表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/50

ep22 圧迫面接

 荘厳な装飾が施された大きな扉の前に立つ彼女は、控えめにノックをした。続けて、冷静な声で告げる。


「ミカ・エルリス殿をお連れしました。」


 しばしの静寂の後、低く落ち着いた声が扉の向こうから返る。


「入りたまえ。」


 扉がゆっくりと開くと、目の前には堂々とした大きな机が鎮座していた。その向こうには温和な表情を浮かべた初老の男性が座り、傍らには軍服をまとい直立不動の姿勢を保つもう一人の男性が控えていた。


 案内人に促され、僕は部屋の中へ足を踏み入れる。彼女は一礼すると、音もなく扉を閉じ、この場を去っていった。

 部屋の中には張り詰めた静寂が広がり、二人の視線がまるで鋭い刃のように僕を貫いているように感じられる。圧倒的な緊張感に、自然と胃がきしむのを感じた。


「ようこそ、ミカ・エルリス君。そこにかけたまえ。」


 初老の男性が穏やかな口調で促す。その言葉に従い、僕は椅子に腰を下ろしたが、この場の空気はどうにも居心地が悪い。まるで圧迫面接を受けているかのようだ。


「私の名はマルス・カナディアル。王国魔道機関の責任者だ。」


 低く落ち着いた声で自己紹介をするマルス。その声には柔らかさも含まれているが、それでも僕の緊張は一向に和らぐ気配がない。


「早速だが、君の処遇について少し悩んでいてね。直接会って話を聞きたかったのだよ。まあ、そんなに緊張せず、気楽に答えてくれたまえ。」


 僕の硬さを見透かしたように微笑みながら語るマルス。その優しい口調とは裏腹に、この場の重圧はますます強まるばかりだ。


「さて、報告によれば君はメイル・ブラントの元で魔術を学び、古代魔術の研究をしているそうだね。しかも、その魔術は従来のものとは一線を画する威力で、騎兵を無力化したと聞いている。それでだ、どうして古代魔術の研究を始めたのか、教えてもらえるか?」


 唐突な問いに僕は内心焦る。この世界では古代魔術を研究することが問題になるのだろうか?責任者自らが問いただしてくる以上、慎重に答えなければならない。しかし、悩んでいても仕方がない。僕は意を決して、正直に答えることにした。


「手から炎を出せたらカッコいいなと思いまして……。」


 その瞬間、部屋の空気が一変した。マルスは一瞬きょとんとした顔を浮かべた後、大きな声で笑い始めた。その豪快な笑い声が部屋中に響く。一方で隣に控える軍服姿の男性は、微動だにせず無表情を貫いている。


「ははは!そんな理由で魔術を研究する者がいるとは!君は実に面白いな!」


 ――なぜだろう。手から炎や氷を出す魔術師なんて、誰もが憧れる存在じゃないのか?僕は心の中でそう思いながらも、「はあ……そうですか」と曖昧に返す。この世界では、どうやら僕の感覚は一般的ではないらしい。


「まあいい。君を戦場に投入するべきか、それとも魔術研究に専念させるべきか。軍部と我々の意見が割れていてね。君自身はどうしたい?」


 突然の選択を前に、僕は困惑する。この場での決定にどれほどの影響力があるのかわからないが、恐る恐る答えた。


「えっと、戦争はちょっと怖いので……研究の方でお願いします。」


 マルスは呆れたように苦笑しつつ、言葉を続けた。


「珍しい男だな、君は。大抵は武勲を立て出世を目指すものだが、『手から炎を出したい』だの『戦争は怖い』だの、まったく異質だ。君は王国魔術大隊への所属という名誉を放棄しようとしているのだぞ。その価値を理解しているのか?」


 王国魔術大隊。よほど名誉な役職なのだろうか?それとも、高給で福利厚生が充実しているのか……そんな考えが頭をよぎったところで、突然、脳内にMöbiusの声が響く。


『ミカ。この世界に福利厚生など存在する証拠は確認できません。』

 ――わかってるよ!と内心ツッコミを入れるが、Möbiusには相変わらず冗談が通じない。


「まあいい。君の処遇については後日伝えることにしよう。今日はありがとう。久々に大笑いさせてもらったよ。」


 マルスが笑顔で話を締めくくると、隣の男が無言のまま扉を開けた。その冷たい視線は、まるで「さっさと出ていけ」と言っているかのようだった。


 廊下に出ると、先ほどの案内役の少女が待ち構えていた。彼女と目が合うと、微かに興味を示したような瞳が一瞬だけ見えたが、すぐに視線をそらされる。

「こちらへどうぞ。」彼女の淡々とした声が響く。

 案内されるまま、僕は別室に戻り、本を手に取り再び時間を潰す。


 頭の片隅には、リーナやメイル先生の行方がちらついていたが、まずは現状を打開する手段を見つけなければならない。


 そんな思考を巡らせながら、その日僕は眠りについた――。



読んでくださりありがとうございます。

物語の最初が読むに堪えない文章なので随時修正を行っています。

時間はかかりますが違和感のないよう修正をしてますのでよろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ