引退
『速報です。あの人気アイドル『フォールン♡エンジェル』が解散発表しました。解散理由なのですが、センターである『だ天使ちゃん』が「恋人がいるからアイドルをやめる」などと言ったようで、詳しい事は現在確認中ですが―――』
「マジかよ……」
とある日の放課後、スマホで見せられたニュースを見て唖然する俺、可児姫綺。
若い盛大に大人気であるアイドルユニット『フォ―リン♡エンジェル』が解散。
別に、俺はこのアイドルのファンではない。
なら、なぜ今俺は唖然してニュースを見ているか。
「ねぇ、驚いたでしょ?」
そう言ってスマホを俺の顔からズラし、ニヤリと微笑む女子、露崎双葉。
茶髪ボブショートヘアの童顔。目元がくりくりしてて愛らしい。
小柄であるが、胸元は制服からでも主張が激しくギャップがある。
そんな彼女が、俺にアイドルのニュースを見せているか、そんなの簡単な事だ。
「私には可児くんがいるからファンなんて必要ないの」
そう、露崎双葉は『フォーリン♡エンジェル』のセンター。そして、俺と同じ学校のクラスメイト。
極め付きは俺の恋人だ。
アイドルグループは、引退するまで恋愛禁止が鉄則。だから俺達はこれまで隠れて付き合っていた。
誰にもバレないようにひっそりと。親、学校の友達、双葉の仕事関係の人達全員に。
しかし、ニュースには堂々とアイドルグループが解散。しかも双葉がやめる理由が恋人がいる……これまで頑張って隠していたことが世間に公にされている。
「……どうしてこんなことを?」
俺は頭を抱えながら双葉に聞く。
こんな事したら大炎上極まりない。
私生活まで影響が出るレベルだ。それは双葉だけではない、俺にまで支障が出るんだ。
そこまで俺は気にしないけど、アイドルが恋愛で引退なんてファンに逆恨みされること間違いなしだ。
ストーカー、嫌がらせ……最悪、事件に発展しかねない。
「そんなの、可児くんとイチャイチャしたいからに決まってるじゃん?」
顎に人差し指を当てながら小首を傾げる双葉。
「イチャイチャだったらわざわざ解散……というか電撃引退しなくてもよかったんじゃ……これまでも上手く隠せてたし」
「その隠す恋愛っていうのに私は懲り懲りしたんだよ」
「表でも堂々と恋愛がしたいと?」
「うん! 学校でみんなに可児くんとのイチャイチャを見せびらかしたい!」
「……それで自分からメディアに発表して引退……ね」
覚悟決めすぎじゃないか?
『フォーリン♡エンジェル』は国内でもトップで人気のアイドル。それに、双葉はそのセンターを務めている。
テレビには引っ張りだこだし、YouTubeチャンネルだって100万人を超える人気度だ。
これからもっと有名になるであろうアイドルが、予告もしないでいきなり引退。
世間がパニックになり、ニュースになるのも当然だ。




