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剣王記  作者: ドルクススツラリス
2章 パレッツァ王国の日々
32/89

27話 領都オレジラス


「わ! わ! なんだよこいつ! ははは! 可愛いな、こら、くすぐったい!」

「チュ〜! チュ〜!」


 朝、騒がしい声で目を覚ました。

 ベッドには僕1人。ユートは既にいない。

 隣の台所からユートの笑い声が聞こえる。

 そして久し振りに聞くあいつの声。


「あ! ヴィンターおはよう! 見てくれよこいつ、このネズミ! 捕まえて食べようと思ったらすばしっこいんだよ」

「チュ〜〜!」


 ジャータカは何食わぬ顔をして、テーブルの上でどんぐりを齧っていた。

 ユートはそんなネズミを食べると言う。

 食べたら駄目だ、それでも一応は魔獣だ。僕の家族だ。


「ヴィンターのネズミなのか? え? 家族?」

「そうだよ。こいつは自由気ままなジャータカだ」

「ジャータカか! 可愛いな! よろしくな!」

「チュ〜〜!」


 笑顔で戯れる美少年とネズミ。尊いです。


「腹減った! 家には食料がないから昨日の残りをもらいに行こうぜ!」


 ユートの話では、あれ程の大物なら余りがあるはず。

 それを朝ごはんとしてもらえるはずだと言う。

 その言葉に従って僕らは村長の家へ行った。


 村長宅へ向かう途中、村の広場に人だかりが出来ていた。

 朝の早い時間からご苦労な事で。

 そう思ったら、集まりの中心はグリだった。


「クァァァァァー!!!」


 得意げに雄叫びを上げるグリフォン。

 足下には再びの泥猪、それとウマイ鴨が5羽。


「おお! ヴィンター様! グリフォンがまた獲物を獲ってきたぞ!」


 おっさんが説明してくれた。

 村人の朝は早い。夜明けと共に起きて、広場に出るとグリが獲物を運んでいたらしい。


「いや〜! 昨日の今日で驚いた! この獲物はどうする?」

「どうするもなにも、もらって下さい」

「悪いな! 家で朝飯を食ってくれ! ユートも来い!」

「やった!」

「あっ! ウマイ鴨は2羽下さい。捌いてもらえると助かります」

「おう! そのくらい任せろ!」




 村長宅へ行き、朝飯を御馳走になる。

 流石は村長宅、大きめのテーブルに村長一家と僕とユート、そしてちゃっかりジャータカ。これだけ人数が入っても狭くない。

 メニューは宴会の残りの肉とパンと野菜スープ。まあまあ豪華だ。


「美味い! 美味い! ヴィンター! 美味い!」

「落ち着けユート、ほら、口に油が」

「うむぅ! うむぅ! 自分で拭けるよ!」


 大人数で食べる食事は美味しい。

 ユートの世話を焼いていると、弟が出来たみたいで嬉しい。

 その分、孫娘の視線が痛い。


「ヴィンター様、よろしいか?」

「なんですか村長?」

「今日、例の不埒者を領都オレジラスに突き出そうと思うのですが、ご同行いただけますでしょうか?」

「領都オレジラス?」

「そうです。ここはオレンジポコ領。ウサリース辺境伯様が治める土地です」

「そうなんですね」

「伯爵様がお住いになる領都オレジラスには冒険者ギルドがあり、法を犯した冒険者はギルドに引き渡すと見舞金がもらえるのです」

「冒険者ギルドに見舞金?」

「冒険者というのは安価で即応性のある武力です。常備兵を養うより遥かに安く済む」

「なるほど、わかります」

「使い捨て感がありますからな、その分冒険者には階級に応じて様々な特権が与えられる。そして特権には規則と義務が生じます」

「はい。それで」

「法を犯した冒険者は特に厳しく罰せられるのです。そして被害を受けた者は冒険者ギルドから見舞金が支払われる」

「話はわかります。僕が同行する理由は?」

「一応証人として証言して頂きたい。そして見舞金の何割かを受け取って頂きたい」


 なるほど、証人ね。それは理解できる。でもお金は。


「領都オレジラスは何処にあるんですか?」

「村から西へ。馬車で5時間程度ですじゃ」

「すぐに出て、丁度お昼頃に到着する?」

「はい。よろしいか?」

「わかりました。ご一緒します」

「んぐぅ! 俺も行く! ヴィンター、俺も連れて行って!」


 ユートの願いに僕は村長を見た。

 無言で頷く村長、大丈夫らしい。




 食事が終わるとすぐに出発となった。

 メンバーは僕、ユート、村長、おっさん。


 村の屋根なし馬車の荷台に汚物冒険者3人組を転がし、御者はおっさん、隣に僕、荷台席に村長、ユートはグリの背中に乗る。そのユートの肩の上にジャータカが乗る。

 あいつ、今まで姿をくらましていたのにユートが気に入ったのか?


 


 馬車に揺られながら、僕は村長に色々な話を聞いた。

 まず、神獣の山脈からまっすぐに北の王都に伸びる道は“山脈街道”と呼ばれている。昔は細くて寂れた道だったけれど、十数年前から使用頻度が高まってにぎわっているそうだ。


 山脈街道の南西側はウサリース辺境伯が治める土地。

 辺境伯とは外国と国境を接する土地を任された伯爵の事で、オレンジポコ領の更に西はレテメリア聖教国がある。


 レテメリア聖教国は宗教国家だ、これはゴブリン賢者様に教わった。


 国の頂点は教皇。そして教皇の上に主神がある。

 この主神だが、母さんの話では存在しない作り物だとか。

 人間が自分の都合で作り上げた偶像。そのため教義も上の人間に都合良く作られていて、国民は奴隷の様な生活をしているという。

 余談だが、僕の婚約者の1人、人狼族のロッタはレテメリア聖教国が大嫌いだ。


 そんな聖教国だが、奴隷同然の国民は貧しく飢えている。

 そして教義の中に“異教徒には何をしても許される”というものがある。とんでもない話だ。


 一部の飢えた聖教国民は教えに従って、度々周辺国へ盗賊行為を働くという。

 オレンジポコ領は聖教国の隣だから毎年被害を受ける。

 伯爵はその対応に忙しい、冒険者は使い勝手の良い戦力として盗賊対策とダンジョン対策両方で重宝されている。

 そんな理由で、立場を利用して悪さをする冒険者も少なくないのだとか。


「よくわかりました。知り合いが『冒険者は無頼の輩』と言っていましたが、そうなんですね」

「いや、全員ではありません。大半は立派な戦士です。ユートの父親も村の出身者で立派な冒険者でした」

「でした?」

「ダンジョンで死にました」

「……ああ」

「3年前の事です。それから母親は荒れましてな。その女はシェファーセティル王国の難民だったのですが、1年前に流れ者の男と姿を消しました」

「ユートを残してですか?」

「そうです。元々、父親が死んでからはユートの世話などしていなかった。村の者達がユートに雑用を手伝わせて細々と世話をしていたのです。あれの父親には村が何度も助けられましたからの」

 

 僕から聞く前に村長がユートの事情を話してくれてくれて助かった。予想はしていたけど、それなりに重たい事情だった。


 それに、母親に捨てられるなんて僕にはとても想像出来ない。母さんが僕を捨てるなんて、絶対にないと断言出来る。


 グリの背中ではしゃぐユートを見る。

 満面の笑顔だ。グリもジャータカも楽しそうだ。

 グリとジャータカがこんなに早く山脈の外の人間に懐くなんて思いも寄らなかった。


 ユートの魂は間違いなく綺麗で強いのだろう。そうでなければ魔獣は懐かない。

 辛い生い立ちを感じさせない、とても可愛くて眩しい笑顔だ。ユートの為に何かしたい。そんな気持ちが湧き上がっていた。


「ところで村長、シェファーセティル王国とはなんですか?」

「はぁ? 何を言って、いや、まさか、ご存知ない?」

「知りません、初めて聞きました。何処にある国です?」


 その質問に村長は口を開けて驚いていた。

 僕は山脈産まれの山脈育ち、外の事は良くわからない。非常識な事を言ったのかもしれない。


 村長は最初こそ驚いていたが、それから丁寧にシェファーセティル王国の概要と15年前に起こった魔族との戦争の話をしてくれた。ほとんどの国民が殺され、生き残った数万人がパレッツァ王国とコンダイ帝国に移民した事など、全て初耳だった。


「では《聖光壁》は魔族軍の侵攻を防ぐために作られたんですね」

「そう聞いております。聖女様のお力で作られたと」

「魔族軍はそれからどうしたのですか? 陸は無理でも海があるじゃないですか?」

「それがおかしな話でしてな。パレッツァ王国は内陸国で海がない。直接知りようがないのですが、コンダイ帝国は何度か旧シェファーセティル王国に偵察船を送ったそうです。伝え聞く話では、海岸線は完全な無人。内陸深くまで進んだ偵察隊は全て帰らなかった。と」

「それはなんとも。……魔族の本国はどうです? 南の大陸ですよね?」

「そちらも鎖国状態でよくわからんそうです。どこまで本当かはわかりませんが」


 村長はそこで話を区切った。僕の方でも情報がいっぱいいっぱいで整理をつけたかった。


 少しの沈黙の後、ユートが大声で叫んだのだ。


「オレジラスの街が見えて来たぞ! デカい! すげぇ~!」


 ユートの指差す先、オレジラスの街は巨大だった。

 まだかなりの距離があるはずなのに、高い城壁がよく見える。


 街の中心部は周囲より少し高い場所に作られていた。

 それが街の心臓部なのだろう。城があり、強固な壁が円形に張り巡られていた。


 城壁の外側にも街があった、こちらは空堀と丸太の壁で守られていた。全体の規模でいえば、円の直径は2キロ以上はあるのではないか。

 

 これが街だ! これこそが街なんだ!


 街へ続く道に往来が増え、グリフォンに驚き怯える人達。

 けれどグリの上からユートが笑顔で手を振れば、誰もが胸を撫で下ろし警戒心を解く。あの笑顔と無邪気さは大した物だ。


「村長さん!」

「はい、なんですかな?」

「村と街の中間はなんですか!?」

「は? はぁ? それは、町? ですかな?」


 そうか! 4部族の村は町だったのか!

 

 

 最後までお読み頂きありがとうございます。

 今後とも応援よろしくお願いします!

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