2. ノビタが作ったAIは全てのスポーツの勝敗を当てれるようになってしまった
ノビタが作ったAIがサッカーの試合の勝敗を当てれるようになってから、Jリーグを見に行くサポーターも減っていき、テレビのサッカー中継もなくなり、子供がなりたい職業からサッカー選手が消えていった。サッカー選手たちは負けると予想されている試合は、無理をしなくなっていった。そんな選手を見て、サポーターはますますスタジアムに集まらなくなった。サポーター達は、みんなノビタを恨んでいた。
その矛先はノビスケにも向いた。ノビスケは不要なタックルをうけるようになった。ノビスケが倒れてうずくまると、敵のサポーターだけでなく味方のサポーターも歓声を上げた。
ノビスケはどの試合もアウェーで戦っているような気持ちだった。ボールを持つだけでブーイングされ、シュートを外すと会場が笑いに包まれた。まだ高校生だったノビスケは、それでも必死に努力した。チームメイトはそんな彼を応援した。
そんなノビスケの努力が実り、日本代表の欧州遠征のメンバーにノビスケが選ばれた。欧州遠征の予想は、3戦全敗とされていたが、ノビスケはノビタにこう言っていた。
「じっちゃんの予想は、僕がくつがえすよ。じっちゃんには申し訳ないけど、サッカーはそんな単純なものじゃないってことを証明してやるよ。じっちゃんの名に恥じないようなサッカーをやってやるよ。じっちゃんがサッカーを面白くなくしたってみんな言ってるけど、僕が面白いサッカーを見せてやるよ。」
ノビスケは、どれだけノビタのせいで自分が逆境に立っていようとも、ノビタを尊敬する姿勢を見せ続けていた。ノビタもそれに応えるように、ノビスケを全力で応援した。
だが、日本代表デビューを控えたイギリスのホテルで、ノビスケはイギリス人のサポーターに襲われ病院に運び込まれた。重症だった。翌日、彼は、もう自力では歩けないことが発表された。
ノビタは病室に駆けつけた。ノビスケは抜け殻のようだった。ノビスケはノビタの方を見て、涙を浮かべながらこう言った。
「何しに来たんだよ。もうサッカーできなくなっちまったよ。お前のせいだよ。お前のせいで、もう、サッカーできないんだよ!出ていけよ!おれを殴ったやつがお前を殴りたかったみたいに、おれはお前を殴りたいんだよ。とっとと出ていけ!」
ノビタはそれからどうやって家に帰ったのか覚えていない。家で、シズカに抱き抱えられてから、2日間目を覚まさなかった。
それから、ノビタは数ヶ月寝たきりの生活を送った。自分のせいでノビスケから夢を奪ってしまったことを悔やんだのと同時に、何もかもを失ってしまったことをノビスケの言葉でやっと理解したのだった。残ったのは大金だけだった。そして、小学生の頃もそうだったように、ヒデトシはノビタを助けることはなかった。ヒデトシはAIの精度向上に夢中だった。
ヒデトシは、さらにAIの精度を向上し、あらゆるスポーツの勝敗を予想できるように改良していった。ワールドカップの次の年は甲子園を予想した。地方大会のデータを使って甲子園の結果を予想した。もちろん大当たりだった。
テレビの中継はAIの予想が外れたときに大きく盛り上がり、選手がどれだけ努力してその場に立っているかなど、もう誰も気にしていないようだった。もう負けることがわかっているチームに対して応援している応援団もチアリーダーも吹奏楽団も悲壮だった。
サッカーファンだけでなく、野球ファンもバレーボールファンも、みんなノビタのことが許せなかった。なんで、こんなもの作ったのかと。一生懸命頑張って練習してきたことを出し切った結果を得たかったと。なんで先に答えを言ってしまうのか。頑張ってもどうせ勝てない試合なんて頑張れるわけないじゃないかと。誰もがノビタを恨み、それを口に出すことをはばからなかった。
こうして、学校から部活動はなくなり、スポーツ観戦もしなくなり、クラブチームもなくなり、友人とたまに体を動かすことはあっても、スポーツの話題を話すことはなくなった。テレビのスポーツ中継もなくなった。オリンピックを誘致する都市もなくなった。まさに、世の中からスポーツという文化が消えていった。世間が罪人と見なしたノビタはひっそりと暮らしていた。ノビタを裁く法律はなかった。そうして月日は流れ、ノビタとノビスケの事、サッカーというスポーツなあったことを世の中は忘れていった。