ep18 冬の始まり2
「メイル!メイル・ブラント!ここにいるのはわかっている。出てこい!」
粗野な男の怒声が冷たい風に乗って小屋の周囲に響き渡る。
大層な鎧をまとった男たちが小屋の前にずらりと立ち並び、その視線は威圧的だ。
やれやれ、といった様子で扉が静かに開く。加えたばこのまま姿を現したのは、軍服らしき装いに身を包み、腰に剣を下げたメイルだった。片目の眼帯が彼女の冷たい表情をさらに際立たせている。
「領主デオドル様の命により貴殿の戦線復帰を伝えに来た。早急に我らと共にご同行を願おう。」
男たちの一人が高圧的な声で告げる。
メイルは一瞬目を細め、ため息混じりに言い放つ。
「嫌なこったね。今更こんな片目の乙女を戦場に引っ張り出そうなんて、あんたらには貴族の嗜みってのがないね。」
その言葉に男たちの表情が一瞬険しくなるが、背後から現れた小柄な魔術師が不敵な笑みを浮かべながら前に進み出る。
「貴殿にはずいぶんと淑女の嗜みが足りないようだな。手荒なことはしたくない。さぁ、身支度を始めたまえ。」
その言葉は冷たくも挑発的で、高慢な態度が滲み出ている。
その瞬間、メイルがゆっくりと腰の剣に手を伸ばした――そして次の瞬間には、魔術師の首に剣が突きつけられていた。
あまりにも早い動きだった。風が舞ったような音すら残さない剣速。目にも止まらぬ速さで動いた彼女の一撃に、場の全員が虚を突かれる。
「口には気をつけな。二度と喋れなくなるよ。」
冷たく響くその声に、魔術師は情けない声を上げながら尻餅をつく。剣先がかすかに喉元を離れると、ようやくその場にいた兵士たちが我に返り、一斉に剣を抜いた。しかし、その表情には動揺が滲み出ている。
そして、魔術師の姿に気づいた者たちの口元には、嘲笑の影が浮かんでいた。「良いざまだ…」と誰かが小さく呟く。
一方、魔術師は屈辱で顔を赤くし、震えた声で叫ぶ。
「多少手荒でも構わん!連れていけ!」
その命令に、鎧を纏った男たちが前へ進み出る。6人の兵士が剣を構え、4人の騎乗兵が警戒するようにその後ろで待機する。そして、魔術師がなおも背後に隠れるように後退していく。
メイルは静かに剣を構え直し、不敵な笑みを浮かべながら呟いた。
「斥候の、たかが一個分隊程度で私を連れていけると思ったのか? 甘く見られたものだね。」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、最前列の鎧を纏った兵士が突如として倒れる。
彼の鎧の隙間に、メイルの剣が深々と突き刺さっていた。
兵士が地面に崩れ落ちるまでにわずか数秒。その場にいた誰も、彼女が剣を抜いて突き刺す動作を目にすることができなかった。あまりにも速すぎる。刺された本人すら理解が追いつかず、ただ呆然としたままゆっくりと地面に崩れ落ちたのだ。
動揺が走る。周囲の兵士たちは一瞬動けず、ただメイルを睨むことしかできない。
兵が身構えるも魔術師は情けない声をあげながら「何をしている!全員で取り押さえろ!」と後ろから金切り声で叫ぶ。
魔術師の催促で手前の男2人が同時にメイルへと剣をふるう、その瞬間、メイルの足元の地面が爆ぜたように土煙があがり飛び上がるように後方へと下がる。二人の剣はただ虚しく空を切るが諦めずにメイルへと向かう。
男の剣がメイルの剣とぶつかった瞬間、メイルは剣を滑らせながら男の懐へと飛び込み、反対の手にある短剣で男の太ももを突き刺し男は呻きながら膝をつく。
そんな時、遠くからミカとリーナが駆け寄ってくる。
メイルはその気配を幾分か前から魔術で察知していた。
「やれやれ。面倒な事になった。」と一人つぶやいた。




