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ヴィクトリアの挺身、アルディスの裏切  作者: 叶るゐ
第二章 アルディス
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カイリアムの弁明

 


「何故、その話を私にもってきた? 私が黒幕だとは思わなかったのか」


 あからさまな冷気は消えたが、相変わらず声と目線は厳しいままセロニアスは俺に質問してきた。

 それは、最初ちらっとは頭をかすめた考えだけど……


「思いませんでした」


 俺はきっぱりと否定した。その態度に何か思うところがあったのか、セロニアスの目元が僅かだが緩んだ(気がする)。そしてそのままだんまり……。多少雰囲気は和らいだようだが、俺をじっと見据えているだけなのに、圧が……、圧がスゴい……。


(うぅ——続けて話せってことか?)


「……マイラ鉱山で冒険者として過ごしてみて、そんな考えは全くなくなりました。マイラードはいい街です。これから広がることを考慮に入れた建物と通りの配置、上下水道が整備された清潔で美しい街並み。商業区画や居住区画などエリアごとにまとまっているから街歩きをしても分かりやすいし、警邏の人員も多く配置されて冒険者以外の一般人も安心して暮らせている。僕もマイラードで困ったことは何一つありませんでした。ここまで街の発展と維持に苦慮しているセロニアス…殿が、自ら台無しにするようなことをするわけがないと思いました」


 そうなのだ。マイラードに数週間しかまだいないが、本当にいろいろな工夫と思案がなされたと思われる街づくりがしてあって、一朝一夕で計画したものではないことを伺わせる。きっとセロニアスは随分前からマイラードの開発と発展を考えていたに違いない。

 それを一時の利益の為にぶち壊すわけがない。人にもその暮らしにも気遣い寄り添える、人としても領主としても真摯で誠実。そういう人物だと俺は判断した。


「…………何か気になったことはないか?」


 純粋に聞きたかったようで、少しソワソワしながら身を乗り出して聞いてきた。

 気になったところ……? うーん……、アレだ。気になったというよりはスゴイと思ったところが——


「あの、僕が言うのもおこがましいのですが……、職人への支援策が素晴らしいです! これからマイラードで需要が高まるであろう宝飾・宝石・金属加工の徒弟への住宅と制服の無償支給……! 僕が行った宝飾工房の親方もこれにはメッチャ感謝していましたよ。弟子達にメシの心配以外しなくて済むって。あ! それと無料の公衆浴場も最高です! 討伐後のひとっ風呂がたまらない…………ん?」


 なんとなく空気が暖かくなった気がして、どうしてかとキョロキョロ周りを見渡すとセロニアスと目があって、しばし見つめ合う。


「…………」


「…………」


 あ、あれ~? 無表情なんだけど、なんとなく目元が赤い? ちょっとテレてる……?

 くくく、と笑い声がジャックの方から聞こえてくる。


「セロ、お前すっげぇ喜んでるな!」


 ジャックが満面の笑みでセロニアスの背中をバンバン叩いていた。

 んん? その無表情で本当に喜んでるのか? 疑いの目で俺が二人を見ていたら、セロニアスがこくりと頷いた。


「マイラードの人達…………良かった…………」


 それだけ言うとセロニアスは安心したようにふぅーっと大きく息を吐いた。


「ああ。セロの前じゃ緊張して何も言ってくれなかったがなぁ。ちゃんとお前の施策が評価されてて、よかったな」


 セロニアスって、こんな感じの人だったのか? ジャックが通訳してくれなきゃ、全然何が言いたいのかわからんのだが。

 俺が呆然としていると、ジャックがいつもの気さくな雰囲気で笑顔を向けた。


「すまんな。セロは人見知りのせいか最初は威圧的で無口だが、気が緩むと今度は言葉を発するのが面倒になって口数が少なくなるんだ。ま、どっちにしてもしゃべらないことに変わりはないんだけど。でも、これが出るってことはリアムに大分気を許しているんだよ。それとリアム、お前セロの表情がある程度読めてるだろ? こんなにすぐにわかるようになるヤツ、俺とサーラ様以外では初めてだな! 自慢していいぞ~」


 いえ。表情というよりは、渦巻く冷気(オーラ)で判断していました。ちなみにサーラ様とは、セロニアスの奥方だ。

 そんな俺の心の声など知らず、セロニアスはまたこくりと頷いた。

 ……確かによく見ればちょっと微笑んでいるかも?

 気付けばなんとなく胸がむず痒くなって、口が勝手に弧の字を描いた。


「悪かったな。お前の事疑って。俺たち『カイリアム様』にはずっと警戒していてなぁ。やっぱりちゃんと話してみなきゃ分からないもんだな~」


 そう嬉しそうに言って、ジャックは俺の頭をわしゃわしゃ掻き回した。


「——で、『カイリアム様』はルキア侯爵様のお考えについてはどうお思いで?」


 さっきまでわしゃわしゃしていた頭の上の手の平ががっちりと頭に食い込み、低い声でジャックが耳元で囁いた。一転してぞくりと背筋が凍りそうな殺気のある声音に心臓がばくばくする。


「ル、ルキア侯爵の? えっと、お考えとは?」


 ジャックの殺気立った声とは裏腹に何を言っているのかさっぱりわからず、本気でうろたえた。このままではなんだか殺されそうだ……!

 セロニアスとジャックはそんな俺の様子をみて目配せをしあった。ジャックは俺の頭から手を放し、自分の顎に手を当ててしばし考えていた。


「……どうやら、俺たちは情報の擦り合わせが必要らしいですねぇ」


 二人の憂慮した顔を見て、もしかして俺は自分が思っていたよりも大きな面倒ごとに巻き込まれているのではないかと、いやな予感に身を震わせた。



 そしてジャックの説明によって、俺のこれまでの腹立たしい状況の理由——馬鹿みたいに過保護に育てられたこと、ルキア侯爵が俺を人と会わせないようにして情報を故意に遮断していたこと、学院で三馬鹿に監視されていたこと等——が、全てルキア侯爵とセロニアスの確執とルキア家の悲願とやらのせいだということを俺はやっと知ることができたのだ。



ありがとうございました。

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