テストの点は低い者勝ち
もしも、こんなおかしなクラスがあったら君はどう思う?
幽霊がいたり、みんな動かなかったり、生徒や先生が人間ではなかったり………。
他のみんなはおかしくなってしまうけれど、主人公だけはなぜかそのまんま。
日常では絶対にありえないことも、もしかしたらあるかもしれないことも。
もしも、そんなおかしなクラスは本当に存在するとしたら?
君はきっと普通のクラスしか知らないよね。
でも本当に存在するんだよ、異常化した学級が…。
この話の主人公達はそんなことは知らずに、唖然とすることだろう。
だけどその異常化は主人公本人が望んだものだから。もしかしたら気づく人もいるかもしれないねぇ…
◯ーーー
主人公:崎金百合波 14歳
「おっはよーう!今日も暑いね〜。あー、アイス食べたいよぉ〜」
「おはよ、百合波。今日は定期考査なのに、よく呑気にそんなこと言ってられるね。絶対勉強してないでしょう?ゲームでもしててさぁ」
「うっ…」
バレバレだった。まぁしょうがない、しょうがない。
私のことは何でもお見通しなのが当たり前。それがこの私の親友である。
「やっぱりね。それで点数取れなくて叱られても私に責任は無いよ、いいね?」
「分かってるよ。まぁ、大丈夫っしょ!」
「はぁ〜。私に勝ったらアイス奢ってあげるけど、いいの?」
「えっ?!まじ?ちゃんとやろ」
たかがアイス如き、勝てる訳もない。だけど気合が入ってしまうのだ。
私の操作もお手の物。人参ぶら下げるのが癖なのかもしれない。
私はついつい釣られるのだが、これもしょうがない。
私の親友である彼女の名前は『星川沙姫』。
学年トップの成績で、さらに美女。運動神経も良く、さらには性格も良いため、いわゆる『学校のアイドル的存在』なのである。
なぜそんな彼女と私が親友なのか、それは小学校の頃、音楽発表会のピアノ伴奏を競っていたことだ。ライバルで、お互い一緒にいて楽しかった。
中学校に上がると、勉強さっぱりの私は習熟度別クラス分けで、必ず沙姫と分かれる。
(これまた、しょうがない)
塾に行って頑張ろうと思っても続かないのだ。めんどくさい。だから、半年で辞めてしまった。
何故かピアノは続くのだが。
「ねぇねぇ、沙姫は自信あんの?やっぱりまた学年トップ??」
「どうだろね。私は寝る時間割いて勉強したけど、結果は分からないよ。愛梛ちゃんに勝てるといいけど」
畑愛梛。彼女は、学級委員をやっている真面目な頭脳派である。その反面、面白いしリーダーシップがある。
この人も結構校内で有名。
そして結構沙姫に似ている。顔も良いが無論、沙姫には敵わない。
「そっか。すごいねぇー。でも勉強なんてするならゲームしてた方がいいよ」
「絶対すごいと思ってないでしょ。てかね、百合波はそれでいいけど私は良くないのよ」
(はて、どうしてだろう?)
とりあえず聞くのは止めておいた。
長くなってめんどくさそうだから。
「「おはようございます」」
学校に着いたらとりあえず挨拶しておく。沙姫だけしてたら私が悪い意味で目立ってしまう。それは避けたい。
(テストだるいな。サボりたい…)
「おはようございます、沙姫先輩!あの……これ、受け取ってもらえませんか?」
「おはよ。美織ちゃん、どしたの?」
校門の前で沙姫を待っていたのは、沙姫と同じバレーボール部に所属する後輩だった。
沙姫は無論エースであるが、美織ちゃんの腕もなかなかである。
美織ちゃんは、童顔でかわいい。
(こんなかわいい妹がいたらいいのにねぇ)
妹力、後輩力が抜群。
そしてこの子も並に校内で有名。
沙姫の影響だとは思うが私の周りは校内で有名な子だらけ。
「えーっと、その〜、この前の…移動教室のお土産なんですけどぉ…、沙姫先輩に渡したくて買って来ちゃいまし…た。あっ、迷惑だったらごめんなさい」
「迷惑なんて思う訳ないよ。ありがとう。喜んで頂いとくね」
「わぁっ、ありがとうございます…!」
気だるい私とは正反対に、今日も可愛い後輩に絡まれている。
(どんだけ男女関係なくモテるんだ…)
「お土産ゲット!これで今日のテスト、愛梛ちゃんに勝てるわ。美織ちゃんに感謝感謝」
そう言いながらニヤついている。
(な〜に考えてるのか…)
表向き優等生アイドルで通っている彼女だが、ふざける時はふざけるし、面白い人である。
まぁ、完璧すぎると付き合いにくいから、丁度いいのだが。
「あ、沙姫ちゃんおはよ。どう?テストいけそう?私勝てるかなぁ、きつそう…」
「愛梛ちゃん、おはよう。めっちゃ同感だよ、やばい気がする…」
頭の良い人達は無視して、私は久しぶりに真面目に終わらせた宿題を提出しに行く。
(偉い偉い、私偉い)
「崎金、ちゃんと宿題やってきたのか?めずらしいな」
「めずらしいも何も、当たり前ですよ。いつもちゃんとやってます」
(嘘だよ、どうせ先生も分かってるわけだし)
「何言ってるんだ?やってないだろう、少しは星川を見習え、いいな?」
「はぁ…」
少しくらい褒めてくれてもいいのに。
それにしても、沙姫は先生にまで好かれているのか。どんだけ人気者だ。
「チャイム鳴るぞ〜、席着けー」
(もうそんな時間?、何も勉強してないわ)
やる気が出ないままテストが始まる。言うまでもなく、全然分からない。
しかも、最初から一番苦手な数学である。諦めるしかなさそうだ。次の国語を頑張るとしよう。
結局、真面目に解いてみたが分からず、半分も書かずに終わった。しょうがない。
「ねぇねぇ、百合波ちゃん問題解けた?」
後ろの席の優奈ちゃんが話しかけてくる。この子は私の同類で、自称『勉強できない』人で、更に気が合う。
(いやぁ〜、同類が居ると安心するよねぇ〜)
まぁ、こう思うのもしかたない。周りがすごい人だらけだからね。
「全然。半分も書けなかったよ、数学だし」
「だよね〜私もそれぐらいかなぁ。勉強しても取れないものは取れないよぉ。頭良い人ってどうしてるんだろうねぇ…」
「分かる分かる、どうしてそんなに取れるのか不思議だよ。私の場合、勉強もしないけどね…」
5教科全てのテストが終わった。今回は中間考査なため、実技教科はないのである。
「沙姫ぃ〜帰ろー」
「んー、ちょっと待って〜」
「はいはーい」
愛梛ちゃんを探しているらしい。テストの話でもするつもりだろう。
「ごめんごめん、愛梛ちゃんも一緒帰っていい?ちょっと話たいんだけど」
「いーよいーよ〜」
「ありがとう、ところで百合波ちゃんはテストできたの?」
一瞬固まる。『そんな訳ないよ、無理無理』と言いたいが、学級委員の前でそんなこと言えんのだ…!
(いやぁ…、どしよ?)
とりあえずしらばっくれるとしよう。
「えっとねー、どーだろねぇー、テスト受けた覚えないんだよねぇ」
「百合波ぁ、しらばっくれても意味ないよ。まぁ駄目だったということは理解できたけど」
「そうなの。じゃあ、次頑張ってね。そろそろやばいよ」
それはご尤もですけど。
「うん…。そうだ、沙姫ぃアイス奢ってー」
「いや、テスト駄目だったんでしょ。」
(ガーン、欲しかった…。分かってたけどね、食べたいのよ)
「まーねーぇ。結局どっちが勝ちそう??」
興味津々です、私。どっちが勝つか分からないのは面白いからね。
ワクワクするんだよねぇ。賭け事しようか。
「どーだろね?私は結構いけた!」
笑顔で話す沙姫。羨ましい。
「合計で勝負するんでしょ?私国語と理科は完璧だな〜。でもちょっと社会やらかしたよ」
苦笑いで『完璧』と『やらかした』と言う愛梛ちゃん。
(でもやらかしてないんだろうな。私としてはね)
「それじゃあどっちか分かんないね〜」
「だね」
「うん」
「私社会の最後の記述問題終わらなかったよ。あれ3点問題なのにねぇー、やばいよ…」
(そんなんあったっけ?)
社会は最初の2問しか解いてない。それも合ってる自信はない。だから分からなくて当然。
「なんか新田開発がどーのこーのみたいなやつでしょう?あれに5分取られた気がする」
「だよね。絶対終わんないよね。あれまじで問題が悪い。どんだけ書かせる気なんだろーね?」
「それなそれな。解答欄見た瞬間『終わった…』って思ったもん」
(うん、よく分からん。そんなんあった?)
これもさっきと同じ。解いてないからね。
「明日楽しみだね。勝つのは私だけど!」
いたずらっぽく言う愛梛ちゃん。
(むっちゃかわい〜)
外見も可愛い。私もその顔でそんなこと言いたいね。
「いや、私でしょ?」
負けずと沙姫も言う。
こっちも可愛い。
無論、外見もね。
勝手に1人でうっとりしてる私を他所に口論が始まる。自信家っていいよね。
(いや、単純に頭良いだけか)
「じゃあ、明日ね。話せて良かった、ありがとう」
「うん、またねぇ」
「明日ね〜」
愛梛ちゃんは意外と学校から家が近いらしい。
「くぅ〜、明日楽しみぃー!絶対勝つ、絶対勝つ……」
ニヤケ顔でなんかブツブツ言っている。
「はぁー…」
私は別に楽しみじゃない。むしろ点数低くて怒られるから嫌なくらいだ。
「じゃね、百合波。また明日っ」
「ん〜、またねぇ」
「おかえりなさい。お風呂準備できてるから、早く入ってきてね。テストの話は後でじっくり聞くわ。楽しみにしてるからねー」
(その話はしないでいただきたい…)
「あ~ぁ…、めんどくさい。テストなんてなければいーのにねぇ〜」
テストがなくても提出物出さないから成績は変わらないだろうが。
「それか、『テストは点数低い方がいい』とかさ…。まぁ、そんなことはありえないけどね」
この時百合波は、この願いが本当に叶ってしまうことをまだ知らない。
「で、テストどうだったの?昨夜も全く勉強してなかったでしょ。まさか駄目だったなんてことないでしょうね?」
「フフン、全然〜。国語は並だねぇ、あとは全く駄目!」
前回の一学期の期末テストよりは、マシだと思う。
国語は、だけど。
「どこが『フフン』よ、やっぱり駄目なんじゃない。塾また入んなさい」
「げっ…!」
(このままだとヤバイぞ…。塾行きだよ)
次の日の朝。学校全体のテストの結果が丸変わりする。
そう、テストの点は低い者勝ちなのだ。無論、0点は満点という扱いになる。
「おはよ、百合波。どしたの?そんな顔して。テストのことで怒られた?」
「うん、そーなの!このままだと塾行きになっちゃう、やばい…、助けてぇ〜沙姫ぃー!」
「ま、しょうがない。自業自得だよ。勉強すれば点取れるのにね、もったいないよ」
「ケチー」
学校に着くと1組の前に貼り出されていた。2学年のトップから順に書かれている。
2学年は4クラス。合わせて126人いる。
百合波の成績は、精々110番。赤点以下しかない。
私はどうせ下から数えた方が楽だと、下を見る。
すると一番下には『3ー22 星川沙姫』とある。沙姫の名前だ。なぜこうなったのか分からず、一番下がトップなのか、と思い直す。
だけど順位は『126』だった。しかし点数は『497点』。そして一つ上には『3ー19 畑愛梛』、『496点』。
普通なら、1点差で沙姫の勝ちなはずだ。だけど愛梛ちゃんの方が一つ上。違和感しかない。
隣にいる沙姫は、どこか妬む様な目でニコニコと笑っていた。私の方を見て。
怖かった。そして不思議だった。
だから沙姫に聞いてみることにした。
「ねぇ、沙姫。なんで…、私の方見て笑ってるの?私そんなに前より点数良くなった?」
ニコニコ、ニコニコ。答えもせずに、笑う沙姫。
可愛いはずなのに、どこか不気味。
更に質問してみる。
「沙姫…?なんで、沙姫も愛梛ちゃんも下なの?点数一番高いのに。カンニングなんかしてたりしないでしょ?」
諦めたのか、やっと沙姫は口を開く。不気味な笑顔のままで。
「何言ってるの、百合波。私も愛梛ちゃんも全く高くないよ。すごいのは百合波」
「え?私はたぶん100点未満だけど?」
「だからすごいんだよ。上の方見て」
上から3番目『3ー11 崎金百合波』、私の名前がある。点数は合計24点。明らかに低い。
「すっごーい!」
「おめでとう!」
「百合波ちゃん、やるじゃん」
「流石だな」
「良かったね〜」
等等。意味が分からない、何故低い点数を取って褒められるのか、祝福されるのか。
今日はみんなおかしい。言うまでもなく、この表を作った先生も。矛盾している。
普通なら、点数が高い方が順位は上になるはずだ。
「キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン」
チャイムが鳴り、みんなはぞろぞろと教室に入っていく。不思議に思いながらもみんなの後に付いていく。
「みなさん、おはようございます。廊下の掲示は見ましたか?このクラスは、平均的に順位が低い様です。クラストップは、崎金。次に原」
(やっぱりアレ本当なの?!私と優奈ちゃんが順位上ってどうなのよ?絶対おかしいって!)
『ワァァー!』っと歓声が聞こえる。みんなが私を褒めてくれる。
嬉しいけど、何か違う。何かが引っかかる。
それに、きっとみんなは心から私を褒めてくれている訳ではない。沙姫と同じ様な目をしている。妬む様な目だ。
怖かった。何故か虐められてる様な、誂われてる様な、嫌な気持ちだった。
さっさとこの教室から出たいと思った。
拒否反応というやつだ。
私は特に目立つ方ではないし、こういうのに慣れてない事も影響しているのかもしれない。
しかし、1日中みんなはやっぱりおかしかった。
だけど、学校を出た瞬間…。
「ごめんね百合波、私やっぱりトップだったわ。いやぁ、嬉しい嬉しい。やっぱり努力は裏切らないね。流石の愛梛ちゃんも今回の私に対して勝ち目はないね、フフン!」
「え?」
(あれ?)
確かにおかしいけど、何か私が学年トップだったはずだ。それに嬉しい事に戻っている。妬み無し。
(まぁ、いっか!忘れよう忘れよう)
「そうだね。おめでとう」
家に帰ってこっぴどく怒られた。
でも、それでいい。それが私なのだ。
(実力でいつかトップを取れるといいな)
結局私はトップではない。上を争うのは『星川沙姫』と『畑愛梛』。今回は僅か1点差。
私には無縁だ。でも、友達として仲良くすればいい。勉強で追いつけなくても、ピアノでもなんでもいつか勝ってみたい。
そして努力し、百合波の成績は少しずつ上がっていった。この次の定期考査、赤点オール回避に成功する。
「『テストの点数が低い方が上』。これを望んだ少女、崎金百合波。結果的に彼女の願いは叶ったが、別にいいものではなかった。
それに今の自分に満足できて、苦手で嫌いな事も努力し、自分なりに結果を掴んだ。
良かった良かった、めでたしめでたし。ではまた私も2年3組の生徒達の望む通りに、願いを叶えるといたしましょうか」