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12/14

ゆうれい:前

 我鳴防波(ガーミンぼうは)は眠らない。

 所狭しと生えるネオン看板のやかましさに夜闇は負ける。

 黒社会(マフィア)やクスリの売人、娼婦は夜こそ稼ぎ時だ。ギラつくネオンの下、無法の街は色濃い猥雑(わいざつ)悪辣(あくらつ)をかもす。

 

 だからこそチェンは夜に眠る。無法の街でいくらか()()()でいるための秘訣(ひけつ)の一つだ。

 だが安眠は、ここしばらく妨げられていた。

 

「いーーーやーーー‼︎ また出たぁぁぁ‼︎」

 上階からのやかましい叫びに目を覚ます。寝ぼけた耳にカンカンカンと鉄階段を駆け降りる音が聞が響いた。

 今日こそは狸寝入りを決め込んでやる──半眼で決意していると選品店(セレクトショップ)の扉が激しくノックされた。

 

「チェン兄さん! チェン兄さん‼︎ 居るんでしょ⁉︎ 今夜も出た‼︎ 出たんすよ、彼女‼︎ やーーーだーーー‼︎」

 無視してもノックと喚きは途切れない。苛立ちながら寝返りをうつと、寝室にリャンがやってきた。

 

「父さん、仔空(シア)(にい)が今夜も来てるよ」

 眠気を感じさせないはっきりとした声で養い子は告げる。致し方なくチェンは寝床から這い出した。(ガウン)を羽織って店の扉を開ける。

 

 転がり込んできたのは青白い肌に人好きする顔立ちの青年──仔空(シア)だ。

 諸事情で選品店(セレクトショップ)の上の階に住み着いた彼はガクガク震えてリャンに抱きつき、また喚く。

 

「わぁぁぁん‼︎ リャン(ぼう)だ‼︎ ちゃんとここに居て、生きてる人間だぁぁぁ‼︎」

 心臓止まってる人間が何をぬかすか。チェンは呆れながら、リャンから仔空(シア)をひっぺがした。

 

「で。その様子だと、また出たんだ?」

 不機嫌にチェンは続ける。

「女の(幽霊)


 この街は我鳴防波(ガーミンぼうは)

 巨大な違法建築群が積み重なる無法の街。

 この街では物は動く。動く物は『キ物』と呼ばれる。

 

 加えて(幽霊)も出たりする。

 

 

◼︎──────



 話は十日ほど前にさかのぼる。全ては目の前のうるさい青年から始まった。

 

 死装束を着た心停止状態の仔空(シア)が店に逃げ込んできたので、彼の処置を観光ガイド兼功夫(クンフー)使いの美煌(ミーファン)に頼んだ。

 青年の生死判別に困った彼女は功夫(クンフー)使いの上司である(カイ)老師を呼び寄せ、事態の収集を図った。

 老師は功夫(クンフー)使いなりの判定法で仔空(シア)屍物(かばねもの)──キ物化した死体──ではないと判断。

 

 ここまでは良いのだが、葬儀中に動き出したせいで家族に追われ、帰る場所のない仔空(シア)選品店(セレクトショップ)に置いてくれとのたまった。

 拒否したチェンだが、最終的に根負けする。

 

 選品店(セレクトショップ)の上の階を所有していたことを思い出したので、そのうちの一部屋を仔空(シア)に貸したのだが──まぁ、その物件がいわく付きだった。

 阿片(アヘン)中毒で自死した女の(幽霊)が出るとか出ないとか。

 

「そういえば父さん言ってたよね。この店と上の階はセット販売しかしてなくて、異様に安かったって」

「ああ、そうだよ。(幽霊)ごときで商品を叩き売るなんて、軟弱な商人だよねぇ」

「いわく付き物件を俺に貸さないでぇぇぇ‼︎」

 呑気に話す擬似親子の前で、仔空(シア)が叫ぶ。

 

(幽霊)といっても、洗濯機のキ物みたいに人をミンチにするわけじゃあないんだろう? そんなに怖いかな……」

「怖いすよ‼︎ なんかじっと俺のこと見てくるし‼︎ 部屋を替えてもついてくるし‼︎」

「あんたに気があるんじゃない? 口説けば?」

「やーーーだーーーー‼︎」

 軽く返すと、仔空(シア)は半べそかきながら喚いた。

 チェンからすると、心停止状態で元気に動く何かが(幽霊)におびえている方が意外なのだが。

 

「俺も一階に住ませて下さいよぉぉぉ‼︎ ここで一人はやだぁぁぁぁぁ‼︎」

 一階は選品店(セレクトショップ)とバックヤード、そしてチェンとリャン親子の居住スペースになっている。

 

「お断りだね」

 チェンは即答した。やかましい死体と同居したくない。

「じゃあ、リャン坊貸してくださいよ‼︎ 抱いて過ごす……」

「却下」

 こちらもすぱりと切り捨てた。少年として育てているリャンだが、正しくは半陰陽だ。女好きの仔空(シア)と二人きりにさせたくない。

 

「あんまりだぁぁぁ‼︎ お袋からは餅米まかれるし、新居の大家は冷たいし……‼︎」

 再びリャンにひつっいた青年を、チェンはため息吐きつつはがしにかかる。

 

 怪異といえば、我鳴(ガーミン)の薬屋にはよく人魚の木乃伊(みいら)が飾ってある。東国では人魚の肉は不老不死の妙薬とされているそうで、それにあやかった縁起物として飾っているらしい。

 もちろん本物ではない。猿と魚の半身を縫い合わせた偽物だ。だが薬師にだまされ、大枚はたいてそれらを買っていく観光客もいるという。

 

 (幽霊)も高値で売れるかも──チェンはひらめく。

 人魚の木乃伊(みいら)や人の(きも)を干したものはたびたび見るが、(幽霊)が売られているのは見たことがない。希少価値は高かろう。

 

「捕まえられないかな、(幽霊)

 チェンがぼそりと呟くと、リャンと仔空(シア)は顔を見合わせた。

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