アルディス、アルバート家を訪問する
そして二週間後、何故かアルディスがアルバート男爵家へ訪問しに来ていた。
「二週間ぶり、ヴィクトリア嬢。君の愛らしい顔がまた見られて嬉しいよ」
にこにこと麗しい笑顔をふりまき、アルバート家の家族・使用人一同をその輝く美貌で、ヴィクトリアにはその甘い台詞で硬直させていた。
「き、今日は、どのような、ご、御用向きで……? れ、レイヴィスさま、は、ご、ご一緒で、は?」
アルディスの笑顔をみたら先日のぺろりを思い出してしまい、ヴィクトリアの心臓は爆走をはじめ、うまく言葉が紡げない。
(ど、どうして、アルディス様はそんなに普通でいられるの? しんじられない…! あのぺろりって、家族なら普通なの? わたくしが変なの? 意識しすぎなの?)
そんなヴィクトリアの内心などお構いなしのようにアルディスはヴィクトリアをとろりと見つめる。その視線のせいでまた顔に熱が集中する。
「レイは皇都の学校の寮へ戻りましたよ。次に帰ってくるのは、夏休みじゃないかな?
僕も今年の九月に皇都の学校に入学するから、それまではヴィクトリア嬢ともっと仲良くなろうと思って。ヴィクトリア嬢は自領の学校でしょ? 週末は問題ないよね?」
「——えぇ? まさか、毎週来られる、おつもり、で?」
「ん? 毎週来ても構わないの? 嬉しいなぁ。そんなに歓迎してもらえるなんて」
いやいやいやいや————誰もそんなこと言っていませんが? とそこにいた一同思ったが、綺羅綺羅しい神のごとき美貌の圧には全ての者が屈していて、誰も何も言うことができなかった。
ちらりと父たちに目線をおくると、義母は喜色満面で真っ赤になっているし、父と祖父母は生温い目で自分たちを見ている。
(なぜ——!? いいの? この状況いいのですか?)
「あ、アルディス君、じゃあ私は仕事があるから、どうぞゆっくりね。トリア、お相手宜しく頼むよ」と父はそう言って手を振りながら、応接室から出て行ってしまった。
(………いいんだ………)
婚約者のレイヴィスではなく、その弟のアルディスが来るという状況をどうやら父と祖父母は容認している態度だ。どうも腑に落ちない。義母はわかっているのかいないのか、ただ美少年をみて喜んでいるだけなのか、あの様子ではさっぱりわからない。
そんなことを考えて混乱しているヴィクトリアやこの状況に戸惑っている使用人など、アルディスは全く気にするそぶりもない。
「では、ヴィクトリア嬢。早速なんだけど、この前工房のことを話してくれたでしょう? よかったら、見学させて欲しいんだ。君をあれほど夢中にさせるのはどんなものなのか、すごく気になっちゃって!」
「……まあ!」
ヴィクトリアの乱れていた心は、意外なことを言われた驚きで少し落ち着きを取り戻した。その提案自体はヴィクトリアにとって嬉しいだけで、否やはない。
「光栄ですわ! わたくしがご案内しますので、ぜひ見て行ってください!」
二人でにっこりと笑いあう。ヴィクトリアは気が付けばいつになく心が浮き立っていた。自分の好きなものにアルディスが興味を示してくれたことに、沸き立つような喜びを感じていた。
(誰かに認められるって、こんなに嬉しいことなんだ……!)
ヴィクトリアはまだ、自分のこの心の動きの意味を正しく理解しているとはいえなかった。
お互いを見つめて微笑みあい、まるでお花畑の中にいるような二人の雰囲気をみて、ヴィクトリアの義母と応接室にいたメイド一同は(あらあら……?)と思いつつ見守っているのだった。
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