【書き手:ウィズ】プロローグ
「ちょっとまってよ~」
足元の頼りない苔を踏みしめながら歩く。そろそろ疲れがでてきたぞ……。目の前には額にルビーのような石が光る、アイスブルーの毛並みを持った兎だかリスのような不思議な生き物。それはまるで案内するかのように私の前方を歩く。私は誘われるようにして森の奥へと歩を進めている。どれくらい歩いただろうか。不意に目の前が白く開け、一瞬のまぶしさに眩暈を覚えた。
そこは、まるで世界から切り取られたかのような、陽光に満たた小さな円形の広場だった。
「ステラ!!」
凛とした、それでいてどこか幼さを残す声が響く。声のした方へ視線を向けると、木々の間から一人の少女が駆け寄ってきた。銀糸のような髪を風になびかせ、謎生物の方へ一直線に向かってくる。
その表情は、長い間待ちわびた友に再会できた喜びに満ちていた。しかし、ステラと呼ばれた謎生物の姿に続いて、茂みから現れた私を視認した瞬間、少女の顔から血の気が引いていくのが分かった。翡翠のような瞳が、鋭い警戒の色を宿して私を射抜く。
「っ!! あなたも……あいつ等の、仲間な……の……!?」
その言葉を最後に、少女の体からふっと力が抜けた。糸が切れた人形のように、その華奢な体は緑の苔の上へと崩れ落ちる。
「大丈夫!? しっかりして!」
考えるより先に、体が動いていた。慌てて駆け寄り、その肩を抱き起こす。ぐったりとした体は、驚くほどに軽い。よく見ると、彼女の腕からだらりと垂れた袖が、じわりと赤黒く濡れていた。傷口だ。少女は苦しげな呼吸を繰り返しながら、うなされている。
まさか、毒……? 私の経験と知識が、最悪の可能性を告げていた。どうにかしなきゃ……! 目の前の、失われかけている命を前に、私の心はただ一つの衝動に支配されていた。
【表紙イラスト*キャラクタービジュアル&表紙イラストデザイン:睦永 猫乃】




