊の紹介~
【レオンハルト】
辺境の小国、オルドヴィア王国の王子。魔王を討つため、特別攻撃隊を編成した。度が過ぎるほどの生真面目。
【グン】
レオンハルトに育てられたフェンリル(神獣の銀狼)の双子の兄。冷静沈着で自信家。
【カミロ】
騎士。故郷の村を魔族に蹂躙された過去を持つ。陽気で荒っぽい。
【ブリュー】
カミロに育てられたフェンリルの双子の弟。好奇心旺盛で無鉄砲。
【ルカ】
魔法使い。奴隷のように働かされていた採掘場から連れてこられた。温和で仲間思い。
三日掛けてようやくルカが掲げた過酷な条件を満たす矛と鎧を制作できる工房を見つけ出した。提示された金額は目が飛び出るほど高額だったが、レオンハルトの目配せにルカが頷きを返すと、彼は眉一つ動かさず、金貨の入った小袋を次々取り出しては金盆の上で逆さにしていった。商人の顔がパッと明るくなる。
(とうとう自分の仕事が始まったのだ……)
ルカは金盆に平らに並べられていく大量の金貨を眺めながら身の引き締まる思いだった。
宿に戻ると、一息吐く間もなくレオンハルトは机の上に古びた地図を広げた。
「武具が仕上がるまでの間、無為に過ごす時間はない。王都をたち、各所で実戦訓練を行なう。」
グンとブリューも作戦会議に参加したいのだろう。膝を前足でトントン叩いてきたので、ルカは二人を抱え上げて、レオンハルトが指差した箇所を見下ろさせる。
「まずはここ。……ここは、ゴーレムが眠るとされる王家の遺跡だ。」
「遺跡!? 冗談でしょう!」
ルカが悲鳴を上げた。
「そこ、荒らせば呪われるって言われている場所ですよ。もっとまともな修行場があるはずです、他を当たりましょう!」
「呪いか。……どうせ死地へ向かう身だ。今さら呪われたところで、何が変わる」
「呪いと、魔族に踏み潰されてひき肉にされるのと、どちらがマシか考えてみろ」
あまりに合理的で、あまりに絶望的なレオンハルトとカミロの言葉に、ルカは反論の術を失った。一年を待たずしてここで死ぬのかと、彼は深く落胆し、天を仰いだ。
二人が熱心に作戦会議を始めたため、ルカは気分転換を兼ねてグンとブリューを連れ、王都の散歩に出かけることにした。
今日も二頭の愛くるしい姿は街の人々に大人気だった。しかし、昨日とは何かが違っていた。
街を守る近衛騎士団の一行が、騎馬の蹄を鳴らして通り過ぎた時のことだ。
穏やかだったグンとブリューが、突如として毛を逆立て、低く唸りながら騎士たちを威嚇したのだ。
「こら、ダメだよ! 静かに!」
必死に宥めるルカ。騎士団は一瞥をくれただけで相手にしなかったが、ルカは肝が冷える思いだった。
内緒で甘辛煮の鶏肉を買い与えて機嫌を取り、宿に戻ると、レオンハルトとカミロはまだ地図と睨み合っていた。
「……少し休みませんか」
ルカが淹れた紅茶を差し出すと、カミロがふぅと息を吐いてカップを手に取る。休憩がてら、騎士団に吠えた件を話すと、カミロは意外な答えを返した。
「そりゃ、ルカ。お前が弱いからだぜ」
「えっ、僕のせい?」
「俺たちと一緒にいる時は吠えなかった。それは、俺たちが騎士団とやり合っても負けないと、こいつらが本能で理解してたからだ。だが……お前一人の時は違った。お前が戦えば負ける。だから、こいつらが先に威嚇して、お前を護ろうとしたのさ」
カミロの説明を聞き、ルカは目を見開いた。
足元で無邪気にじゃれ合っているグンとブリュー。
「……そうだったのか。ありがとう、僕を護ろうとしてくれたんだね」
改めて二人を愛おしそうに撫で回す。だが、「明日にはここをたつぞ、準備しろ」というレオンハルトの声に、一瞬で現実に引き戻された。
「グンもブリューも、まだここにいたいよな?ふかふかのお布団で寝たいよねー」
ルカが仲間に引き込もうとするが、二人はキョトンとしたまま首を傾げている。この旅の果てにある過酷な運命を知っているのか、いないのか。
夜、身支度を終えたルカが窓を開けて月明かりを眺めていると、心に一抹の寂しさがよぎった。黄昏れる彼の膝元に、心配そうにグンとブリューが寄り添ってくる。
(……やっぱり、カミロさんの言った通りだ)
四つの黄金の瞳には、打算も恐怖もない。ただ、自分を案じる純粋な光が宿っていた。
「ごめんね。しっかりしなきゃ、だよね」
ルカは拳を握り、覚悟を決めた。
明日から始まる、修行の日々。それは、この温かな瞳を護るための、本当の「戦い」への一歩だった。




