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第三話 孤独な旅路と鉄の始まり

翌朝、俺は拠点を離れ、新たな地へと足を踏み出した。


もちろん、行き先など決まっていない。ただ、元の村や廃墟からできるだけ遠ざかるように歩を進める。


その道中、オオカミだけでなく、幾度かゴブリンと遭遇した。どうやら、あの村を襲った群れとは別の集団らしい。そう思わせる程度には、頻繁に見かける。


きっと俺が知らなかっただけで、村から少し離れれば、ゴブリンはそこかしこに生息していたのだろう。


だとすれば、なぜあの村は今まで襲われずに済んでいたのか?


……わからない。


ただひとつ確かなのは、村が“ゴブリンの群れに見つかり、襲われた”という事実。皮肉な話ではあるが、それが俺を自由にした。


それでも、慣れというのは恐ろしいもので、今では二匹ほどなら同時に相手できるようになってきた。攻撃も以前より通じるようになっている気がする。


生存率が少しでも上がるのなら、それは何よりだ。


このまま成長を重ねていけば、あの村を壊滅させたゴブリンたちと渡り合える日が、いつか来るのだろうか。



新たに見つけた拠点に戻る。今日の食事はここで摂ることにした。


目立たぬ岩陰と、背の高い草が繁る場所に、木材で組んだ小さな小屋を建ててある。初めて形にした“住処”と呼べるそれは、粗末ではあるが、案外落ち着ける場所だった。


中には草を束ねただけの寝床しかないが――それでも今の俺には十分すぎる。


少し離れた場所には、自作の炉を設置した。レンガを焼き、鉄のインゴットを作ることにも成功している。


次に思い描いたのは、レンガ造りの建物や、鉄製の装備品などの製作だが……残念ながら、それを実現するだけの知識も技術も、今の俺にはまだない。



(――さて、これからどう動く?)



このまま孤独な生活を続けるより、人のいる町か村を見つけたい。


できれば、いくつもの店が軒を連ねる大きな町が理想だ。だがそれ以上に、人の中で暮らすには、常識や知恵といった知るべきことが山のようにある。


明日からは、探索の範囲をもっと広げてみるとしよう。




数日後のことだった。


慎重に探索を進めていた俺は、地面に踏み固められた跡を見つけた。


それは獣道ではなく、人が通った痕跡のように思えた。


もしこの先に道が続いているのなら、どこかの集落へ辿り着ける可能性もある。


途切れているかもしれないが、闇雲に彷徨うより、遥かに望みはあるだろう。


実際、その道はところどころで切れていたが、なんとか見失わずに追い続ける。


森を抜け、草原を越え、荒れ地を歩み、ようやく――建物の影が視界に入った。


こみ上げてくる感動を、押さえきれなかった。


遠目に見ても、俺のいた村より遥かに大きい。ようやく、人の営みのある場所に辿り着いたのだ。


喜びは大きい。だが同時に、外から来た者に対して警戒されないかという懸念もあった。


けれど村に足を踏み入れても、住人たちはただ俺を一瞥するだけで、敵意を見せる者はいなかった。どうやら“旅人が来た”程度にしか思われていないらしい。


通りを歩けば、いくつかの店が軒を連ねていた。


興味は尽きない。だが、所持金がない。宿も食事も望める状況ではない。



まずは鍛冶屋を探し、それらしき店に入る。


鉄の剣が目に入り、それを眺めていると、店主が声をかけてきた。


「……そいつは金貨三枚だ。で、あんた、その金を持ってるようには見えねぇが、用件は?」


「鉄のインゴットを売りたいんだ。買い取ってもらえるか?」


「見せてみな」


俺はインゴットを一つ、店主の前に差し出す。


「ふむ……悪くはねぇ。一つ銅貨五枚で買い取ってやるよ」


「なるほど……今はやめておく。また来るよ」




他の店も見て回り、徐々に物の相場が分かってきた。


食事は銅貨五~十枚、宿泊は銀貨二~三枚。


手持ちの鉄インゴットが六十個あれば、鉄の剣も買える計算だが、その数を集めるのは容易ではない。


効率よく鉱石が採れる場所でもなければ無理だし、そんな好条件の場所があったとしても、見ず知らずの他人である俺に教えるとは思えない。


宿に長く滞在できる余裕もない。ならば、村の近くに拠点を置こう。人里が近くにあるというだけで、十分に価値がある。


そう決めて、俺は一度村を離れた。


まずは拠点に相応しい場所を探すこと。今日は適当に野宿し、明日あらためて探索することにした。



翌日、俺は鉄鉱石や薬草といった資源を求めて歩き回っていた。


薬草はそれなりに見つかった。錬金に関する店は村に無かったため、用途は専ら自分用だ。


売れないのなら、使ってしまえばいい。


ときおり露出した岩肌が見える。鉄鉱石がありそうな予感がする。


勾配がきつくなり、体にじわじわと疲労がのしかかる。ひとまず休憩を取る。


岩を背に水を飲んでいると、視界の端で何かが動いた。


……岩トカゲか。


周囲の風景に溶け込んで気づかなかったが、一度認識すれば、もう見失わない。


俺とほぼ同じくらいの大きさだ。


(……だったらもっと早く気づけ、なにやってんだ俺)


不用意に近づいていたら、あの一撃で終わっていた。


岩トカゲは、さほど強敵というわけではないらしい。とはいえ、石斧で挑むには分が悪い。


できれば鉄の武器がほしい。となれば、インゴットを売って買うより、自分で作ってしまった方が早いのではないか?


――ん? あの奥に見えるのは岩場の多い山か?


遠目でも、あそこなら鉱石が採れる可能性はある。ぜひとも調べたい。


岩トカゲは足が遅いと聞く。傷薬もあるし、いざとなれば逃げられるはずだ。


ある程度まで接近したが、まだ気づかれていない。思ったよりも近くまで寄れた。


(よし、いくぞ!)


ドカッ!!


「くっ、硬い!」


渾身の力で石斧を叩きつけた右手が痺れる。ダメージは、たぶんほとんど無い。


『グアーッッ!!!』


岩トカゲが吠え、身体を捻って尾を振る。


盾を構えるも、弾かれて吹き飛ばされる。


急いで傷薬を使い、頼りない石斧を構え直す。


岩トカゲは突進してきた。正面に立たぬよう横に走る。


攻撃を加えても、手応えは薄い。こちらは確実に傷を負っていく。


火魔法も撃った。だが、火花が散るだけで、まるで効いた様子はない。焦りが募る。


そのとき、岩陰からさらに――もう一匹の岩トカゲが姿を現した。


「っ……これはもう、逃げるしかない!」


冷たい汗が背筋を這う。勝てるワケがない。


だが、帰り道には敵がいる。ならば見知らぬ方角へ逃げるしかない。


どんな危険が潜んでいようと、追ってくる二体を振り切らねばならなかった。


木々や岩を避けながら全力で駆ける。逃げ道を考える余裕もないほどに。


振り返ると、少しずつ距離が開いていた。どうやら足はこっちの方が速いらしい。


なんとか振り切れば、遠回りして帰ればいい。



幸運なことに、新たな敵とも遭遇せず、どうにか逃げ切ることができた。


この辺りは、さっき見た岩場の一角だろうか。


逃げてきた経路は、脳内の地図にしっかりと記されている。帰る方角を誤る心配はない。


便利な能力だ。



ただ、太陽はすでに傾き、周囲は暗くなり始めていた。


ここで夜を明かすと決め、急いで野営の準備を進める。ようやく、一息つけた。


幸い、夜の間に敵に襲われることはなかった。


翌朝、慎重に周囲を確認したが、岩トカゲの姿は見当たらない。


おそらく、昨日逃げてきた先が、戦闘前に遠目に見えた岩場の一帯だったのだろう。


早く村の方へ戻りたい気持ちもあるが、せっかくここまで来たのだ。この機に探索しておくのも悪くない。


「……!! あれは……」


岩肌の一角から、赤黒い鉱石が顔を覗かせていた。


(――期待できる)


すぐにツルハシを作り、岩を砕く。


ゴロリと崩れ落ちた鉱石の塊。


(……よし、鉄鉱石だ!)


この場に炉を作り、インゴットを精錬しよう。


ツルハシが手の中で軋む。砕かれた鉱石を抱え、炉へとくべる。


煙と熱の向こうで、少しずつ形を成していくインゴット。単調な作業だが、目の前で形になっていくインゴットの輝きと、そこに確かな重みがあった。



ついでにレンガも作る。なぜか?


それは――鍛冶のための作業台を作り、鉄の剣を打つためだ。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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