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あの娘はヴァンパイアハンター

 朝、開かない目を擦りながら学校へ歩いていると、目の醒めるような短さのスカートを履いた女子がキャッキャッと騒いでいるのが目に入って、思わず()()(うず)く。


 俺の名前は日伏(ひぶせ)ナツ――吸血鬼だ。


 吸血鬼といっても、俺は人間の母親と吸血鬼の父親から生まれた、ハーフの吸血鬼で、見た目で違うのは白い肌と茶色い瞳と普通の人より鋭い犬歯だけ。

 人間の血を飲まなくても平気だし、日焼け止めを塗っておけば太陽を浴びても少し肌が赤くなるくらいで済むから、俺は人間として生活したいと思ってる。

 ……ただ、朝起きるのだけは本当に辛いから最近はちょっと夜の世界に生きようか考えている。けど、今日は楽しみなことがあったからいつもよりは簡単に起きられた。


 昨日、高校生活初めてのクラス替えをして隣の席になった女の子に俺は、一目惚れをした。

「日伏くん……だよね?私は鬼狩スズネ。今日からよろしく!」


 鬼狩さんは笑顔で挨拶してきた。キラキラと輝く純粋そうな目、見ているだけで元気になりそうな笑顔、健康的でふっくらとしたおいしそうな首筋……。


「あっ!……うっ、うん、よろしくお願いします」


 見とれてしまってうまく返事ができない。午前の授業中もそんな調子で先生の話なんて全く耳に入ってこなくて、横目でずっと鬼狩さんを見ていた。

 昼休みになって、鬼狩さんに話しかけようとしたけれど


「スズネーご飯食べに行こうよ」

「うん!今行くね!」


 友達らしき人が呼びに来てどこかに行ってしまったので、俺は落ち込んで、寂しく一人でご飯を食べていると何やら近くの女子が話しているのが聞こえてきた。


「鬼狩さんってかわいいよねー!」

「え〜でもなんか両親と一緒に怪しげな修行してるらしいよ」

「なにそれマジ気になる」

「ウワサだけどさ、吸血鬼ハンターなんだって!」

「それはさすがにウワサすぎ」

「でも結構みんな言ってるよ?」

「ホントかなー」


 ……そういえば父親から吸血鬼を狩ることを家業にしている一族がいると聞いたことがある。鬼狩って珍しい名字だと思ったけどそういう事情なら納得だった。

 その話を聞いてからの午後の授業中、俺はそりゃもうドキドキだった。一目惚れした人が自分とその仲間を狩る仕事をしてるんだから。


 授業が終わると俺はそそくさと家に帰った。そして一晩中悩みに悩んだ。

 結局俺が出した答えは、それならむしろそれを逆手に取って話しかけてもらって仲良くなろう、だ。

 この気持ちは誰にも止められない!キーアイテムはこのトマトジュース。作戦決行は体育の後だ。




 教室は制汗スプレーの、甘かったり酸っぱかったりする匂いが立ち込め、自分の好プレーを自慢する男子や、何が面白いのか分からない話で爆笑している女子でガヤガヤしている。


 鬼狩さんは体育のあとだからか髪を下ろしていて、隣でリュックの中から何かを探している。

 それを見て俺は、リュックからトマトジュースを取り出して、大げさにゴクゴクと喉を鳴らして飲む。


「トマトジュース、好きなの?」

「うん、甘酸っぱいのが好きかな」


 そう言って、自然なふうに笑って鋭利な犬歯が赤に染まっているのを見せた。すると、彼女は大きく目を見開いて、それからすっと目をそらし、リュックの中を探し続けながら聞いてきた。


「日伏くんは休みの日とか暇なときは何してるの?」

「ずっと家にいるよ。インドア派だから」

「鬼狩さんは何してるの?」

「私は……筋トレとか?」


 それはもしかしなくても吸血鬼を狩る訓練だねと考えつつも表情には出さずに答えた。

「へぇ〜!すごいストイックだね」


 探しものはヘアゴムだったようで、彼女は髪を結い始めた。そして、伏せ目がちに神妙な顔つきで聞いてきた。

「日伏くんはどういう髪型が好き?」

「えっ……」


 それはもちろんポニーテールかショートヘアーだ。だって首筋がはっきり見えるから……。

 返事は浮かんでいるのに、突然の上目遣いに胸がドキドキしてうまく答えられない。髪を結ぶ鬼狩さんのうなじに視線が吸い寄せられて離せない。

 普段犬歯を隠すために固く閉じている口がだんだん開いてきて半開きになる。


 血……スイタイ……。血……。いっそひと思いに……。


「日伏くん?どうしたの?」


 きらめく純粋な瞳が不安げにこちらを見つめているのを見てはっ、と我に帰る。


「……ふぁーあ。ごめんごめん。うーん、ポニーテールかな?」

「ふうーん。そっか……」


 開きかけた口をあくびするフリをしてごまかして、質問に答える。


「スズネー!学食いこ!」

「今行くから待ってて!日伏くん、またお話しようね」

「うん」


 髪を一つに結び、爽やかな汗の匂いを残して鬼狩さんは友達と一緒に学食に行ってしまった。すごく疑われたようだけど、どうやらうまくいったみたいだ。

 ドキドキした……。これをきっかけに仲良くなれるといいな。

恋愛ジャンルは書くのが初めてだったのですがどうだったでしょうか。改善点や感想など書いていただけると嬉しいです。評価も頂ければさらに喜びます。

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― 新着の感想 ―
[一言] いいですねー!なんとなく懐かしい雰囲気!おもしろいです!
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