アシェラの街
アシェラの街は、アルバート男爵領の領都で皇都に近い上に、アルバート男爵家特産である織物販売の交易・流通の拠点でもあり、職人街や市場、商店街が集まっており、結構な賑わいを見せている街である。
街の案内をするというならばすぐ出掛けましょうということになり、家令に馬車の用意をお願いし、玄関ホールで用意が出来るのを待つことになった。
ヴィクトリアがレイヴィスにどういう場所に行ってみたいかなどの相談をしていると、レイヴィスが「あの女の子は……」と玄関ホールの吹き抜けにある階段の踊り場の方を見て声をもらした。
ヴィクトリアもそちらを見みると踊り場から二人を覗き見ようと亀のように首を伸ばしていたその少女とばちりと目が合い、少女は咄嗟にひゅっと踊り場からそれに続く廊下へ移動しようとしたが見事に丸見えで、レイヴィスは目と口を思わず丸くした。
「ルナ……! はしたないですよ。こちらへ来て、ちゃんとご挨拶しましょう?」
ヴィクトリアが笑いを堪えて注意すると、その少女、ヴィクトリアの異母妹は廊下からひょっこり出てきて、おずおずと階段を下りてきた。
以前からルキア侯爵家の兄弟を見てみたいと駄々をこねていたが、婚約式まで我慢しなさいと両親から窘められていた。だが、今日は玄関ホールに長く留まっていたので気になったのだろう、とうとう覗き見を敢行してしまったようだ。ヴィクトリアは内心困った子ねと思うが、本気では怒っていない。
「レイヴィス様、わたくしの妹のルナアリアです」
ルナアリアは紹介されると、二人の前に立ち、精一杯きりりと顔を引き締め「はじめまして」としとやかに礼をとった。五歳の少女が先程の失態を取り戻すべく淑女らしく振舞おうと頑張る姿はとても愛らしく、ヴィクトリアもレイヴィスも思わずにっこりとした。
ルナアリアは、義母にそっくりな容姿をした蜂蜜色の金髪に紅茶色の瞳の美少女で、ヴィクトリアはこの妹を馬鹿みたいに溺愛していた。
「はじめまして、ルナアリア嬢。僕はルキア侯爵の長男でレイヴィスといいます。よろしくお願いします」と胸に手を当ててきちんと礼を返した。
ルナアリアは、大人(?)の男性に初めてきちんと礼を返され、嬉しさのあまり満面の笑みを浮かべた。つられてレイヴィスも微笑んだ。機嫌のよい猫みたいな目をみて、ルナアリアは優しそうなレイヴィスがすっかり気に入ってしまった。
「ねえさまたちは、アシェラにいくのでしょう? ルナもいっしょにいってはダメ? ルナもいっしょにレイヴィスさまをごあんないしたいです」
かわいいおねだりに胸をぎゅんと鷲掴みにされたヴィクトリアはもう連れて行きたくてたまらなくなっているが、レイヴィスはどうだろうかとちらりと目線を向けた。
レイヴィスはにこりとして頷いた。
「こんなに可愛らしい淑女お二人に案内していただけるなんて、大変光栄です。お姫様、是非お願い致します」
ルナアリアがきゃあと思わず声をあげ、真っ赤な顔を両手で隠して照れていると、家令のサイモンから「馬車の用意ができました」と声を掛けられた。早速皆でアシェラの街へ出掛けることになった。
「少し遅くなりましたが、ランチも兼ねてカフェに行きませんか?」
ヴィクトリアが商工会の用事を済ませた後、レイヴィスに声をかけた。
「そうですね。さっき市場でいろいろ食べたので空腹ではないのですが……、ルナアリア嬢は甘いものを召し上がりたいのでは?」
アシェラの街に到着し、商工会に行く道すがら職人街を見て歩き、ヴィクトリアが商工会で用事を済ませる間、ルナアリアとレイヴィスは市場を覗いてくると言ってしばし別行動した後、先ほど合流したところだ。
市場を歩いて露店を見て回っている間に、レイヴィスとルナアリアは結構、いやかなり仲良くなったようで、今ルナアリアはレイヴィスの左腕の上でいわゆる縦抱っこ状態でいた。
「はい。しょっぱいものばかりたべたので、ルナはクリームがいっぱいのケーキがたべたいです。レイヴィスさまはクリームおすきですか?」
「実は……。大好きなんです」
恥ずかしいから内緒ですよ?と両の眉を下げて言うレイヴィスに「ルナとすきなものいっしょですね」と楽しそうにルナアリアが答えていた。
その様子をみてヴィクトリアは心の中で大変悶えていた。見目のよい騎士に守るように抱えられている美少女……眼福である。
ルナアリアが究極可愛いのはいつものことだが、レイヴィスも単体でみればなかなか見栄えの良い少年である。弟のアルディスが次元の違う美貌のせいか影が薄くなりがちだが、騎士見習いとして鍛えている体躯は程よく筋肉がつき、年齢の割に背も高くすらりとしている。ルナアリアを優しく見つめている目は、細くいつも微笑んでいるようで柔和な印象があるが、よく見ると目尻の上がった切れ長で、真面目な顔をすると急に凛々しく見える時がある。灰色がかった銀髪も日の光の下ではいつもより明るく輝いていた。
その銀髪をみて、ふとある面影を思い出し、ずきりと胸がいたんだ。
「ねえさま?」
二人に怪訝な顔をされて、ヴィクトリアはハッとした。少しぼんやりとしていたらしい。
「で、では、お薦めのカフェに行きましょう」
ヴィクトリア、ルナアリア、レイヴィス三人とアリアナとレイヴィスの従者一人、護衛騎士二人は移動することにした。
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