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3話 対話スキルがあるオークの英雄


 激昂したバルカを見て、メトーリアはセルフボディチェックを止めて立ち上がる。

 もう、さすがに不意打ちをしたりスキルを使おうとはしないが、バルカへの警戒は全く解いていない。


(……敵意くらいは解いてくれてもいいんじゃないか? いきなり殺しにかかってきたのに対して、俺が何度も何度も手加減してたのは彼女も分かってるはずだ。なのに……)


 バルカは魔王討伐戦の頃を思い出す。

 魔王は魔物の軍勢を操るだけでなく、様々な呪いで友好種族を変異させたり、大地や流れる川を汚染したりして、世界を作り替えてしまうのではないかというほどの厄災を振りまいた。

 人間の勇者が率いるパーティに加わっていたバルカは、魔物と戦いながら、各地の呪いを解いていく旅をしてきた。

 そんな中、最初はオークのバルカを嫌悪していた他種族も見直してくれたりしたものだ。


(……なんだよ。そっちが勝手に自爆した傷さえ治療してやったのに――うわぁ……ジリジリと後ずさってる……)


 ……もういいかと、バルカは考え始める。

 友好を結んだといってもオークは狂暴で、他種族に略奪行為を仕掛ける蛮族だという印象は根強い。

 まあ、半分ぐらいは事実だ。力で物事を解決しがちなところもある。

 

(まともに会話する気もない、顔も見たくないっていうなら、もう出てってくれ。こっちはこっちで好き勝手にやるから)


 幸か不幸か、室内の出入り口はメトーリアの方が近い。

 そのまま逃げ去るなら、バルカはもうそれでいいと諦めかけた。

 できれば状況を確認したくて、話を聞きたかったが。


 バルカは自分でも不思議に思うほどいじけた気持ちになっていた。

 本当に妙だ。魔物や、あるいは魔王の軍門に屈した敵性種族との戦いで修羅場は数え切れないほど経験してきた。ヤワな性格はしていないと自負しているが、今はかなり落ち込んでいる。

 傷ついているといってもいい。

 そのくらい、目覚めたメトーリアが体を乱暴されていないかどうかを真っ先に調べ始めたのは、彼にとってショックだったのだ。

 

 一方、メトーリアはというと……逃げてはいなかった。

 バルカと一定の距離を保つと、ピタリと停止している。

 眉間に皺を寄せて、バルカから視線を外し、またバルカを見る。

 何かを迷っているようだ。


“メトーリア、殺してから全部剥ぎ取ってちょうだい。あとで献上するのよ”


 デイラとかいう女が、メトーリアに居丈高な態度でそう命令してたのをバルカは思い出した。


(まさか、まだあの命令を遂行しようとしているのか?)


 バルカは半ば呆れつつも、メトーリアに改めて強い興味を持った。

 やはり話をしたい。せめて自分か彼女に対して思ったことを少しでも伝えたかった。


(そういや彼女の剣、俺が持ってるんだった)


 そう心のなかで呟くがいなや、バルカはメトーリアの剣を出来るだけ恭しく両の手で捧げ持ち、言葉を発していた。


「……名前は、メトーリアと言ったな。お前に敬意を示すよ。死を覚悟してまで戦いに挑んだことに。それも何度も何度もだ。オークの戦士だってあそこまでできる奴はそうはいない」


 言葉に偽りはなかった。

 闘ってる最中は、さすがにしつこいとは思ったが、それはそれ。

 純粋に心の中で思ったことを真剣にバルカは伝えた。


「……」


 対するメトーリアは無言だ。


 いやなんか返事してくれよと、めげそうになるが必死に次の言葉を紡ごうとバルカは頭をひねった。

 そこで、つい先ほど自分が喋った内容に光明を見いだす。

 確かに、メトーリアは決死の覚悟で立ち向かってきた。

 しかし、人間はそう簡単に命を投げ出すような種族じゃないと、バルカは認識していた。

 だとしたら……だとしたら……。


「なあ、もしかして病にでもかかってるのか?」

「……」


 相変わらずの無言だが、反応はあった。

 怪訝な表情になって目を瞬いたのをバルカは見逃さなかった。


「いや、不治の病を患ったり、老いて弱ったオークの戦士の中には、戦いの中で死ぬことを望む者もいる。人間にもそういう考え方があるのかとおもってな」


「……」


 メトーリアは無言で何も答えない。警戒心を緩めず、バルカを睨むばかりだ。

 それでも、話をちゃんと聞いているのは気配で分かった。

 ここは会話を続けることが重要だ。バルカはそう考えた。 


 無言でいるとそれだけで、身体が大きくて他種族からは、たいそう狂暴そうに見えるらしい面構えのオークは怖れられ、誤解されやすいことを経験しているからだ。

 勇者パーティーにいた時に体で学んだことだ。


(そういえば、魔王討伐後の敵性種殲滅戦の頃には幾多の戦いを経て、固い絆で結ばれた冒険者同士で何組もの(つが)いが出来たが、オークの俺は特定の相手も無く、ずっと独り身だったな……いや、今はそんなことをしみじみ思い出してる場合じゃないッ)


 異種族カップルなども数多く成立していく中、ずっと独りぼっちだった時の、それはそれはとても嫌な記憶がぶり返しながらも、バルカは今この瞬間、目の前にいるメトーリアに集中した。


「だがそれはないか。オークは鼻が利くんだ。重い病気にかかっていたりして、余命幾ばくも無い生き物は特有の匂いを発する……お前にはそれがないからな。むしろ、死を覚悟した誇り高い戦士の匂いをさっきのお前は発していた」


 メトーリアは居心地が悪そうに身じろぎした。


(あ、今のは不味かったか。匂いの話をすると気持ち悪がる人間が結構いるんだった)


 体を動かした時にふと気づいたのか、メトーリアは篭手を外されている自分の腕を不思議そうに見つめた。

 そうだ、腕の傷。

 治療したのを、もう一度しっかりアピールしておくべきだろうと、バルカは思い至る。

 

「薬を使ったので傷は完全に癒えたはずだ。逆流した阻害スキルの影響も浄化されたはずだが」

「……薬?」


 メトーリアは、目覚めてから初めて口を開いた。


「ああ、霊薬だ。液体タイプのやつ」


 そう答えるバルカに、メトーリアは探るような目をしながら、冷ややかにこう言った。


「そんな貴重なモノをオークが持っているはずがない」


 自分の種族を侮辱する言葉を投げつけられて辟易とするバルカだが、その怒りはすぐに治まった。

 ここまで会話しながらメトーリアを観察していて、ある答えに行き着いたからだ。


「お前、人質でも取られているのか?」


 唐突かつ単刀直入に問われたメトーリアは、驚いて目を瞠った。


「……なぜ?」


「お前からは決死の覚悟を感じた。しかし人間は名誉の戦死などは、あまり望まないんじゃないのか。むしろ最後の最後まで必死に生きようとする種族だろ。病んでもいないし、自殺願望があるわけでもないなら、別の理由があるんじゃないかと思ってな。たとえば人質でも取られてるのか――とな」


「………………答える義務はない」


 メトーリアは突っぱねるが、その言葉に力は無かった。

 自分の推察がどうやら当たっているっぽいのを感じて、バルカもそれなら納得がいくと得心がいった。

 家族か?仲間か? 分からないがメトーリアは誰かのために命を張ったのかもしれない。


 (だとしたら良い奴じゃないか!)


 と、自分を殺そうとした相手にもかかわらず、バルカは思った。


「力になれるかもしれないから話してみろ。俺は、魔王討伐戦にも参加したオークの国の君主候補だ」

「何をわけの分からぬ事を……」

「どうしてだ。随分オークを毛嫌いしてるが、今は同盟を組んだ『友好種族』じゃないか」


 メトーリアは篭手を装着しなおし、身づくろいしながらため息をつく。


「オークに国など存在しない。それにオークは『敵性種族』だ。人里や旅人を襲って略奪を行う野蛮な種族――」

「は? いやいやいやいやいや」


 バルカは素っ頓狂な声をあげて、メトーリアの話を遮っていた。


「ハッハッハ。まさか、そんなわけないだろう」


 思わずオークの英雄は笑っていた。

 敵性種族という言葉はバルカには強烈すぎた。

 侮辱を通り越してもはやジョークにしか思えなかったのだ。


 だが真顔のメトーリアの、淡く澄んだ色のサファイアのような美しい瞳から放たれる、重々しい視線を受け止めながら、こうも考え始めていた。


――自分はどのくらい眠っていたんだ?


――仮死休眠状態のまま、ダンジョンにどのくらいの間、生き埋めになっていたんだ……。


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