レオンハルト
~特別攻撃隊の紹介~
【レオンハルト】
辺境の小国、オルドヴィア王国の王子。魔王を討つため、特別攻撃隊を編成した。度が過ぎるほどの生真面目。
【グン】
レオンハルトに育てられたフェンリル(神獣の銀狼)の双子の兄。冷静沈着で自信家。
【カミロ】
騎士。故郷の村を魔族に蹂躙された過去を持つ。陽気で荒っぽい。
【ブリュー】
カミロに育てられたフェンリルの双子の弟。好奇心旺盛で無鉄砲。
【ルカ】
魔法使い。奴隷のように働かされていた採掘場から連れてこられた。温和で仲間思い。
薄暗い酒場の隅で、安酒を煽る男たちがいた。
「……結局、聖油の増税だってよ。また理事国の連中が私腹を肥やす口実さ」
男は脂ぎった指でテーブルを叩き、吐き捨てるように続けた。
「最前線が危ないなんてのは、連中が作ったお伽話だ。本当の地獄ってのは、戦場じゃねえ。この国の増税と搾取のことだよ」
その声に、周囲の酔客たちが同調して拳を振り上げる。窓の外では「戦争反対」「増税撤回」を叫ぶデモ隊の足音が地響きのように鳴り響いていた。
しかし、大陸の最果て――。
そこには、酒場の男たちが口にした「地獄」という言葉が、あまりに滑稽に思えるほどの現実があった。
「来るぞ! 衝撃に備えろ!」
轟音と共に大地が爆ぜる。土煙の向こうから現れたのは、城壁を見下ろす巨躯を持つサイクロプスだった。
最前列の兵士が声を漏らす暇もなく、振り下ろされた巨大な拳が、人間を文字通り「紙くず」のように踏み潰し、吹き飛ばす。
聖油を燃料とする巨大な自動歩兵機が蒸気を吹き上げ、青白い光を放ちながら砲撃を叩き込むが、魔族の皮膚をわずかに焦がすことすらできない。
巨大兵器は玩具のように片手でへし折られ、漏れ出した聖油が炎上して周囲を焼き払う。そこには利権も陰謀もなく、ただ圧倒的な「暴力」による種の蹂躙だけが続いていた。
数週間後。辺境の小国の城門に、一基の馬車が滑り込んだ。
運び出されたのは、かつての勇壮な面影を失った、血と泥にまみれた男たちだった。
「父上、ただいま戻りました」
玉座の間。老いた王の前に膝をついたのは、顔の左半分を無惨に潰され、包帯から血を滲ませた王子、レオンハルトだった。
レオンハルトの頭の中には、自分を労う父の震える声、そして背後で泣きじゃくる兄の子供の泣き声が、ひどく耳障りな雑音として響いていた。
レオンハルトは、欠け落ちた視界の端で、自分の報告を呆然と聞く父を見つめていた。
兄がひき肉のように踏みつぶされたあの瞬間から、レオンハルトの心の一部は、氷のように冷たく固まっていた。悲しみすら、生き残るための生存本能によって、疾うに削ぎ落とされていた。
「……兄上は戦死しました。私の目の前で。連合軍の戦線はすでに崩壊しています。我々がいくら聖油を掘り、工場を建てたところで、あの怪物たちには通用しません。このままでは、連合軍は遠からず全滅します」
レオンハルトの声は低く、平坦だった。
(絶望を語っているのではない。ただの「事実」だ。このまま座して死を待つか、それとも勝算のない戦いへ挑むか。選択肢など最初からない)
「レオンハルト……。もうよい、下がれ」
老王が絞り出すような声で諭した。
「お前は生き残った。この国に残り、傷を癒し、次に生まれてくる子のために尽くせ」
その言葉に、レオンハルトの右目が、自分の帰還を泣いて喜んでいる妻の、大きく膨らんだ腹に向けられた。
(次に生まれてくる子、か)
その瞬間にレオンハルトを襲ったのは、守りたいという愛おしさではなく、暴力的なまでの「責任感」だった。
この子が産声を上げる世界に、魔族が蹂躙する大地を残してはならない。父親として、あるいは王子として、死んでも果たさねばならない「義務」が、彼の腹の底で熱く煮え立っていた。
「いいえ。私は戻ります。ですが、次は連合軍の兵士としてではありません」
(これまでの戦い方は間違っていた。巨大な兵器も、数だけの軍隊も、あいつらには無意味だ。ならば、刺し違えてでも喉元を食い破る刃が必要だ)
「私は、私自身の部隊を編成します。民が何を叫ぼうと、理事国が何を企もうと、もはやどうでもいい。人類の未来を守るために、この世から魔族を一匹残らず消し去る。そのために、私は特別攻撃隊を率いて魔王を倒しに行きます」
嘆き悲しむ家族の声を背中で聞き流しながら、レオンハルトは一度も振り返ることなく、広間を後にした。
彼の心には、すでに愛や慈しみなどは残っていなかった。ただ、未来を守るという一点のみに特化した、冷徹な闘争心だけが彼を動かしていた。




