第59話 呪染源探しと地底界の探索
これまでの『オークの英雄~』は……。
今より四百年以上前のことッス。
オーク族の戦士バルカは魔王を滅ぼした勇者パーティの一員でした。
魔王討伐軍を指揮するクソつよ武将でもあったバルカ。
彼は魔王亡き後、世界各地のダンジョンを封印している最中に、崩落事故で死んだとされてマシタ。
でも! バルカは生きていた!
埋もれたダンジョンの中で休眠状態になって生き存えていたんです!
数百年の時を経て、遺跡と化していたダンジョンが発掘されたことで眠りから目覚め、復活を果たしたバルカは驚愕しマス。
かつて種族の対立を越えて人間やエルフといった種族と友好を結んだはずのオークが、魔王が生んだ魔物達と同じ扱いを受けていたからデス! 実際、バルカ以外のオーク達は知能が低下し、言葉を話すことができない呪いをかけられていて、ワリとヤバめの蛮族と化してましたからネ~~~。
知性退化しフィラルオークたちを力で屈服させ、群れのリーダーとなったバルカは、オークと人間達との衝突を避けようとして、まー色々と頑張りました。
フィラルオークの故郷を占領していた、高位の魔物『ワームナイト』を全滅させ、かつての仲間、アズルエルフのレバームスや、自分を『発掘』した小国アクアルの領主メトーリア達、ニンゲン族の協力を得ながら、うち捨てられていた城砦……アーガ砦を修復し、そこを拠点にしてフィラルオークの故郷を復興させることもできました。
それからワームナイトとの戦いで霊体に大ダメージを受けたメトーリアを必死に治療したりして……彼女とイイ雰囲気になったりして……。
ど~もバルカはメトーリアに本気で惚れてるみたいですねぇ!
メトーリアもまんざらではない様子だし……いいじゃないですか異種族間恋愛!
いや~懐かしいっ。
ギルド同盟が友好種族と敵性種族の仕分けをする前の時代を思い出しますね!
なんやかんやで呪いの抑制薬も完成し、バルカとメトーリアの仲もそれなりに進展。
あとは知性退化の呪い『退化の秘法』の根本となる呪染源を特定すればめでたしめでたし……といったところで事態は急転ッッッッ!
抑制薬を投与することで知能低下状態から徐々に快復すると思われていたフィラルオークの一人ネイルがいきなり言葉を話し始めたことから、地上とは異なる世界『地底界』には呪いにかかっていないオーク達が今も住んでいるのではないか……という可能性が浮上してきたのです!!!!!
…………あれ?
そういや先行して地底界に旅だったレバームスは今頃どうしてるんでしょうね。
× × ×
「ギデオン?」
器械精霊ギデオンは手の平サイズの可憐な少女の姿をしている。
本来はギルドクリスタル(※霊脈に繋がった結晶体。冒険者登録やパーティ編成、遠距離通信など、その他様々な機能を持つ)に宿る精霊なのだが、今はバルカに装備されており、彼の霊力を動力源にして活動している。
召喚に応じて姿を現すと、翅もないのにピクシーのように周囲を飛び回り、ペチャクチャと聞いてもいないことまで勝手に答え始める、お喋り精霊なのだが……。
今はボーッとして、空中で静止したまま、こちらの話に反応をしないのを心配してバルカが声をかけた。
「おい、聞いてんのかギデオン!」
「エ? あ、スミマセン。ちょっとこれまでの経緯をね。頭の中で整理してたものでして」
「これまでのことより、大事なのはこれからのことだ。地底界を調べに行く必要がある」
オークの知性を退化させている呪いの元……呪染源の特定と破壊。
そして、呪いにかかっていないオークがいる可能性の高い地底界を探索する。
バルカとしては、この二つがこれからの主要な目的となる。
だが、オークの里でのフィラルオーク達の生活は始まっている。
レギウラからアーガ砦までの旅のように群れ全体でレギオン・パーティを結成して地底界に出かけるわけにはいかない。
「だから――」
「まずはネイルですネ」
「え?」
「あとは最小限……多くても二名デスネ。オークの里は復興したばかりだし冬が始まります。出来る限り少ない面子の方が里の負担は軽いし、パーティも動きやすいでしょ。とは言っても、『地底界』はかつて『魔界』とも言われていた高レベルな戦闘スキルや魔法の使い手達の遊び場。ワンダーランドですからねっ! アクアル隊からは戦士メトーリア、治癒士のニーナ、魔法士のウォルシュ、輸送係としてアイテムボックス持ちのハント。この四名がいいと思いマス。衛生士のメリルも連れて行きたいところですが、フィラルオークに崇められるほどに好かれてる彼には、引き続き医者としてフィラルオーク達への投薬治療のためにもアーガ砦に残ってもらうべきです。アクアル隊の居残り組のまとめ役はボウエンに任せるのが適任でしょうネ」
「…………」
「何デス? 呪染源探しと地底界探索のパーティ・メンバーを選ぶ為の相談にワタシを呼んだんでしょう?」
「お、おう。こういう事に関してはやっぱさすがだな」
「フフーン」
バルカはギデオンの的確な分析にそぞろに頷いた後、側にいたネイルを見つめた。
「ネイル、そういうことなんだが、地底界に一緒に来てもらっても大丈夫か?」
「エ?」
「俺と、お前が、ここ、アーガ砦から長い間、いなくなっても、みんな平気か? みんなってのはジェンやバド。お前の家族と群れの仲間たちのことだ」
ネイルは呪いが抑制され、共通語を話すようになったとはいえ、まだ反応が鈍く、ボンヤリしているため、バルカは身振り手振りを交えながら、できるだけ言葉をかみ砕いて話した。
「オレが、群れを離れるよりも、長のバルカが離れるの方が、ヤバい」
「う、そうか……」
「でも……ジェンが女達まとめて……あとメリル。濃い酒つくったり、怪我や病気直せるメリルが、残るなら、オレとバルカがいなくても、群れは、まとまる」
ネイルは自分の妻ジェンの名を口にしたとき、なんともいえない複雑な表情を見せた。 今やネイルは名実ともにバルカが率いるレギオンパーティー……オークの群れの副官となっていた。
そんな彼だが、呪いの効果が薄れた反動なのか、記憶がかなり混乱・欠落しているようでジェンが自分の妻でバドが息子なのは忘れていないが、自分の家族や群れの仲間に対してかなり困惑しているようだった。
「そうか。なら一緒に地底界に行けるなっ。呪いにかかっていたときの記憶が曖昧なようだが、なーに心配するな。そのうち思い出すさ」
ネイルとは逆に、やっと大雑把な意思や感情表現しか伝わらない古語ではなく、まともな会話ができる同胞ができたことにバルカはすこぶる機嫌が良かったので、ことさら陽気にネイルを励ますのだった。
「ところデぇ~~~昨日のことなんですケド~~~?」
「な、なんだ?」
「メトーリアも他のアクアル関係者も今いないから聞いちゃうンですけど~~~?」
ちなみに今、バルカ達はアーガ砦天守の城主部屋にいたメトーリアにネイルが言葉を話すようになったことや地底界に退化の秘法の影響を受けていないオークがいるかも知れないことなどを話した後、下の階の大部屋に来ていた。
地底界の探索についてはメトーリアも交えて協議したかったが、その時砦の外で薬草を採りに行っていたというニーナが戻ってきたのを見たメトーリアに、
「……ニーナと話がある。席を外してもらえるか」
と、言われたからだ。
……それはともかく、バルカは唐突になんか始まったギデオンの、舐めくさったような、おちょくっているかのような表情と言葉遣いにイラッとした。
「なんだそのふざけた態度はっ。聞きたいことがあるならはっきり言え」
「じゃー、言いますけどぉ、昨日夕食後に、メトーリアに会いに行きましたよネ。わざわざワタシを、休眠状態にして」
「む……」
「二人っきりで何をお話ししてたのかな~、って気になってまして」
「そりゃ……バルカとメトーリアの姐さんは“つがい”なんだから、たくさん話すし、他にやることもあるだろ」
意外にもネイルが話に割り込んできたので、バルカは驚き、ギデオンは嬉々として調子づいた。
「まあ、“つがい”ならネ! それはそうなんですけどネ~~~」
ギデオンはバルカとメトーリアがあくまで“見せかけ”の男女の仲であることを知っている。
(そして多分、俺が本当にメトーリアに惚れているのも察している……のかこれは)
器械精霊ギデオンはクリスタルは手のひらに載るほどの小さな人型で、見た目こそ彼女の造物主であるレバームス達アズルエルフの繊細な美的感覚によって形作られたので、森の植物や水鳥を想起させる細かい装飾が施された短衣を着た裸足姿の可憐な少女の姿をしているが、性別などは存在しない。
「(なのに何でこちらの感情を読み取るのが巧いんだ……)アーガ砦と他の四つの集落の復旧状況とか、そういうことを教えてたんだよ」
「エ~~~それだけのためにワタシを休眠させたんデスカ?」
「——それから、一緒に大部屋の酒盛りに参加した」
無視してバルカは実際あったことを淡々と説明する。
「その後、“話があるから天守に戻ろう”といわれたから、城主部屋の天幕の中で飲み直しながら話をして、寝た」
「寝たんですカ!」
「いや違うッッッッ。ホントにただ寝たんだよ。睡眠! 就寝!」
「は?」
「んんっ!?」
「……なんだよ」
ギデオンが急に真顔になり、ネイルが眉を寄せながら首を捻った。
そして、ネイルは心配そうな、そして何故かほんのわずかに得意そうな表情になった。
「長は、バルカは、あれですか。酒で酔っ払うと、ダメな方なんですか」
「何がだよ」
「縮まるんですか?」
「!?!? おっま、んなことねえよ! き、急に、急に、お前——」
「いやホント、ネイル氏が疑問に思うのももっともなことですよ」
ギデオンはまじめくさった顔でバルカとネイルの間に割って入った。
「お前はお前でさっきから何なんだッ……!」
「いや、いいですカ。バルカ。いまから懇切丁寧に説明しマス。あのですね、こういうことは、ニンゲンもエルフもドワーフも、オークも、そんなに変わらないと思うんデス。
つきあい始めたカップルがデスヨ? お昼にランチを一緒に食べるよりも、ディナーをともにすることの方が、意味が深いんです。これはワカリマスよね?」
ギデオンは講釈を垂れながら、興奮気味にバルカの視界を右に左に飛び回る。バルカはそんな彼女の姿を困惑した目で追う。
「……」
「ワカリマスよね??」
「わ、わかる」
「ホントにぃ?」
「い、いいから続きを言え!」
「……で! さらにですよ。ディナーの後で、お呼ばれしたわけでしょ? 砦の天守に設営してるメトーリアの天幕ってカノジョのお家みたいなもんでしょ。その天幕のなかで“話をしよう”って、メトーリアの方から誘ってきたんでしょ?」
「そうだy」
「それ、ディナーなんぞよりもっともっとクッソ意味が深いヤツですよ! バルカ、あなたがイカなアカン奴なんですヨ!!!」
食い気味に、テンション極まった口調でギデオンにそういわれて、バルカは「そう言われれば確かにそうかもしれない」と思い初めて、頭を抱えて俯いた。
冷静になって昨日のことを思い出してみる。
「…………いや、でも昨日のあいつは相当酔っ払ってたし」
「うわ~~~無いわ! それにメトーリアにこれっぽっちもその気が無かったってんなら、それはそれでメトーリアが無防備すぎるというかアホというか。ちゃんとした教育を受けてないというか――」
「もういい黙れ! これは命令だ!!!」
「ングッ」
メトーリアにまでダメ出しをし始めたギデオンについにバルカはブチ切れて、主としての権限を発動させた。
突然、自分の口を開けられなくなり、唸り声すらも出せなくなったギデオンは、目を見開いて、手振りで抗議するが……。
「しばらく休眠してろ」
バルカは指を突きつけて命令を下した。
ギデオンは無念そうに肩を落とすと目を閉じ、卒倒するように後ろに倒れながらフッと姿を消した。
「……あの、バルカ」
「ネイルも! ジェンとバドのところに行ってやれ。当分会えなくなるんだから。自分の嫁と子供の心配しろ」
「ハイ、ワカリマシタ」
ネイルを下がらせると、バルカは一人、どっと疲れが押し寄せてくるのを感じながら昨日の出来事を、もう一度思い返してみる。
(……確かに、天幕に戻ってからは俺もメトーリアもかなり酔っ払ってたが……たしかに、いい雰囲気だったな。だったら思い切って、本当に好きだということを打ち明けるべきだったか? いやでも……)
そこまで考えてバルカはハッとする。
(ちょっと待て。それよりもだ。呪染源捜索や地底界探索パーティにメトーリア達アクアルの面々は参加してくれるだろうか? そうだ。ま、まずはそれを確かめないと)
バルカはメトーリアのいる天幕へと向かうのだった。




