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ep31 初等軍部教育7

 河に近づいた瞬間、その圧倒的な血の匂いにむせ返り、思わず膝をついてしまった。

 こんなところで膝をついている場合じゃない!だが、後ろから慌てた足音が近づく。エイリスだ。


 河川に流れ着いた死体を見たエイリスは、呆然と「これは…」とつぶやく。


 今、この河川に死体が流れているということは、数時間前に北上して橋を渡った部隊、または、渡河しようと森を突き進んだ部隊のどちらかが襲撃を受けた可能性が高い。

 問題は、どちらの部隊が襲撃を受けたのかということだ。


 もし北上して橋を渡った部隊が襲撃を受けたのであれば、次の目標は渡河を成功させて野営を行っている部隊だろう。

 だが、渡河を成功させた部隊が襲われた場合、残る選択肢は、北上した部隊を叩くか、南下して僕らと接触するかの二択だ。


 もし敵が南下しているなら、僕らに残された時間は限りなく少ない。すぐに本営に連絡を取っても、間に合わないだろう。そう、絶対に、間に合わない。


 その時、Möbiusの冷静な声が僕に届いた。


『銃声の確認はできませんでした。夜襲の可能性が高いと思われます。』


 確かに、ここまで一度も銃声は聞こえなかった。夜襲。その可能性が今、最も恐ろしいものとなっている。


 "Möbius、範囲索敵"


 瞬間、僕の脳内に一面の情報が集約される。


 河川の中には相当数の死体が流れているのが確認できる。北方の国の襲撃かと考えたが、この時期、この場所で襲撃があったとは考えにくい。

 頭を整理しようとするが、疑問ばかりが浮かぶ。


 僕は河川から踵を返し、すぐに隊長の元へ走る。


 もちろん魔術でスワブ隊長に至急の報を飛ばしたが、こんな時間だ、寝ている可能性もある。


 僕が戻る途中、隊長の大きな声が響く。

「総員警戒態勢!!」


 どうやら、伝言を見てくれたようだ。だが突然の指令に、新平の隊員たちは戸惑い、寝ぼけた声で「なんだ?訓練?」とつぶやく者もいる。


 隊長のテントに到着すると、スワブ隊長が僕に向かって話しかけてきた。

「ミカ!状況を伝達せよ!!」


 僕はすぐさま一連の状況と、夜襲の可能性について伝える。


 現状では敵が誰か、規模も不明だ。選択肢は限られている。


「ミカ、どうするのが適切だと思う?」スワブ隊長が真剣な面持ちで僕に尋ねる。


 夜襲に立ち向かうか…。いや、銃声が一切なかった。相手は訓練された兵士である可能性が高い。

 こんな状況で斥候を送るわけにもいかない。どうすべきか悩んでいると、Möbiusが提案を持ちかける。


『渡河地点の橋まで即時撤退を提案します。その後、後続部隊と合流し、敵の数を確認してから体制を整えるのが最適と判断します。』


 その提案に納得だ。橋まで逃げ切ればなんとかなる。新平の部隊と言えど、数だけは最低でも中隊規模、そして大隊規模の力を持っている。


 Möbiusの提案を伝えると、スワブ隊長は頷き、「わかった!」と言い、すぐに行動を開始した。


 初の任務で後ろを守る役目とは、本当に運が悪い。僕は震える足を抑え、撤退の準備に取り掛かる。



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