受難のアルディス
「……ヴィクトリア様の護衛として女性騎士、そしてできれば転生者がよい、と云うことなんですよね?」
「おまっ、リード。いくらなんでも主人の心を読み過ぎじゃないか?」
いくらつきあいが長いとはいえ、どうしてそこまで具体的に伝わるのか。リードが優秀過ぎてコワい!
「…………」
俺が驚いてそう言うと、リョウタとマキが突然表情を無くし、半目になって俺を見た。
「アルディス様、さっき結構ココロの声(?)がダダ洩れていましたよ」
呆れたようにリードが言う。
「ホントか?!」
「自覚なしですか。気を付けた方がいいですよ。独り言多いのってオジサン臭いですから」
「うっ……」
ぷぅ、とマキが吹き出した。
「そうね! 確かにユウトは一人だけ“中身”がおぢさんだったものね!」
「そういえば、そうだったね」
マキとリョウタが顔を見合わせてケタケタ笑いあった。
「…………! おまえらっ!」
心外な発言にいきり立ちながらも、リョウタとマキの間に漂っていた重苦しい雰囲気が払拭されてほっとした。だが、次のリードの発言に一同度肝を抜かれた。
「……該当する人物に心当たりがあります」
「えっ?!」
リョウタとマキは驚きの顔でリードを凝視した。
俺はといえば、何かの折にリードが転生者らしき人物をみつけた、と言っていたことを思い出した。確かその人物は……。
リードは「ご報告出来るようになるまで少しお待ちください」と、これ以上言えることはないというように、にこりと笑った。
なんとなくそこまで言っておいてそれはないだろ、と思ったがルキア家とアルバート家に関する諜報活動の中でみつけたのなら、明かすのにもギルバートの許可がいるのだろう。
だがリードのことだ、すぐに報告は上げてくるはずだ。その辺は信頼している。
「じゃあ、その人物のことはリードに任せる。俺たちは————」
まずはマキの護衛に女性がいるか聞いて、すぐにでもギルバートに相談して、別動隊の編成も考えて……などと慌ただしく考えて動き出そうとした俺を、リードが冷静に止めに入った。
「お待ちください、アルディス様。逸るお気持ちは分かりますが、あなたがまずやるべきことをお忘れでしょうか?」
「やるべきこと?」
思わず首を捻った。ヴィーを守ること以上に、やるべきことなんてあったか?
怪訝な顔の俺を前に、リードはやれやれと云ったように首を振った。
「ヴィクトリア様と来年度から御一緒に過ごす為に、今年度で幼年学校を卒業するおつもりではありませんでしたか? あと残り二か月ほどで最終学年の試験を全部受けなければなりません」
「……!」
最近のバカみたいな忙しさのせいで、すっかり忘れていた!
「まぁ、ハードスケジュールねぇ……」
マキが心底他人事のように言うのが、途轍もなくイラついた。
「あ、そうそう。ハードスケジュールといえば、大きな街道を領地に持つサスキア中の領主から“監視カメラ”の予約が殺到していたんだった。開発者としてユウトには注文を全部チェックしてもらわないと」
急に思い出したように、リョウタがオソロシイことを言い出した。
「なっ……、そんなの、もう法具と陣の雛型は出来上がっているんだから、他の者に任せたっていいだろう?」
「法具を量産するのは中級か上級魔導師でも問題ないけれど、陣の方は領地毎の地形やいろいろな条件によってそれぞれ細かい注文があるから、その辺はユウトに対応してもらわないと駄目だろうな。まだあの陣をきちんと理解している魔導師がいないからね。他の者じゃ無理だよ」
「リョウタ……!!」
あっさりと俺の提案(懇願)は却下された。
「それだけじゃないわよ。魔導塔に入る時の条件だった、リョウタの依頼の件はどうなったのかしら? そちらもそろそろ本腰入れてもらわないとね」
「マキ……!!?」
だんだんと涙目になる俺に、リードが容赦なくダメ押しのごとく言った。
「とにかく、幼年学校の卒業だけはしなくてはなりません。そうでなければヴィクトリア様との婚約に差し支えますよ。魔導塔の魔導師となるのがヴィクトリア様との婚約の条件だと旦那様から伺っております。卒業しなければ、仮入塔で正式な魔導師ではないのですよね?」
「あっ……!」
そうだった……! これも忙しさにかまけてすっかり忘れていた。
だが、そうだ。リョウタなら……!
「いや、そんなことないよな? リョウタ。俺はこの一年、魔導塔にものすごく貢献したよな? 卒業が多少遅れたって、もう正式に魔導師として入塔を認めてくれるだろう?」
縋る様にリョウタに訊ねたが……
「……残念ながら、さすがに義務教育である幼年学校は卒業してもらわないと、正式に迎え入れることは出来ないよ、ユウト。だから、……頑張れ!」
結果は無情だった。リョウタはいい笑顔でサムズアップしている。そんな励ましはいらないんだ!
「そんな……。リョウタ、お前があんなに仕事を入れるから、俺は試験が受けられなかったんだぞ?! 少しは融通してくれてもいいじゃないか!」
「そう言われても、一番無理させられたのはルキア侯爵家からの依頼だったしねぇ。それは僕のせいではないだろう?」
俺の必死の訴えを、リョウタは歯牙にもかけなかった。
「なっ……! そんな……!」
「すべてはヴィクトリア嬢との婚約の為だもの! ユウトが頑張らなきゃならないのは仕方ないわよね! 私も応援だけは惜しみなくするわ!」
「マキっ! 貴様っ!」
「じゃあ、ユウト。敵の足取りを追う件は、ルキア侯爵と僕がしっかり相談しておくから、君は君のやるべきことを心置きなく頑張ってくれ!」
「えぇ……!」
「さ、ではアルディス様。早速、試験のスケジュールと仕事のスケジュールの調整をさっさと始めますよ」
がしりとリードに肩を掴まれる。
「「頑張ってね~!」」
「待て! 俺を見捨てるのか!」
リョウタとマキが満面の笑みでエールを送りながら部屋を出て行くのを、リードに拘束され執務机の前に座らされた俺は涙で潤んだ目で見送った。
リードは淡々とスケジュール表を机の上にひろげる。そのスケジュールは、いつから決まっていたのか、ほとんどびっしりと埋まっていて毛ほどの隙もない。
「これじゃ、ヴィーに会いに行く暇もないじゃないか!」
「しょうがありません。もうお尻は決まっているのですから。それにさらに仕事が増えてしまいましたし、アルディス様が死に物狂いで帳尻を合わせる努力をしてください」
「せめて、ヴィーの無事を確認させてくれ!」
「もう、確認済みじゃないですか」
リードは困った駄々っ子だと言いたげに、面倒くさそうな目をした。
「な、なん、なんだと————! いますぐヴィーに会わせろ————!!」
俺の悲痛な叫びなど、リードの「全部終わればすぐに会えますよ」という冷たいひとことで遮られた。
俺は、このめまぐるしく慌ただしい日々に追われて、自分がすっかり元の自分——日本にいた時の自分——を取り戻していることに、まったく気付いていなかった。
『面倒くさい』といって、無気力になにかをすぐに諦めることはもう有り得ない。
これからは、この世界を画面越しに見た気になることは、きっとないだろう————。
そうして俺がやっとヴィーに会えたのは、予定通り、この二か月後のことだった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
これで、「第二章 アルディス」終了です。
第三章は、婚約編 になる予定です。
二人には思う存分イチャイチャしてもらう(?)つもりです……けど、どうなりますか……。
とはいえ、まだ全然書き上がっていないので、しばらくお待ちいただけると幸いです。
もしかしたら先に、全く別の話を投稿するかもしれません。
どちらが先になるかわかりませんが、なるべく早めにお目に掛かれることを祈って……。
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