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なんでも屋さんの弟子  作者: ソフィア・ラグナロク
第2章「師匠は自宅療養生活中」
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第13話「人を雇うには」

第2章「師匠は自宅療養生活中」

第13話「人を雇うには」


 数日間かけてホームページに募集のページを作成公開して、ひと段落ついたと思った翌日にはたくさんの電話とメールの対応に追われていた。


「なになになに!?」


 ひっきりなしに電話がくる。

 メールもたくさんときて、店の事も自分の生活もできないくらいに。


 ひとりひとり電話で対応したが、全て求人に対しての内容だった。

 全員には結論として履歴書をまず送ってくださいと伝えた。

 メールにもただ一言で「多忙のため対応できかねませんので、就職希望の方は履歴書を住所まで送付して頂きますよう宜しくお願いします」と、内容を読みもせずに返信を繰り返した。

 電話をしながら同時進行に繰り返して、落ち着いたのは夜になっていた。

 誰でもいいから、そばにいてくれる人とか欲しいなと切実に感じた。


 そして翌日のこと。


「郵便でーす。大量なので開けてくださーい!」


 ドアの向こうから郵便屋さんが呼んできた。

 慌ててドアを開けると、郵便屋が3人もいるから驚いて目が点になってしまった。


「えっ」


 少ない量なら、小型郵送便のドローンで配送してくれる。スピーディーで円滑に配送できるためでもある。

 重量がある場合は、郵便の配達員が運んでくれる。だから配達員が複数いる事に戸惑いも感じた。

 履歴書だけで重量となる?

 一般的な履歴書はB4サイズで、100枚で0.8キログラムになる。概算になると、重量扱いとなるのなら、10キログラムで約1200枚となる。

 配達員は車でなくバイクで来ているから……。

 計算するだけでも嫌になり始めた。同時にゾッと恐ろしく寒気も感じる。

 3人が重そうな履歴書を荷台からおろして玄関に置いていく。


 1箱。


 2箱。


 3箱……。


 ……まさかの6箱も。


 配達員に「ありがとうございました」と言い見送って、残った荷物を見てしばらく呆然としていた。

 この6箱もある中身を全部目を通さないといけないの?

 そう考えただけでもゾッとする。

 でも、とにかく行動をしなければいつまで経っても終わりなんてない。自分をそう奮い立たせて、すぐに全部の履歴書に目を通すことにした。


 



 玄関先にある荷物を全部リビングに運び、箱を全部開けると、膨大な量の履歴書が現れた。それと同時に強い不安を抱いた。

 そういえば、不採用通知を発送しないといけないんだっけ?

 就職活動の経験のない響子でも、それくらいの事は気が付いた。

 絶望を感じていると、師匠がゆっくりとした足取りでリビングにきた。


「それ。全部、履歴書?」

「……みたいです。どうしよう。ひとりじゃ、この量はムリです」

「私も手伝うよ」

「え、いや、師匠は休んでいてください! でも、さすがに、この量は……」

「レオは?」

「全然、連絡ないです」

「それなら、就職支援のサポートをしてくれる方に相談をしてみたらどう?」

「えっ。そんな所、あるんですか!?」

「ここからは距離があるけどね。1時間くらいってところかな」

「でもそういうのってお金かかりません?」

「……なら、いい機会だし、いろいろ、教えてあげる」


 それからいろんな話を話しながら、履歴書をいくつか取り出しては師匠がもう何枚も選別していく。

 履歴書を少しずつ見ながら説明をしてくれる。


「響子にとっては、どんな人に、店の手伝いをしてもらいたいの?」

「うーんと。家事もできる人で、仕事ももちろん、いろいろとしてくれる人」

「漠然とし過ぎてない?」

「もっと具体的にという事?」

「そうね。もし複数人を雇うなら、一般的に考えたら、既婚者の男性と女性がいいかしら。あるいは、女性のみとするか、ね」

「どうして?」

「男女関係はトラブルが起きやすいから。まぁ、レオは例外としてね」

「あぁ、確かに……」

「それを考えたら、まずは独り身の男性を除外する。彼女のいる男性でも見た目が不安な人は安心ができないから、この人も除外。その逆で、このような女性も除外ね」

「え?」


 師匠が次々と履歴書を分けていく。

 ひとつの空いた箱には除外と描かれてあり、おもに独り身の男性はその箱に入れられていく。

 けど、師匠はひとつの履歴書を見て、響子に見せてきた。

 ルックスはとても綺麗な女性で、整った顔立ちをしている。

 学歴も良くて、大学も卒業している優秀な人だ。だけど、なんでこの人が除外なの?


「何がダメなんですか?」

「趣味・特技のところ」


 うんと?

 要約をすると、ファッションにとても興味があり、某動画配信でも活動しているとのこと。

 要するに、うちでは相性が悪いということだ。


「あ、なるほど。うちではそこまでは求めていないから、って事ですね」

「そういうこと。まずは男女で区別すると、おそらく半分にできるけれど、またさらに選別作業をすると時間がさらにかかる。だから、少ない作業回数で厳選していく方が早くなるの」

「へぇ、そうなんだ!」

「さっき、就職支援のサポートに、って言ったけど、却下ね。この膨大な量だと、相応の金額にもなるだろうから。それに他のデメリットもあるだろう、し」

「そうなんですか?」

「とりあえず、厳選をしていきましょ」


 師匠の手伝いを貰いながら、少しずつでも作業を始めていった。


 店の管理などをしながら、納品アイテムや商品などを届ける作業もし、労働モンスターの世話役などもしながら、何日もかけて履歴書の厳選作業をしていった。

 けれど店の再開の目処は一向にたたず、早めに開きたいところだった。

 いくつかの納品日も、日々切羽詰まっていく。

 労働モンスター達もゆっくりできる事がなくて、疲れがたまり始めて段々と非効率になっていくのが目に見えてきた。

 1週間も経つと響子も疲れが酷くなり、仕事のミスも増え始めていた。師匠の容体も、疲れのせいもあって顔色が悪くなり、時々身体に激痛が走って横になることしかできなくなる。

 このような状況の中で、響子は1人だけでも早く労働者を増やしたいと思っていた。

 




 そんなある日、開店していないというのにひとりの訪問者がやってきた。

 

 店とは別の普段暮らしている家屋の玄関から呼び鈴がなった。


「なんだろう……」


 響子は疲れがたまって、頭がボーッとしていた。

 少し休憩したいと思ってリビングのテーブルに突っ伏していた所だった。

 重たい身体を起こして、ゆっくり歩きながら玄関を開けた。

 レオの可能性はないと思っていた。納品作業に忙しく追われているし、狩猟にでかける日も少なくなっているし。ましてやレオは呼び鈴なんて鳴らさない。

 ドアの先にいたのは、見ず知らずの40代くらいの女性だった。

 見た目はそうでもないし、服装もなにも目立った感じがない。ただ、会った瞬間から、この人はいつも納品しにいくスーパーで見かけた事のあるあの1人だとわかった。


「仙堂さん? どうかされました?」


 仙堂 (あゆみ)。いつもスーパーで納品の受取と精算管理などを担当してくれる人だ。

 凄く手際がいいし、怒った表情を見た事もない。とてもいい仕事関係者だ。


「こんにちわ。お休みのところすみません。いつもお世話になっております」

「いえいえ。こちらこそ、いつもありがとうございます」

「最近ですが、岬さんの元気がないように感じたので、少しお手伝いにきたのですが。いいでしょうか?」

「とんでもないです! 手伝いだなんて、そんな。大丈夫ですから」


 本当は手伝って欲しいのは山々である。猫の手も借りたいぐらい。

 だけど、取引先の方の手を借りるのは億劫であった。


「こちらとしては、いつも良質な商品を受け取らせて頂いているので。可能であればお手伝いをしたいのです。どんな事でも構いませんので、お願いします」

「……師匠に確認をします」

「いいえ。あなたの独断で構いません」

「しかし。その……」

「ここ数日の岬さんの様子を見ましたが、期日をしっかりと守る姿勢と、毅然とした態度が強く感じ始めております。今の岬さんなら、何も問題ないですよ」


 急に褒められたことにむず痒くなった。

 照れ臭くて表情がニヤけてしまいそうだった。けど仙堂さんの前だから、しっかりとしなければ。


「ありがとうございます。ですが、うちの情報漏洩に関わるような事をお願いする事はできませんので、雑用みたいな事をお願いしてしまうかもしれません。

 私からそのようなお願いはし辛いのですが。でも……宜しいでしょうか」

「お気遣いありがとうございます。全然構いませんので、お手伝いをさせて頂けるだけでも幸いでございます」

「ありがとうございます。いつから、できますか?」

「今からでも全然構いません」

「……とても助かります。ちょっとどころか、汚いかもしれませんが、あがってください」

「お邪魔します」


 仙堂が家に入った事は今までかつてない。ましてや、取引先の方が来る事もほとんどなかった。

 店ではいろいろと対応したりする事はあるが。

 だから恥ずかしくもあった。


 まずは、片付けができず日々汚くなっている台所に案内をした。

 その途端に響子は大きくお腹の虫がなってしまった。


「お昼まだだったんですか?」

「……はい。料理をするのも、億劫になってきていて……。大変お恥ずかしいです」

「いえいえ。全然いいです。冷蔵庫をお借りしてもいいですか?」

「それが、なんですが……」


 冷蔵庫を空けると、仙堂はすぐに察した。食材の買い足しができていないこと。周りを見渡すと、ジャンクフードとお菓子があり、リビングにはお菓子の破られた袋がそのままになっているのも見て把握した。

 それだけでも十分なほどに、この店だけでなく家庭内がギリギリになっている事を感じ取れた。

 さらには生ゴミの処理もしきれていないから、ハエもたかっていた。


「仙堂さんにこのような事をお願いするのも、とても苦しいのですが……」

「いえいえ。全然構いません。昼間の2時ですし、先に料理を用意します。他の店の人にお願いしてきますので、岬さんはお昼寝をして下さい」

「いえいえ。そんな。私もしますので」

「いいえ。岬さんはまず、しっかりと休養と取った方がいいです。料理ができましたら呼びますので。ごゆっくりして下さい」

「……ありがとうございます」

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