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なんでも屋さんの弟子  作者: ソフィア・ラグナロク
第2章「師匠は自宅療養生活中」
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第12話「巨人の正体は岬響子」

第2章「師匠は自宅療養生活中」

第12話「巨人の正体は岬響子」


 気がついた時には、結衣は知らない軍事施設のベッドにいた。同時に、手錠で手を拘束させられていた。


「立花結衣だな。協力には感謝するが、本時刻を持って除名をする」

「……構いません。ですが、アレは……。巨人はどうなったんですか?」

「捕獲中だ。だから、除名程度で済んだのだ。幸いだと思え」

「ありがとうございます」


 敵国に独断で入ってしまったのだから、除名くらいされてもおかしくないと思っていた。


 そうして軍から除名させられた結衣だが、それからはとくになにもする気力がなかった。今まで長期間も戦を続けていた事もあり、やっと落ち着いて過ごせると安堵してドッと疲れが出てきたのもある。

 けどまだ心残りがある。戦争は収束したようだが、あの巨人の最後をこの目で見たいし、どうなるのかも気がかりであった。隊長を丸呑みした人間であったとしても、あの子は、私よりも幼い一般人であるとわかっていたし。

 巨人になりたいと願った感じでもなさそうだから、ほかに理由がありそうだと考えた。

 それに巨人となる時に一部始終を見てしまったから、巨人のどこに本体があるのかもわかっていた。うなじにいる事を、結衣以外はきっと誰も知らない。

 おそらくほとんどの軍人やハンターは胸を狙うだろう。人間の急所は頭もしくはそこだから。ただし巨人ともなれば、頭は頑丈だろうから、兵器や武器では効果はなさそう。なら、まだ胸のほうが硬くないだろうから、そこが弱点なのではと一般的に考える気がする。

 それではダメだ。

 だからもしもの時、自分の手で、あの子を救うか殺して楽にしてあげようと思った。


 ただし、ひとつ気になる情報を耳にしてしまった。


「モンスターの侵攻がピタリとやんだそうだ。その原因は巨人らしいぜ」

「マジかよ。だったら、巨人はモンスター側じゃなく人間だって言うのか?」

「そうとも言えない。だが慎重にならなければな」


 他の上層部の人達が、結衣が施設から出る時にすれ違うときにその言葉を残していった。

 咄嗟的に振り返ってしまい、その人達と交互に目があった。

 3人共に、それ以上の言葉を投げかけてくることはなかった。表情や視線では、君の今後の動きを期待しているよ。と言わんばかりのメッセージを感じとれた。





 それから約1週間が経ち、結衣はセントバニアの国で正体を隠しながら巨人の後を追っていた。

 またしても巨人が暴れて海へと逃走したのは、やはり……という展開だった。

 あの少女・響子はもう人を殺したくないと考えたに違いないだろうし、自身の中にある別のなにかに身体を支配されようとしていて、苦しんでいるのでは、とも考えられなくもない。

 それに軍は巨人への対応に困っていた。

 巨人を殺せばモンスターが再び侵攻してくる恐れがあると、軍の中でその話はどこでも聞こえるようになった。

 駐屯地から住民へとさらに広まり、巨人が捕獲されている地域周辺ではその話が絶えなかった。

 さらに。

 響子の意識のある巨人は、自分は人間であると証明をした。空に手を挙げて、軍に対して背中を向けて、降参の意味を示した。

 軍人も民間人も、巨人の正体が人間であると知ってさらに戸惑う。

 総帥や元帥らが率いる本部からもそれから指示が途絶えてしまい、さらには国の代表をする首相達も唖然としてしまった。

 巨人を捕獲すること、つまり、人間を捕獲する事を世界に報せてしまうのは、なにもメリットなんてないからでもある。

 テロなどの反逆行為は明らかな害悪であるから、公開処分をしてもよかったかもしれない。


 巨人の正体についていろいろと議論が交わされた。

 様々な国が緊急でネットワーク会議を行い、身元の特定を急ぐべきだという主張もあれば、人間のふりをするモンスターなのではという意見もあった。

 ほとんどの国は、巨人を頑固として同じ人間なのであると認めたくなかったようだ。


 だがもし、敵国セントバニアの民間人を本国・セントバニアが死刑処分をしたとなると今後の国交問題に大きく関わることになる。

 もうすでにたくさんの人を食い殺して暴れまわった後でもあるから、ほとんどの人は敵意を剥き出しにしていた。

 今まではモンスターとの長期にわたる戦争で、多くのハンターも軍人も疲弊して士気も下がっていた。

 もしここで今の殺意のない巨人とセントバニアが争いを起こしてしまえば、ベニア連邦がどう動くかもわからない。

 国交は今も悪いが、ベニア連邦は領土がセントバニアよりも多く、軍事力もハンターの人数も圧倒的に多い。

 だから慎重にするべきだとセントバニアの上官達の間で話がまとまった。


 それから数日間が経ち……。


 様々な交流手段を用いて、巨人の響子にセントバニアの上官達の指示のもとで、たくさんの人達に囲まれながらたくさんの質問をしてきた。

 おもにYESかNOで答えられるような内容で。


「出身国は? セントバニアならYES。ベニア連邦ならNOで答えよ」


 緊急時用に改造したバスの上に電光掲示板が設置され、その文章を見て巨人が反応するという仕組み。

 大きな巨体で首を横に振った。

 その様子を遠くから立花結衣が傍観していた。遠くの廃ビルの上から。

 メガネを装着して、遠くが見えるようにレンズをズームさせていた。

 望遠鏡を使ったらバレるだろうし、もしかしたら捕まりかねない。結衣は身元を隠すように変装しているから、下手に動けないのだ。


「学生? 社会人?」


 また横に振る。

 ただそんな質問など意味がないのではと結衣が考える。

 人間は嘘をつく生き物だし、巨人の響子が正常に判断できているかにもよる。ましてや、巨人相手では心理学の応用もできないはずだ。

 普通の人なら、嘘をつく時は決まった行動パターンがある。

 表情を注視すればある程度はわかる。だが巨人の表情から真偽を確かめるのはムリなのではと、結衣は考えていた。


 はたから見れば拷問だろうなぁ。


 ポロッと言葉が出そうになった。

 そんな時に、ひょこっと隣にひとりの男が現れた。


「ここにいたんですね、師匠」

「レオ? 久しぶりね」

「お久しぶりです」


 この男、後に、響子と同じく結衣の経営する店の手伝いをすることになる。

 レオ・セントレイス。謎の多い人物ではあるのだが……。


「レオはどう思う? とは言っても、人間側の考えはないかもしれないけど」と意味深な言葉を結衣が言う。

「無意味ですよ。あのような尋問のようなやり方、全くないです。ましてや中の人は自身に何が起きているのかわからない女の子。正常な判断ができるはずもなく」

「妥当ね」

「しかし、師匠があの子を救いたいのなら、反対はしません。協力はできないかもしれませんが」

「別にいいわ。レオはレオでやっててくれればいいからね」

「了解です、ボス」





 そしてまた数日間も過ぎていく。

 結衣は場所を変えながら巨人を観察し、軍はやり方を変えながら調査もしていた。

 巨人の中の人が一般人だとは言っても、怒らせたらまた街を荒らされる可能性がある。だから用心深く毎日同じような事を繰り返していた。

 近くのビルや建物からは、よく巨人の様子を視認できる。

 観察を続ける結衣と同じように、セントバニアの一般人も巨人の姿を見にきていた。

 雨の日も、風の強い日も。雷の日も。

 屋上だったり、屋内だったり。

 とにかく何日も巨人を観察して、調査も続いていた。


 そんなある日。しばらくおとなしかった巨人が暴走し始めた。

 けれど様子が以前とは違う。

 むやみやたらに暴れながら、しきりに人間を探しては口に頬張っていく。

 だけどその時の表情が人間らしくない。本当は食べたくない。食べたくないけど、自分の意志とは相反して身体が動いてしまう。そんな錯覚が感じる。

 その証拠に、幾人も口にしようとする時、目が嫌だ嫌だと言っている。

 暴れ方も前とは違う。人間のような動きではなく、四足歩行をしながら街を破壊しているのだ。動き方もふらふらとしていて、まるで正気をなくしてただ無意識に歩いてるかのよう。

 動きも、まるで気持ちが悪い。

 へっへっへっと声を時々出しながら、襲ってくる戦闘機やヘリコプターを様々な魔法を使って破壊を繰り返す。


 遠くのビルの屋上からその様子を見ていた結衣だったが、一瞬、巨人と目があった。

 その一瞬に、巨人に隙ができて兵器をもろにくらい大きなダメージを受けた。

 その後、暴走していた巨人は真っ先に結衣のもとに直進してきた。

 ビルもよじ登ろうとしてくる。いくつかの戦闘ヘリコプターが結衣がいる事に気が付き、コンタクトしようと近付いてくる。

 結衣はフードを深くかぶっており、サングラスを装着し、黒い布マスクと完全な変装をしている。

 だから見た目だけでは身元はバレる事がない。だけど巨人は瞬時に誰かわかったようだった。

 きっとあの時だ。

 山の頂上で襲われた時に、きっと少女が結衣を覚えたのだろう。


「タスケ、テ」


 巨人が初めて人間の言葉を発した。挙動不審な動きに軍も戸惑い、一方的にしていた攻撃も止めた。

 暴走していた巨人が急に大人しくなるのも、結衣にとっては気分がとても悪い。はたから見れば、巨人をひとりの女性が操作していたと思われかねない。

 そんな巨人は結衣に手を伸ばしてくる。

 その手に乗って、巨人はゆっくりと地上におりた。

 多くの人に囲まれながら、そして巨人が頭を下げて謝ろうとする所を、たくさんの人に見られる。


「ゴメンナサイ。タスケテ、クダサイ」


 結衣は非常に困った。

 まるで諸悪の根源のように、自分が悪者のように思われてしまう。

 姿は隠しているとはいえ、今後ずっと姿を眩まし続けなければいけないのかと思うとゾッとする。


 いい方法が思いつかない。

 とりあえず、まずは少女の救助が先だろうと考えた。

 多くの人に見られながら、結衣は巨人をのぼっていきうなじの所で立ち止まった。

 右手を伸ばして刀武器を召喚させ、うなじに少し切り先をあてる。


「ここだよね?」と聴く。

「ハイ」

「いくよ?」


 中心から半径1メートルあたりを切り刻んでいく。

 意外にも刀がすっと入り、うなじの表面を切り削いでいくと、中には少女がいた。


 女性を引っ張って巨人から引き剥がすと、巨人がぎゃああああと騒ぎ始めた。

 自由に身動きができなくなり、ただ騒ぐ事しかできない。そんな巨人に結衣はトドメを刺そうとしたが、弱点はわからない。

 少女をいったん安全な場所に運んだ後に、ふーふーと言いながら小さくなっていく巨人に刀から狩猟銃に換装した。


「うるさいな。静かにしてくれる?」


 頭に撃ち抜く。

 そして、胸と脚に。

 それでもまだ静まらずに、今度は大型化しようとする巨人に対して強力な魔法を唱えた。


「燃え盛る炎よ、全ての根源を焼却せよ。ブラックメガファイガ!」


 両手から超巨大な黒い炎を出す。5メートルの巨人でさえも余裕で覆ってしまうほどの大型魔法を使って、巨人は叫びながら崩れ落ちる。約10秒魔法を持続させた後、巨人は燃えながら灰となって消えていく。

 でもまだしぶとく生きていて、燃えながらも結衣を殺そうと突進しようとした。

 けど強力なバリア魔法で、衝突で光が放たれた。

 右腕と左腕が灰となって消える。

 なのにまだ巨人は燃えカスとならない。

 バリア魔法を左手で継続させながら右手で違う魔法を繰り出す。

 

「炎がダメなら次は氷かな?」


 すると巨人が動きを止める。

 きっと弱点を知られたと思ったのだろう。

 すかさずに結衣は叫んで強力魔法を使った。


「凍りつけ巨人! ブリザガレイン!」


 右手から使用した魔法は、空から大きな氷を空から降らさせた。

 猛烈に降ってくる氷に対して巨人はなす術もなく凍りついていき、身動きひとつもできなくなった。

 そして何も喋れない巨人にトドメを刺す。


 靴に風魔法をエンチャントさせて宙に巻い、ハンマーを召喚させて巨大化を繰り返し繰り返しさせて、直系5メートルにも大型化させて叩き潰した。

 粉々になった氷を、あとは炎魔法で全部溶かさせて焼却させて、巨人との終止符をうった。





 そうこうして今に至る。

 響子は巨人になってから酷いショックを受けたのか、普段の会話ができなくなり、語学や社会常識などを教育するのにとても苦労した。

 家庭教師もつけたが、最初は本当に大変だった事を今でも鮮明に覚えている。

 だからこそ、今は師匠のためにと思っていろいろしてくれる事に、心から感謝していた。

 

 一方で、昔の事を思い出していた師匠とは別に、響子は新しく人を雇う手続きをひとり悩んで考えていた。

 まずは店のホームページにて募集公開しようと決めたところだった。


 それまで、落書き用のメモ帳にいろいろ書き殴ってあった。

 

 スカウト?

 ヘッドハンティング?

 

 このふたつを考えてみたがすぐに却下した。

 そこまでする能力が自分にはないと考えたし、企業勤めなどで優秀な人がこのような店に来てくれる可能性は低いのではと考えた。

 

 その次の候補は、就職案内所に仲介してもらうか。

 でもこの場合だと、仲介料はとられるだろうし、スケジュール調整の必要性もありうる。

 却下、かな。


 それ以外にも方法がおそらくあるが、無難に店のホームページにて募集提示するのが手っ取り早いかなと考えた。

 簡単かつ、経営者もしくは管理者としてはスケジュール調整などがしやすいのが大きなメリットでもある。


 これにしよう!


 早速ホームページにリンクを追加させよう! と思ったのだが。


「あっ……」


 新しくページを作るの初めてだという事に気がついた。

 

「あー、もう、うまくいかないー!」

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