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ep23 魔術士官候補生

 ――父さん、母さん、リーナ、メイル先生、お元気ですか?

 僕は今、寒風吹き荒ぶ荒野で、味気ない野戦食を食べながら細々と生きています。


 どうしてこうなったのか。そう、あれは3か月前のことでした。



 ――3か月前――



 あの日、王室魔道機関の召集を受けた数日後、僕の部屋に突然マルスさんが現れた。


「よろこべ、ミカ君!!君はめでたく王国魔道機関、魔道研究塔への配属が決まったぞ!」


 その言葉を聞いて、正直ホッとした。軍部とかいう物騒な部署に行かされるよりは、ずっとマシだと思えたからだ。


 けど、その直後。マルスさんは何気なく、とんでもない爆弾を落としてきた。


「ただし、君は平民の出自だ。まずは初等軍部教育を受けてもらうことになるがな。」


 ――初等軍部教育?聞き慣れない単語に嫌な予感しかしない。


「初等軍部…?それって何ですか?」


 と尋ねると、マルスさんはいつもの調子で淡々と説明を続ける。


「君は自分が誰と戦い、何のために魔術を研究するか、そしてその資金がどこから来るのか、知っているか?」


 ……いや、そんなの知るわけない。僕は素直に首を横に振った。


「まあ、そうだろうな。初等軍部教育ではそういった基礎知識、軍隊行動の基本、戦術、野戦訓練、さらには攻城戦、魔術運用の基礎までを学ぶ。」


 さらっと言ってのけたけど、要は「入隊訓練」ってことだろ?


「いやいや、自分そういうのはちょっと……」

 って抗議しようとしたけど、聞く耳持たずでマルスさんは話を続ける。


「残念だがそれは無理だ。魔道研究塔は最低でも少尉でないと配属できん。軍部教育は必須だ。」


 ――11歳で入隊訓練!?この国の倫理観、どうなってるんだ……。


「まあ、心配はいらんよ。新兵の訓練などたかが知れている。それに、魔導隊の君には優秀な魔導補佐官がつくからな。」


 補佐官?またわけのわからない単語が出てきた。


「元来、魔術師は単独での戦闘能力や体力面で一般兵に劣る。また魔力を使用するため、行軍時にもできるだけ負担を減らす必要がある。だから魔術師には必ず一人、補佐官がつく。」


 ああ、専属のボディーガード兼サポート役みたいな感じか。いや、むしろシェルパ?


「もちろん、君には私から優秀な補佐官を用意しておいた。さっさと軍部教育を終えて、研究に専念してもらいたいからな。」


 ……どうしよう。マルスさんには悪いけど、不安しかない。


 けど、ここで逆らったって何も変わらないし、リーナやメイル先生のことも気になる。少しでも自由な時間ができれば、彼女たちの居場所を探す手がかりを掴めるかもしれない――。


 そう覚悟を決めたそのときだった。


「では紹介しておこう。入りたまえ。」


 ドアの方を見ると、凛とした声が響く。


「失礼いたします。」


 息を呑んだ。そこに立っていたのは――あのとき、マルスさんの部屋まで僕を案内してくれた美少女だった。


「彼女はエイリス。君の補佐官を命じている。まぁ上手くやってくれ。」


 そう言い残して、マルスさんはさっさと部屋を出て行ってしまった。


 ――ちょ、なんだこの状況!?どうすればいいんだよ。


 部屋に残されたのは僕とエイリスさんの二人だけ。彼女は直立不動のまま、僕の横に立っている。


 戸惑いながらも、なんとか言葉を絞り出した。


「あの……よろしくお願いします、エイリスさん。」


 彼女の表情はほとんど変わらない。でも、きりっとした声で返事が返ってきた。


「さん付けは不要です。ミカ魔術士官候補生殿。これからは補佐官として全力で務めさせていただきます。」


 どうも楽しく自己紹介を兼ねてお食事でも…なんて雰囲気ではない事は伝わりすぎるくらい伝わる…


「すいません…エイリスさん、実際補佐官の方は何をしてくれる方なんでしょうか…?」

 僕は恐る恐る尋ねる。


「基本は魔術師と補佐官は常時2人にて任務を遂行します。魔術師の方は一般的に魔術の行使に多くの時間と魔力を使うため剣術や格闘などの白兵戦は苦手とされています。そういった不足部分を補うのが補佐官の務めです。また行軍の際は魔術師の方は伏兵や敵襲の可能性の為、常時魔力にて監視を行う事が多々あります。そのような場合に備え補佐官は魔術師の装備一式などの運搬も行います」


 まぁ確かに、魔術師が重い荷物を持って魔術を使い戦場を駆け抜けるなんてイメージは沸かない…魔術師が何人いるかは分からないが補佐官をつける事でより効果的に運用するって感じか…


「ミカ魔術士官候補生殿には明朝より入隊までの期間、軍部における基礎的な教養や予備知識を学んで頂きますのでよろしくお願いします」


 その真剣な眼差しに圧倒されつつ、これからの波乱を改めて覚悟するしかなかった。




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