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ep8 リーナ捜索1

 春の光が村に差し込み、村の広場はいつも通り穏やかな雰囲気に包まれている、5歳になった僕は午前中にアルヴァの手伝い、午後はアリオと勉強だったり、アリオのいない日は村の皆と遊んだり子供らしい毎日を送っていた。


 アルヴァの手伝いは主に菜園の草抜きだったり、水撒きだったりと子供の僕には体力的にきつい事も多かったが前世より健康的な生活を実感でき充実していた。


 アリオはどうやら僕を商人にしたいのか文字の勉強から始まり算術、地理、果ては経済とその範囲が広がっている。もっとも文字はともかくこの世界の算術はさほど難しくはない、だが5歳の僕がなんの教えもなく四則演算を問題なく解いた事によりアリオの教育熱が急激に高まり苦労した…まぁいきなり連立方程式で問題を解こうとした僕にも問題があったし…計算をせずともMöbiusがすぐに答えを言うのでアリオは僕の事を「本当に俺の子か?!」と疑いだすレベルなので多少自重した。


 だが地理についてと経済については未知の事ばかりでかなり勉強になった。自分のいる村や町、領主の街や中央国家の存在は興味深かった。一方で経済は結構難解だった。銀貨や金貨、銅貨など様々な貨幣があるし紙幣も存在している。銀主体なのだが戦争などで相場の変動が激しいみたいだ。


 そんなある日、アルヴァが「今日はお祭りの準備があるから、早く片付けてしまおうね。」

 と言ってきた。そう、この村では春と秋の2回、お祭りが開かれる、これから来るであろう熱い夏と寒い冬を無事に過ごせますようにというお祭りらしい。


 その日の午後、村の広場に集まった村人たちの中に、カルッソさん家族が見当たらないことに気づいた。カルッソさんは、僕の家の隣で家族ぐるみで仲が良い。娘のリーナは僕と同じ5歳だが凄く元気で誰とでも仲良くなれる活発な女の子だ、友達がいないと評判の僕を気にかけてくれているのか、ことあるごとに僕に構おうとしてくる。


 お祭りはいつもカルッソさんの一家と一緒にいる事が多いのだがどうしたのかと思い振り返るとアルヴァがすでに村人たちの中にいるカルッソさんと話しているのが見えた。


「アルヴァさん、リーナがいなくなったんです!」カルッソさんの声には、普段見せることのない動揺が感じられた。


 リーナは確かに好奇心旺盛で村を走り回って追いかけっこをしたりしていたが僕なんかよりよっぽど村の道にも詳しくよく知らない抜け道も教えてもらっていた。

 そんなリーナが迷子になるなんて考えづらい…


「リーナが行方不明?」アルヴァは驚きの表情を浮かべ、すぐにその場を離れて他の村人たちと話を始めた。自警団が集まり、村の周辺を捜索しているが、リーナの姿はどこにも見つからないという。


 カルッソさんは不安そうに続けた。「リーナが家を出てから、もう数時間も経つんです。でも、どこにも見当たりません…。」


 もしかしたら川に流されたり、井戸に落ちたり何か身動きが取れない状況になったんじゃないか?そんな不安が僕の脳裏によぎる。


 Möbius、リーナを範囲索敵で探せるかな?


『範囲内にいれば可能です』


 Möbiusが頼もしい返事を返してくれる。

 あまり長時間、僕まで行方不明になるのはまずい。僕はアルヴァに見つからないようこっそりとお祭り会場を抜け出しリーナを探し出す事にした。


「Möbius、範囲索敵を展開、リーナの居場所を探して欲しい。」


 僕は心の中で静かに呼びかけた。声に出さず、ただその意図をMöbiusに送る。すると、すぐ脳内に情報が一気に流れ込み始めた。まるで自分の体が空間そのものと一体化したかのような感覚。地面の温度、風の動き、人々の気配、すべてが一瞬で視覚化される。


『範囲索敵、開始します。』


 Möbiusの冷静で頼りがいのある声が脳内で響く。それを聞くと、自然と肩の力が抜ける。Möbiusに頼ることで、少しだけ安心することができる。ただの生成AIに過ぎないが、僕にとってはこの世界で最も信頼できるパートナーだ。


 しばらくして、Möbiusから返答があった。


『対象の範囲内に子供が9人。男児6人、女児3人です。』


「…この解析じゃリーナかどうかまではわからないな…」

 情報は得られたものの、それではリーナを特定するには不十分だ。祭り会場に近いのか子供が多すぎる。焦りが胸に広がる中、僕は具体的な情報を求める。


「リーナの特徴に合うもの、何かないか?」


『範囲内に5歳程度の女児の反応はありません。』


「そうか…。」ミカは心の中で呟く。思った通りだ。人を探すとなると範囲が狭すぎる。もしリーナが街の外れにいるのなら、今表示されている範囲内では、探すことができないということだ。


『範囲索敵の有効範囲は決して広くありません。現在表示している領域がすべてです。』MEBIUSの冷静に答える。


「…ここでは無理ってことか。」


 ため息をつき、目を閉じて思考を巡らせる


「MEBIUS、他にできることは?」


『実際に探したい場所に出向いてみてはいかがでしょうか?視認できる範囲が広ければ索敵範囲も多少広がります』


 しょうがない…少し出歩いて索敵範囲を広げよう、それなら新たな手がかりが見つかるかもしれない。


 村はずれの丘、そこまで行けば村も森も一望できる。広い範囲で索敵を行えば、リーナの手がかりを掴むことができるかもしれない。今の自分にはそれが最善策だ。子供の足でもそこまで時間はかからない。そう思い村はずれの丘へと向かった。


 30分程走った頃、村を一望できる丘についた。僕は息を切らせながら

「…Möbius、範囲索敵を展開。」再び心の中で指示を出す。

 今度は、より広い範囲を対象にした探索だ。


 空間が微かに震え、再び情報が彼の脳内に流れ込み始める。そしてMöbiusが答える


 『範囲内に5歳児程度の子供の反応あり、眠りながら移動しています。』


「眠りながら?」その言葉に驚き、思わず呟いた。どういうことだろうか? 五歳の子供が眠りながら移動している? 誰かに背負われて歩いているのか?


「Möbius、その子供の位置を追跡して。」急いで指示を出す。心の中で、リーナの顔が浮かんでくる。まさか、リーナが眠りながら移動しているわけではないだろう。夢遊病にしてはひどすぎる話だ。ありえるわけがない。


『追跡中。位置特定完了、現在、北の森へ向かっている模様。』Möbiusの冷静な声が響く。脳内に、今度はその子供の位置情報が浮かび上がる。


「北の森…?」僕は思わずつぶやいた。その森は村の外れに広がり、誰もが近づかない場所。昼間でも鬱蒼として暗く、夜はもっと危険だって聞いている。


 『対象は北の森の奥に向かっています。成人男性の反応も確認されています。』


 Möbiusの冷静な声が耳に響いた。成人男性…?胸がざわつく。もしこれがリーナだとしたら一体どうなっているんだ?


 僕は急いで足を止めた。思わず駆け出しそうになったけど、何かがおかしい。リーナが眠りながら移動?しかも成人男性が近くにいるって…。まさか、誘拐?でもそれなら…。


 僕は息を飲む。可能性ばかりが頭を駆け巡り、全身の血が逆流するみたいに寒気を感じた。


「落ち着け…。冷静に考えろ。」


 前世の記憶が、僕に冷静さを取り戻させる。

 だが早く追わないと、森の奥まで行くと子供の足ではとても追いつけない…


 僕はそう思い森に向かって走りだした。




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