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ヴィクトリアの挺身、アルディスの裏切  作者: 叶るゐ
第二章 アルディス
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再会

 


 幼年学校での生活は概ね順調だった。

 入学後すぐの試験で、俺は全教科で満点を取った。まあ、それも当然だ。幼年学校の勉強はカイリアムの時と合わせて今回二回目。幼年学校は、卒業時に日本でいえば中学卒業レベルの学力なので、一応大学院卒の俺としては満点で当たり前くらいの気持ちだ。

 だが、学校側では俺を普通のカリキュラムのままでいいのかどうかと物議を醸したようで、入学後ひと月もしないうちに、学長とルキア侯爵も交えての三者面談と相成った。

 これは俺の目標にとって大変都合の良い展開になったものだ、と俺は自分の幸運をほくそ笑んだ。

 面談では、できれば飛び級して一年で卒業したいこと、持参した法具に関する論文を学長の推薦で学院か魔導塔に提出して欲しいことを伝えた。

 飛び級の方は案外すんなり許可された。一年でと言うのは異例らしいが、幼年学校で飛び級や試験のみ受けたいというのはよくあることだからだ。

 問題は論文の方だが、学長自ら「私は学院の魔導学科の教授も兼任しているので、預からせていただきます」と引き受けてくれた。

 そして、学院と魔導塔で大騒動が起こったらしい。


『上級魔導師カイリアムの未完の研究をわずか十二歳の少年が完成させた!』……と。


 一週間もしないうちに、魔導塔長との面談日が決まり、とうとう今日の午後に会う予定だ。

 今日は土曜の休校日なので、午前中に学校の図書室で調べものでもして、食堂でランチを済ませてから魔導塔へ向かおうと、幼年学校へ向かった。



 図書室で本を探していると、隣の本棚で背伸びをして本を取ろうとしている女生徒がいた。なんだか俺の方をちらちら見て、いかにも取って欲しそうな顔をしている。

 正直面倒だったのだが、通りすがりで無視するのもどうかと思ったので「これでいい?」と取ってやった。

 女生徒は上目遣いで「ありがとうございますっ」と甲高い甘い声で礼を言った。なんだか続けて話しかけてこられそうだったので、さっさとその場を後にした。

 そういえば最近こんなこと多くないか? と頭を過ったが、どうでもいいのですぐに(別にいいか)と考えるのをやめた。

 その後、食堂でランチをとっている時に、急に「さっきはありがとうございますっ」と声を掛けられた。全く見覚えのない女生徒だったので気味が悪く「いや……」とだけ言って、さっさと席を立った。

 席を立ってから、(はて、さっきなんかあったかな?)と思ったが、どうでもいいので深く考えなかった。

 魔導塔へ向かう辻馬車の中で、そういえば最近金髪の女生徒をよく見かけるかも……? とぼんやり思ったが、やっぱりどうでもよかったのですぐに違うことを考えて、そのことはすぐに忘れてしまった。




 魔導塔へ到着すると、応接室ではなく直接魔導塔長の執務室へ通された。

 もうすぐ来るとのことだったので、部屋の隅に設置してある応接セットのソファに座り、監視カメラの試作品をテーブルの上に並べて、大人しく待っていた。

 書類や論文らしき束が、床や執務机、本棚の隙間などいたるところに置いてある。試作品を置いたテーブルの上も、今自分が座っているソファにも紙の束がたくさん乗っていたので、待っている間に少し片付けたくらいだ。相当忙しいか整理整頓の出来ない人なんだなと部屋の中を眺めた。


(しかし、よくこんな部屋に人を呼べるな……)


 いわゆる汚部屋だ。あまりの散らかり様に、あきれてそんな感想が出た。

 しばらくすると、執務室の扉ががちゃりと開き、「お待たせして申し訳ない」と若い男性の声がしたので、扉の方へ振り向いた。

 俺は、驚愕で声もなくその人物を凝視した。

 それは入ってきた人物も同様だった。

 体感的には十秒以上はお互い見つめあっていたように感じたが、実際は数秒だったかもしれない。


「………………ユウト……?」


 絞り出すように、その人物はそう言った。藍色の髪に琥珀の瞳、鷹の様に鋭く精悍な顔。俺はその人物の容姿によく似たヤツを知っている……いや、知っていた。


「………………リョウタ……?」


「「ええぇぇぇ——!!!」」




「いやぁ……。本当にユウトだったとは……。びっくりしたな……」


「俺の方がびっくりだよ……。転生者って、みんな召喚された時と似たような容姿で生まれてくるのか?」


「さぁ。僕は初めての転生だから詳しくは……。そういうことは、あ! いかん、そうだった」


 ちょっとゴメン、と言いながら急にあたふたと『メール』で誰かにメッセージを送信していた。


「ルキア侯爵の子息って聞いて、もしかしたらと思ったんだ。だから僕が直接会うって強引に決めたんだけど、正解だったな」


 リョウタはそう言いながら腕を組んで、うんうんと一人頷く。そう思った理由は見当がつくので、俺は先に聞いておきたい方を質問した。


「ところで……、その、……本当にリョウタが……魔導塔長、なのか?」


 かなり戸惑いつつ聞いたのだが……


「うん? そうだよ」


 それがなにか? とでもいうような顔をされてしまった。いや、おかしいだろ!


「その年齢で魔導塔長はいくらなんでも無理があるだろう。何かのコネか? それともあれか、一日魔導塔長、とか?」


 どう見ても、リョウタは俺より少し上、せいぜいが十五・六歳程度にしか見えない。その年齢で魔導塔のトップに就けるわけがないと思う。


「あぁ。あ~。そうか、そうだった。うっかりしてたな」


 リョウタは両手で顔を押さえ、「うーん……」と唸った後、困ったように頭を掻いた。


「また今度、時間のある時に詳しく説明するつもりだけど……。これには、いろいろ込み入った事情があってね……。実は、その、僕の実年齢は……、三十代後半なんだ……」


「は? なに? めっちゃ若作りしてんの?」


「違う! だから、いろいろ訳が……!」


「——あぁ、もう。相変わらず汚部屋ねぇ。たまには掃除しなさいよ。ところで何? 緊急の呼び出しって————」


 突如乱入してきた声にびくりとして、その声がした窓際へ目をやった。

 転移魔法で執務室に現れた女の子が文句をいいながらドスドスと足音と埃を立ててこちらへ近づき、俺に気が付いた途端ぴたりと足が止まった。


 ストロベリーブロンドの髪に煌めく緑の瞳。記憶のままの、あの少女——


「……マキ……」


 マキも信じられないとでも言うように緑の目を見開いて、口をぽかんとしていた。


「まさか……、ユウトなの?」


「あ、あぁ……」


 リョウタだけでも驚きだったのに、マキにまで出会えるなんて————!


 カイリアムだった時に、あんなに会いたかった仲間がいま目の前に二人もいる。懐かしさ、感動、歓喜……そんな感情がじわじわと押し寄せた。

 俺もマキもただただお互いを黙ってみつめていたが、マキはふらふらと俺の目の前まで来ると、ぶるぶると手を震わせながら、俺に腕を伸ばした。

 俺もなんだか柄にもなく胸がいっぱいで、何を言ったらいいかわからない。取りあえずは……


「マキ、久しぶ……」


 全部言い終わらないうちに、ガッとマキの両手が俺の顔を挟み、首の骨がぐきっと言うほどマキの顔の近くまで引き寄せられた。


「なにこれなにこれ! すっごいキレイな顔! ライルリッツもめっちゃくちゃ美麗だったけど、今回は前以上にとんでもないことになっているわね! やだ、美少女でも通りそうじゃないの——!!!」


「……」


 あぁ、うん。マキってこんな()だったなぁ、って今思い出した。

 両頬を押さえつけている手をひっぺがして、「久しぶり」とにっこり笑った。


「嫌だ。笑顔がドス黒いわ。魔王みたいだわ。三百年でずいぶん性格が荒んだようね! ユウト」


「おかげさまで。君は相変わらずだね、マキ」


「ふふふ……。成長してないって言いたいのかしら?」


「君がそう聞こえるなら、そうなんじゃないの」


「うふふふ……」「ははは……」


 二人で薄ら笑いをする中、リョウタがあわあわと「二人とも落ち着いて……」などと宥める。なんとなく懐かしいやりとりだな、と思っていると、マキも同様だったようで、同時に「ぷっ」と吹き出した。

 最後にリョウタがホッとした顔をするところまででワンセットだ。



ありがとうございました。

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