【白蛇】エピローグ
——音がない。
光も、時間も、境界もない。
ただ律だけが在った。
ステラの魂は、再びレメルの懐へと還っていた。
その毛並も姿も持たぬまま、無数の光の一滴として、果てしない宇宙の呼吸に溶けていく。
「なんとか、持ち直したみたいミュね」
レメルの声は、光よりも静かに震えた。
「ミナは……まだ地で生きてるキュ。彼女の光が、森を守ってるキュ。ノーチスも、もう争わないキュ。
ボクも、あの世界に戻るキュ」
「それでいいミュ。——世界は閉じず、また繋がるミュ。
ステラの律は、もう一度、星々の調べに還るミュ」
レメルの手が虚空を撫でた。そこに、ひとつの波紋が生まれる。それはやがて音となり、風となり、祈りとなって——無数の世界へと広がっていく。
どこか遠い惑星の森で。どこか別の空で。無数の命たちが同じ言葉を口にしていた。
「きゅうん、あの世じゃないキュ!」
「きゅうん、あの世じゃないキュ!」
「きゅうん、あの世じゃないキュ!」
その声は笑いにも祈りにも似て、星々のあいだからこだました。世界は終わらない。救いは終わらない。
——欠けた音がある限り、律は再び編まれるのだから。
光の環がゆるやかに閉じる。それは、ひとつの物語の終わりであり、無数の命の始まりだった。
そして、その中心で——小さな声が、また世界を開いた。
「お願いだキュ。はやく、あの子を助けて!」
——その声音は、鈴を震わせる如く澄んでいた。




