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ep41 初等軍部教育17

 その後、僕は3発の砲撃をおこない、そのどれもが敵陣の重要と思われる拠点へと正確に命中させた。爆煙が舞い上がり、敵の陣形は一時的に混乱しているように見えた。だが、それでも敵部隊が撤退する気配は微塵もなく、むしろ陣営の回復と突撃への準備を急いでいる姿が確認できた。


「どうしてこれで撤退しないんだ…無能な指揮官すぎるだろう…」

 そんな絶望が頭をよぎる中、拠点の魔術師から報告が届く。6門の大砲のうち、すでに3門が砲身に亀裂を生じ、使用不能になったという。


 状況を見て、僕はこれ以上の砲撃は限界だと判断した。斥候の指揮官として冷静さを保たねばならないが、胸の内では焦燥感が募る。この戦いの目的はただひとつ――敵の進軍を可能な限り遅らせ、後続の救援部隊が到着するまで時間を稼ぐことだ。しかし、いったいどれほどの時間を稼げたのだろう? 少なくとも昼以降、3時間ほどは進軍を遅らせられたはずだが、それでも救援の到着にはまだ足りない。


 僕は防衛地点まで撤退することを決断した。戦場を離れる足元は重い。敵の陣営からは、こちらを追う準備を進めるざわめきが微かに聞こえるような気がした。


 防衛地点に戻ると、スワブ隊長が待っていた。僕は砲撃がある程度の効果をもたらしたこと、しかし時間を十分に稼げなかったことを報告した。それでもスワブ隊長は労わりの言葉をくれた。


「よくやってくれた。お前のおかげで、我々はまだ戦える!!」


 その一言に救われた気がした。だが、疲労が抜けるわけではない。隊長の指示で僕は短い休息を取ることになった。簡易ベッドの上に横たわると、ようやく自分がどれだけ疲弊しているのかを実感した。しかし、不思議と眠くはならない。気持ちが高ぶり、次々と考えが巡る。


 今のこちらの戦力はわずか2中隊――新兵ばかりで、総勢100名程度。対する敵は、大隊規模、少なくとも倍以上の兵力だ。さらに彼らの士気は高く、指揮系統もしっかりしている。おそらく4中隊以上に分かれてこちらを包囲し、殲滅を狙っているのだろう。


 一方で、こちらにはわずかな利点がある。僕とレイル教官、さらに教官の部隊にもう一人の魔術師――3名の魔術師がいることだ。人数は少ないが3部隊に別れ密な連携がとれる、もちろんそれだけで戦局を覆せるわけではない。戦争は結局「数の勝負」だ。前世の記憶でも、兵力差が決定的な力を持つという歴史を何度も学んできた。


 敵の意図も明確だ。彼らは僕らがここに留まっている理由をすでに察しているだろう。僕らが時間を稼ぎ、救援を待っていることは容易に見抜けるはずだ。もし僕らが撤退を目的としていたなら、すでに渡河を終え、橋を爆破しているはずだからだ。


 つまり敵にとっても、僕ら新兵を叩ける最後のチャンスだと理解している。初撃の銃兵の撃ち合いが終われば、彼らはすぐさま突撃に移行し、白兵戦で一気に片をつけるつもりだろう。


 僕の手は微かに震えていた。前世では平和な国に生まれ、戦争など経験したこともなかった僕が、こんな戦火の中でまともに立ち回れるのか? 恐怖が心を侵食するのを、僕は必死で押さえ込んだ。


 そのとき、Möbiusが冷静な声で開戦を告げる。


『敵大隊規模の行軍開始を確認しました』


 僕はテントを出て空を見上げた。日は高く、昼を少し過ぎた頃。風がわずかに土の匂いを運んでくる。


「この戦争の終わりの始まりだ――」


 隣に人の気配を感じた。いつの間にかエイリスが立っていた。気づかないほど僕は緊張していたのかもしれない。


 彼女は静かに僕を見上げ、一言。


「大丈夫です。ミカ魔術師士官殿。」


 その声には、不思議な強さと優しさがあった。僕の震える心を、ほんの少しだけ穏やかにしてくれるような気がした。


 そして僕を呼ぶ名称から「候補」がなくなっていた事に気づきにこやかな笑顔で彼女に応えた。


「行こうか。エイリス」



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