スケープゴート
墓参りに行った帰り道、イベント会場に寄る。
イベント会場は当市だけで無く、近隣市町村の住民も多数集まりごった返していた。
観客席は全て埋まり立ち見席も埋まりつつある。
イベント会場の中央部に裸馬に乗せられて来たものたちが集められ、馬から引きずり下ろされ等間隔で立てられている丸太に縛り付けられ行く。
丸太に縛り付けられるものたちを見て、会場に集まった人たちの中から怒号が湧いた。
「「殺せ! 殺せ! 殺せ!」」
丸太に縛り付けられているものたちは、怒号を浴びせて来る観客たちを怯えた目で見渡している。
少子高齢化が著しく進み人口も段々と減りつつある22世紀後半の今、雀の涙程しか支給されない年金受領が許される歳は85歳以降、85歳未満の現役世代も年金と税金で収入の半分以上を国に取り立てられていた。
22世紀半ば此の事が原因で暴動が発生し、政府与党の議員や役人が窮地に立たされる。
それを収めたのは偶々与党議員の中にいた霊能者。
彼はその能力を使い閻魔大王と交渉して、地獄に落とされていた亡者を日本各地にあるイベント会場に引きずり出す事に成功する。
暴動になる前に国民が胸に抱える鬱憤を放出させる為のイベント。
丸太に縛り付けられ地獄の鬼たちに金棒で殴られているスケープゴートである亡者は皆、少子高齢化を加速させた者たち。
交通事故で子供を轢き殺した奴、子供を犯罪に巻き込み殺害した犯罪者、金さえ貰えればと中高生の中絶や22週以降の胎児の堕胎を積極的に行った医者などだ。
少子高齢化になったのは此奴らのせいでは無いっていうのは皆分かっている。
だが誰かのせいにして鬱憤を晴らしたいとの思いが、イベント会場にいる観客全員の胸の中に積もっているのだ。