プロローグ ~夜会にて
新連載はじめます。
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「君は身の程をわきまえたほうがよい!」
ヴィクトリア・アルバート男爵令嬢は、皇国立学院年度末の夜会の最中、いきなり目の前にいる男性に会場中に轟くような声で怒鳴られた。
年度末の夜会は、皇帝陛下も御来臨し、学院卒業生の成人の祝いも兼ねた盛大なもので、学院の行事の中でも最も華やかかつ賑やかな催しだ。
しかし、今現在ヴィクトリアの周辺だけは先程までの楽し気な喧騒などどこかへ飛んでゆき、水を打ったかのように静まり返っていた。
周りにいた生徒たちもただならぬ雰囲気を感じ取り、少し距離を置いて何事かと固唾をのんで様子をうかがっている。
怒鳴った男性は、ラーゼイン・コンラート侯爵令息。その後ろには、ヴィクトリアの婚約者アルディス・ルキア侯爵令息にアニス・コンラート侯爵令嬢(怒鳴ったコンラート侯爵令息の妹だ)が怯えるように寄り添っていた。
アルディスは、ヴィクトリアがいままで見たこともないほどの厳しい眼差しで佇んでいた。あんなにヴィクトリアを熱く見つめていた夏空のような真っ青の瞳は、いまや氷壁のごとく何ものをも拒むような冷たさだ。
(やっぱりこんな日がやってきてしまった……)
ヴィクトリアは、大切な人から見放される絶望感に打ち震えていた。その絶望の深さゆえか、視界からはだんだんと色と光が失われ、息が上がって頭がふらつき、立っていることすら覚束なかった。
覚悟はしてきたつもりであった。
でも、あくまで“つもり”だったのだと、いざその時がきてみて実感したのだ。
彼を失うのだ、という喪失感はあの時と似ていた。
いや、似てはいるが、全く違う。
あの時は彼がいてくれた。彼が私を救いあげてくれた。
今日は、その彼を、アルディスを失うのだ————
ヴィクトリアは、こんな時だというのにあの時を思い出さずにはいられなかった……。
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