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ep17 冬の始まり1

 それは冬の気配が漂い始めたある日のことだった。


 僕とリーナは街を見渡せる丘の上で他愛もない話をしていた。木々はすっかり葉を落とし、冷たい風が頬を刺す。吐く息が白く立ち昇る中、僕たちはいつものようにのんびりと過ごしていた。


「ねぇ?ミカは大人になったら何になるの?」


 唐突に夢を尋ねられる。

 そういえばひたすらに魔術が面白く勉強していたが何になりたいか…そんな当たり前の事を考えて事がなかった事を思い出す。


「そうだねぇ…今は魔術が面白いけど、何かを作ったりしたいかな…。」

 前世では社会の歯車として、ただ無為に生きていた。今度は何か、人の為に何かを成し遂げたり何か作ったりしたい。


「ん~職人さん?」


「いや…そういう訳でもないけど…」


「ミカは頭がいいからね…アリオさんの後を継いで商人になるのもいいと思うし、魔術を使える商人さんとかも珍しくていいよね!」


 リーナの提案は面白そうだ。商人には情報が命、魔術が使えれば利点となる事も多いだろう。


「僕の事よりリーナはどうなのさ?」


「私?私はミカと一緒に入れたらそれでいいよ?」


 え、唐突な告白ですか?リーナさん?なにこれ、年甲斐もなく、ときめいてしまう。

 いや、僕はまだ11歳だ、前世のような中年ではない、今ときめいてもいいだろう!これは正義だ!


 だがきっとリーナは深い意味はなくそう言ったのだろう。リーナの無邪気な性格はこういう発言もサラッと言える。こういう所が皆から愛されるのだろう。



 そんな時、Möbiusが唐突に僕に語り掛けた。


『ミカ、魔術師の存在を確認しました。』


 その言葉に一瞬身体が固まる。ふとメイル先生のことが頭をよぎったが、先生であればMöbiusこんな風に話しかけないはずだ。


「Möbius……範囲索敵」


 僕はすぐに索敵を展開した。視界の中に、いくつかの点が浮かび上がる。馬に乗った人々が数人、そしてその中に明らかに異質な存在――魔術の痕跡を纏った人物がいる。その痕跡は微かに紫色に揺れ、空間を歪めるような威圧感を放っていた。Möbiusの範囲索敵は魔術の痕跡を拾える。おそらく相手も範囲索敵を使っているのだろう。


 ゆっくりと村へ向かって進むその一団は、まっすぐメイル先生の家を目指しているようだった。


 商人にしては数が多いし、魔術師がいる必要もない。領主様だろうか? いや、領主様が村に訪れる時期は決まっている。こんな季節に来ることは今まで一度もなかった。


 どうしてこんな時期に? 胸にざわめくような嫌な予感を覚えた。


 僕の表情が険しくなったのを察したのか、隣にいたリーナが唐突に詠唱を始める。


「――空をその目に、大地を肌に、我に仇なす全てを投射せよ」


 リーナの詠唱が周囲の空気を震わせる。その瞬間、彼女を中心に小さな光の粒が舞い上がり、薄いフィルムのような魔力の膜が広がる。同時に、僕の頭の片隅で思わず考えてしまう――流暢な詠唱、もとい、流暢な日本語だなぁ、と。


 リーナが怪訝そうに僕を見つめる。どうやらリーナにも奇妙な一団が確認できたようだ。


「先生のお客さんかな?」


「どうだろう?」


 僕は曖昧に返事をするが、やはり一団はメイル先生の家に向かっている。心臓の奥底から湧き上がるこの不安感は、明らかにただの偶然ではない。


 リーナも察したのだろう。彼女と目を合わせ、互いに頷く。


「行こう。」


 言葉は必要なかった。僕たちはほぼ同時に丘を駆け下りる。足元で枯葉が砕け、冷たい風が頬を打つ。景色が流れるように後ろへ飛び去り、心臓の鼓動は早鐘を打つようだった。先生の家へ――



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