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ヴィクトリアの挺身、アルディスの裏切  作者: 叶るゐ
第二章 アルディス
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アルバート邸にて 1


 

 アルバート男爵邸へ戻る道すがら、レイが馬上から声を掛けてきた。レイとはある程度離れても会話ができるように、カフス(集音)とイヤーカフ(受信・送信)の法具をお互い身に着けている。


「そういえば、さっきは防御をかけてくれて、ありがとう」


「よく分かったな。でも礼を言われるほどのことじゃない」


 何かあるといけないから付いてきたんだ。そのくらい当たり前だ、という気持ちがあったので、ついそっけなく言った。

 しかし、レイにはそのへんはお見通しだったようで、にっこりと笑った。


「いいや。僕がいつもかけている防御より、ぐんと威力がアップしてすごく心強かった。さすがですね」


「ば~か。…………ヴィーにはバレてないよな」


「それは大丈夫だと思います。ヴィクトリア嬢は普段から防御なんてかけてないでしょうし、あの時は余裕もなかっただろうから、多分気付いていなかったと思いますよ」


「なら、いい」


「そうだ。思い出したので、ひとこと言わせていただきますが、あのイヤーカフと陣はなんです? 独占欲と執着まみれでこっちが恥ずかしくなりましたよ?!」


「……うるさいな」


「今からそんなに余裕がないと、すぐに嫌われますよ!」


 余裕がないのはしょうがないじゃないか。きっと俺の想っている半分もヴィーは俺のことなんて好きじゃないんだ。あえて言わなくてもいいじゃないか!


「…………そういえば、レイだってなんだよ。俺が引き籠っているとかヴィーに言ってさ。もしかしてレイはヴィーと本当は婚約したいのか?」


 ヴィーに俺を幻滅させて、自分との婚約をそのまま進めるつもりなのか。そんな考えが浮かんできて、思わずレイに威圧をかけた。レイは馬上からずり落ちそうになって、焦って反論した。


「馬鹿! そんなことあるわけないでしょう? 威圧をやめろ! まったく……、あとでよーく話し合う必要がありますね!」


「……悪かったよ。ごめん」


 レイが余りにもぶりぶり怒っているのですぐに謝った。どうもヴィーが絡むと俺も少し短慮になるようだ。

 並走する馬車の窓から、ヴィーのぐったりした顔がちらりと見えた。体は守れても、いまのままでは心まで守れない。早くどうにかしないと、と今度はそればかり考えていた。




 アルバート邸へ戻ると、すぐにヴィーとレイヴィスは応接室へと入っていった。俺は扉の外で待機だ。しかし、さっき馬上でも使った法具のおかげで、中の会話はばっちり聞こえていた。

 まぁ、これで、話に聞いていた通りウィラージュという人物がクソでクズで最低の人間で、自分がトクベツだと勘違いしているお貴族様の代表選手みたいなヤツだと言うことが非常に良くわかった。

 どうやら、自分が後見している甥の子爵を(恐らく)田舎に閉じ込めて自分が領主代理となり、その間に街道の関税やら通行料を上げて荒稼ぎするつもりらしい。

 アルバート男爵には、金を払いたくなければ自分たちの子分になれと脅しに来たわけだ。だが、子分になったらなったで、何かと理由をつけて金を搾り取られるのは目に見えている。

 しかし、アルバート男爵におだて上げられてべらべらと討伐計画だの自分が領主に就任するだのと口をスベらせるあたり、ちょっと(オツム)が足りないようだ。アルバート男爵にいいようにあしらわれていることにも、本人は気づいてなさそうだったし。

 そしてヤツの正気を本気で疑う事案もあった。アルバート邸を辞去するときにわかったのだが、ヴィーとの婚約を画策しておきながら、本当の本命は信じられないことにアルバート男爵夫人らしいということだ。

 気色が悪い。そのうえダメ押しの様に最後にヴィーを侮辱するような発言をした。もうヴィーの近くどころか、アルバート家いや、アルバート男爵領で息することすら許せない。後顧の憂いを残さないためにも、馬車に細工でもして…………。

 そんな考えを巡らせていると、レイが何か勘付いたのか俺を胡乱な目で睨んだ。仕方がない。今日のところは見逃してやるが、今度ヴィーの傍に近づいたら容赦はしない。




 この日は騒動もあり夜遅くなったということもあって、アルバート男爵の好意でレイヴィスと俺は男爵家に宿泊することとなった。

 俺はいい機会だと思いギルバートに『メール』で連絡し許しを得て、いままで俺が(密かに)管理していた、アルバート男爵邸に設置済みの『監視カメラ』をアルバート男爵に引き渡すことにした。



「凄い! これは本当に素晴らしいね……!」


 『監視カメラ』のモニター代わりの鏡に映像を流して見せると、感激したようにアルバート男爵はつぶやいた。

 その、どこか既視感のある反応を受けて、俺はほっと胸をなでおろした。設置してから三カ月ほど内緒で稼働させていたことは、これで不問にしてもらえるか?


「本当にこんな凄い『法具』を無償で譲ってくれると言うのか?」


 アルバート男爵の瞳は、子供が新しいおもちゃを貰った時のように、興奮できらきらと輝いていた。


「はい。アルディスが言うには、アルバート男爵の許可も得ず勝手に設置して、試作品の稼働試験もさせて頂いていたということで、この件をお怒りでなければ是非に、とのことです」


 レイヴィスが(正体を明かせない)俺の代わりに説明をしてくれていた。


「ああ……。まぁ、勝手といえば……、そうだな。それでは、ありがたくいただいておこう。アルディス君には大変感謝をしていると伝えておいてくれるかい?」


「はい。アルバート男爵にそう仰っていただけて、アルディスも安堵することでしょう」


 アルバート男爵とレイヴィスは、どちらも腹のうちを読ませない笑顔を交わし合っていた。


「……それにしても、アルディス君が魔導の才に長けていることはギルバートから聞いて知っていたが、こんな新作の『法具』を製作できるほどだとはねぇ……。以前『呪具』の解除をなんなくやってしまった時も驚いたが……。なんというか、早熟の天才とはこういうものなのかな。なんでも最近、魔導塔に仮入塔したらしいね? 素晴らしいね。アルディス君はやっぱり()()ではないねぇ。それもルキア家の血筋ということなのかな……」


 笑みを浮かべながらも探るようなアルバート男爵の視線にまったく怯んだ様子もなく、レイヴィスが柔和な笑顔で「過分なお言葉ですが、兄としては誇らしい限りです」と返している。


 ……さすが、レイヴィス。あの腹黒タヌキ(ギルバート)の後継者だ……。俺だったら、言いたいことがあるならハッキリ言いやがれ! とイライラしてしまいそうだ。なんとなくアルバート男爵には(アルディス)が転生者だとバレているような気もするが、今の段階でわざわざ教えることでもないだろう。


 レイヴィスの隣で内心そんなことを思いながら二人の様子を黙って伺っていた俺の方へ、アルバート男爵はスッと視線を移すと、不思議そうな顔をしてレイヴィスに質問する。


「それで、そこのレイヴィス君の従者が、アルディス君の代理で『監視かめら』の『もにたー』とやらの設置と調整をしてくれるのかい? 失礼だが、君はいったい……?」


ありがとうございました。

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