Prologue 朱き月
わたしは夢を見ている。
これは夢だ、とはっきりわかる夢。
だってあまりにも、現実味がなさすぎる。
辺り一面何も見えない暗闇のなかで、ただそれだけが輝いている。
まるで炎のような真紅。まるで血のような朱。
その炎はだんだんと近づいてきて。
そして。
そして。
----------新生暦 365年 10月30日----------
「っあ……うーん……?」
醒めてしまった。なんだか思い出せないけど、後ろ髪をひかれるような思いをしつつ寝惚け眼をこする。
「おはよう、わたし……」
ありもしない気合を無理やり入れて部屋のカーテンを開ける。外は寝起きの頭にはちょっと刺激が強いくらい綺麗な青空。広がる街の向こうにはこの国、エスポワール魔導王国の王城が今朝も変わらずそびえ立つ。
この街はそんなエスポワールの王都から少し離れた都市、フェルチュード。王国一の工業都市なだけあって、立ち並ぶ工場からはもくもくと煙が立ち上っていて、朝からせっせと働く人たちは汗をかきながらも輝いていて少し羨ましい。そんな中でもはっきりと見える王城の屋根に留まった鳥たちが、楽しそうにじゃれあっている。
そうして和やかな風景をぼんやり眺めていた時、視界の一部で黒いフラッシュのような光が弾ける。
「う…っ!いけない、眼鏡…」
寝ぼけていたせいかいつもの習慣をすっ飛ばしていたことに気付く。ベッドのそばに置いていた眼鏡をかけた途端、視界の端で突き刺すように主張していたどす黒いものがぼやける。
わたしは“見えすぎる”体質だった。「過視症」と呼ばれるそれは視力抑制のための眼鏡をかけることで落ち着く。だけどわたしの場合のそれはただ見えすぎるだけじゃない。
この世界には、魔力が満ちている。太古の時代にこの星に落ちてきて、今は暗い海の底にあると言われている“天からの恵み”が発するエネルギーである魔力は、この星の人類の意思とリンクすることが出来る。人類がそのように進化したとも言われているけど、どちらにしても今の世界はこの大気中の魔力を使って発展を続けている。
わたしにはそんな魔力が肉眼で見えてしまう。過視症の延長線上にある症状だけど、今のところこの症例が確認されているのは世界中でわたしただ一人らしい。
大気中の魔力はそこまでの濃度ではないから視界に現れるほどではないけど、人の意思、とりわけ負の感情とリンクした魔力はわたしにとっては毒となる。そんな症状もこの眼鏡で少しだけ和らげることが出来る。
まあ、それでも距離が近ければ眼鏡越しでも苦痛を感じてしまうから、基本的にわたしは一日中をこの屋敷で過ごすことになっている。
「今日も何かあったのかな…」
さっき眼に入ってきた嫌な感じ。もちろんちょっとやそっとの事じゃこんなにはっきり眼には入らない。それは例えば誰かが傷付いた時、苦しんだ時だったり想像のつかない何かが起きた時。それほどの頻度じゃないけど、近ごろは目に映ることが少し多い。気付いているのはわたしだけかもしれないけど、わたしに何かができる訳でもない。ただただもどかしい気持ちをごまかすように、少しだけ胸に現れた罪悪感を押しつぶすようにわたしは再び布団に潜りこんだ。
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「……ん……。」
気付けばまた眠ってしまっていた。眼鏡をかけたまま眠ったせいでフレームが押し付けられていた部分が痛い。跡になってないといいな、と思いつつ今度こそと体を起こし立ち上がった。開けっ放しのカーテンの向こうではまだ陽が高く昇っていた。
「そういえばさっき何時だったのか見てなかったわね…まあお昼のうちに起きられたからよしとしよっか」
そう自分に言い聞かせた時、人がいたら逃げたくなるくらいの音でおなかが鳴った。肩甲骨の辺りまで伸びてる髪は目も当てられないくらいボサボサだけど、ひとまずエネルギー補給しなきゃ。なんて考えながらあくびを噛み殺しつつ部屋の扉を開けると、想像しないぐらい近距離によく知る顔があった。
「おはようございます、姉さま。お腹が空いておいでなのですね」
「………おはよう…聞こえてたのね」
出迎えたのは妹のサラ。とっても真面目ないい子だけど本当にわたしが姉でこの子が妹なのか我ながら疑う程しっかりしてるし、私の事はなんでも分かってくれている。分かりすぎていて怖い時がたまにある。例えば今みたいな。
「一度目の起床が午前九時。ただいま正午を回ったところです」
「……」
サラの視線がとても痛い。それもそうだ。外に出られないとはいえ私はもう十五歳。本来ならば学校に通っている年齢のため自主学習と家庭教師の授業で知識面を補っている。だというのに午前中の時間全てを睡眠に費やしたのだ。唯一の救いは今日が家庭教師の先生の訪問日じゃなかったこと。
「姉さま、何度も言っておりますがもう少しジェラール家の長女としての自覚を…」
「分かってる!ごめんなさい!だからそんな哀れなものを見るような目でわたしを見るのはやめましょう?ねっ?」
「そんな目では見ていません。朝食という名前の昼食が用意してあるので食べてくださいね。あと顔も洗って、服も着替えて、髪も梳かしてください。せっかくの綺麗な黒髪が台無しです」
それだけ淡々と伝え、涙目のわたしを置いてサラは廊下をすたすたと歩いて行ってしまった。
ジェラール家は「魔具」の研究、生産などの権威を持つ家。わたしはそのジェラール家の長女だ。
「魔具」というのはざっくり言えば魔力を有効活用できるお手軽アイテムみたいなもので、家を建てたりするのに使われたり、けがの治療や料理まで、用途は様々で現在の人々の暮らしに欠かせないもの。わたしがかけている視力抑制用の眼鏡も魔具の一つ。
でも今最も需要があるのは兵器として使われる魔具だった。今海の向こうでは大きな戦争が起きているらしくて、それでお母さんは長い間家を空けている状態。ちなみにお父さんはわたしたちが物心つく前に旅に出たとか、ずっと研究所にこもってるとか、その時その時で適当なことを言われてて実際どこで何をしているのかはわからない。
サラはそんな中わたしにまで気を使ってくれる本当によく出来た妹だ。わたしも頑張らないとな…と思いつつ、とぼとぼと食堂へ向かった。
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「ふう、ごちそうさまでした。」
食堂に用意されていた朝食(昼食)であるホットサンドとサラダ、スープを食べ終わり、喉が渇くのを見透かしたかのように用意されていた紅茶を妹への感謝とほんの少しの恐怖を感じつつ飲み終え、言われた通りに顔を洗い髪を梳かし、服を着替えたところで不意に視界に違和感を感じた。
「ん…?なんだろうこの感じ、いつもと違う…?」
違和感とは言っても朝感じたどす黒い負の魔力の感覚ではなく、もっと凛としたというか、人間味のあるというか。とにかく今までに感じたことのない感覚だった。しかもそれなりに近い、気がする。なぜかひどくその感覚が懐かしくて、それがなんなのか知りたい気持ちに駆られる。
追いかけてみようか。
外は怖いけど少しだけならきっと大丈夫なはず。
ああでも、お母さんたちによほどのことがなければ外に出るなって言われてるなあ。
うーん…でも、今お母さんたちはいないし、ちゃんと帰ってくれば問題ないわよね!
なんてことを考えながら気づけば玄関までやってきていたわたしに背後から。
「姉さま」
「きゃあ!?サラ、脅かさないでよ」
「…?先ほどからここにいましたが」
どうやら考え事に集中しすぎてサラとすれ違ったことに気付かなかったみたい。わたし、ぼーっとしすぎ。そして当のサラはひどく心配そうな顔をしている。
「出かけられるのですか?お母さまの言いつけもありますし、最近は戦争の影響で魔力の濃度が上がっているとも聞きます。外出は控えられたほうが…」
「だいじょうぶ!ちょっとそこまで散歩してくるだけだから。遅くはならないわ」
「そう…ですか。姉さまのことです。あまり意味がありませんので止めはしませんが、本当にお気をつけてくださいね」
「わかってるわ、ありがとうね」
本当にわたしにはもったいないくらい良い妹だわ、と思いながら未だ心配そうなサラにできる限り余裕そうな笑顔を見せつけてわたしは屋敷を出た。
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「こっち…よね…?この辺り、来た事なかったなあ」
視界に定期的に映る暖かいような懐かしいような感覚を追い、わたしは王城のある王都プログレスとこのフェルチュードの街をつなぐ橋までやってきていた。工業地帯を抜け、少し自然も見えるようになってきた。日も傾き始めておりこの辺りには人影もない。
「ここまで来ると、お城も随分大きくみえるなあ…」
そう呟きながら王城を眺めていると、また視界に追ってきた感覚が介入してくる。どうやらこの感覚の正体は王都の中にあるみたいだ。ただ、この辺りはわたしが追いかけてきたもの以外にも何かがあるようで、さっきから視界の端にちらちらと限りなく嫌な感じの魔力の残滓が漂っている。
「うーん…出来るだけ人の多いところは避けて通ってきたから大丈夫だと思ってたけど、どうも嫌な感じがするわね…今日はここまでにして…」
あまり遅くなったらサラに怒られるし、追っていたものも形のない感覚に過ぎないのだ。あまり根を詰めても仕方ないし、と気持ちを切り替えて王城から橋の向こうに視点を下ろした。
その瞬間。
とんでもない悪寒がした。
ここにいてはいけないと直感した。けど。
その判断はもう遅すぎた、と突如視界を埋め尽くした巨大などす黒い塊がわたしに告げていた。
「な、に…?あれ……?」
足が震える。体に力が入らない。恐怖で立っていられない。瞳が痛い。呼吸ができない。
「あっ…これ…まずい…」
これはわたしが一番近づきたくなかったものだ、と分かってしまう。
まだ陽は落ちていないにも関わらず目の前が暗くなる。それほどの負の魔力の奔流。
どす黒い塊が明確な輪郭を描いていく。目を離したいのに離すことが出来ない。
像を成したそれは明らかな異形だった。形としては犬か狼か。しかしその体を覆っていたであろう毛はところどころ腐って落ちたように不自然に欠落しており、明らかに命を奪うために発達したような牙の上には赤く血走った瞳が。
まっすぐに、わたしを睨み付けていた。
「っ…!あれって、魔獣…!?」
身を固く縛り付けていた恐怖に生存本能という名の麻酔が打たれ、一時的に自由になったわたしの体は一目散に全身の力を振り絞って元来た道を引き返す。
「うそでしょ…!なんでっ、こんな街中にっ…!?」
魔獣。それはこの星を満たす魔力が生命を蝕みその姿を変異させたもの。
それはそれ以外の生物全てを脅かすもの。
十五年前、真っ赤に染まった月とともに現れたもの。
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「はぁ、はぁ、はぁ」
鉄骨でできた建物やフェンスをすり抜け、わたしは走り続けていた。
すでに陽がほぼ落ちて暗くなった街並みには、明らかに走り慣れていない不規則な足音と、ヒトならざる4本の脚が激しく地面を打ち付ける音が響き渡るのみ。それは助けを呼ぶことが出来ない状況を表している。
「まずい、ここ、どこ…?」
いつの間にか知らない通りに入ってきてしまった。走りつつもなんでこんなことに…と悪態をつこうとするけど、元はといえばわたしが外に出てきてしまったことが原因だ。
滝のように流れる汗を拭うこともせずとにかく走り続ける。己を追ってくる「それ」に捕まってしまえばきっとなにもかも終わってしまうと脳が警鐘を鳴らし続けている。とはいえ、わたしはもうとうに三十分以上走り続けていて。そろそろ限界かもしれない。と、働ききっていない脳がそんな弱音に引っ張られて判断を誤ったのか。
「あっ、行き止まり…!」
わたしは、自ら袋小路へ追い詰められてしまっていた。あそこで右に行くべきだったかなとか考えている場合ではない。すぐに正面に異形が姿を現す。いつの間にか三体に増えていた魔獣はどれも同じような外見だった。おそらく狼だったものであると思われる魔獣は、明確に命を脅かす凶器と化したその牙を唸り声とともに見せびらかし、威嚇しながらわたしににじみ寄る。
獲物を絶対に逃がさぬよう、三体が等間隔に広がる。それは狼という種に刻まれた本能によるものなのか。とにかくもう、わたしの選択肢から逃げるという文字は不可能なものとして消えてしまっていた。
「どう…しよう…」
正直、どうしようもない。大の大人でさえ魔具に加えて戦闘の経験がなければ逃げるしかないのよ、と散々お母さんに聞かされてきたのだ。
それに、魔獣が放つ魔力は今まで見てきたどんなものよりも暗くて、冷たくて、恐ろしい。
視界をそれに埋め尽くされ、わたしはもう、限界だった。
あきらめよう。しかたない。ごめんなさい、おかあさん。サラ。
そう思ってしまえばその瞬間が訪れるまでは意外と長いもので、お母さんの小言とか、サラのお節介とか、屋敷の人たちが親切にしてくれてたこととか、いろんな風景を思い出す。これが走馬灯ってやつなのかなとか思いながら、わたしは目を閉じた。
おかしいな。
こんな時でも。
わたしは夢を見ている。
これは夢だ、とはっきりわかる夢。
だってあまりにも、現実味がなさすぎる。
辺り一面何も見えない暗闇のなかで、ただそれだけが輝いている。
まるで炎のような真紅。まるで血のような朱。
その炎はだんだんと近づいてきて。
そして。
そして。
「下がって!」
その鋭く、それでいて優しい青年のような声で、わたしは現実に引き戻された。気付けば魔獣の牙はすぐそこまで迫っていた。わけがわからず倒れるように後ろに飛びのく。
その瞬間、舞うように空中から降りてきた誰かが、先頭にいた魔獣の首を両断した。
降り立ったその姿は、意外とわたしとあまりかわらない背丈で、凛としていて。
その髪は太陽のような黄金だけど。
何より、彼は。
彼の魔力は、“真紅”そのものだった。
「すぐに終わらせる、少しだけそのままじっとしていてくれ」
「……っ!はい!」
見惚れてしまっていたわたし自身が恥ずかしくて素っ頓狂な声を出してしまった。けどそんなわたしの思いにはまったく気づかず、目の前の青年は敵にその手の長剣を向ける。美しい魔具だった。彼が使うためだけに作られたかのような。
「いくぞ」
先ほど苦悶の声を上げる間もなく排除された同類を見ても、意思を奪われている残った二体の獣は相対しているものの力に気付かない。向かってくる真紅に、左右からの挟撃を試みる。
勝負は一瞬で終わった。
彼は目にも止まらぬ一薙ぎで右の一体を真っ二つにし、そのままの勢いで体を翻らせ襲い掛かる左からの暴力的な爪を躱しつつもう一体もその剣で切り裂いた。
彼は静かに剣を鞘に納める。月の光がちょうど照らして、その姿は、とても言葉では言い表せないほど美しかった。
まるで、月が彼を選んでいるかのように。
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「すごい……」
わたしが感嘆の声を上げるのと同時に、倒された魔獣が魔力となり霧散した。
「怪我は…ない?」
振り向いた彼がわたしに向かって問いかける。わたし以外いないのだから当たり前なのだがなぜかちょっと浮足立ってしまう。
「あっ…はい…っあの!ありがとうございました!」
「いえ、仕事なので。無事でよかった」
「仕事…?あなたは…?」
「僕はハウンド、魔獣を狩り国民を守るのが仕事なんだ」
「ハウンド…さん?っていうのね」
そう呼ばれた彼は少し目を丸くして、くしゃっと顔をゆがめて笑った。
「え!わたしなにか変なこと言いましたか!?」
「ふふっ…いや、ごめんなさい、僕の言い方が悪かった。ハウンドは役職の通称なんだ」
「あっ…」
言われて初めて自分の勘違いに気付いた。ていうかハウンドってめちゃくちゃ有名じゃない!恥ずかしすぎる!むしろ気付きたくなかったわ!
「改めて、初めまして。僕はエスポワール王国対魔士隊所属のルージュ・ベクレル」
そう、ハウンドとは増える魔獣の被害に対抗すべく設立された国王直属の組織、対魔士隊の通称。すごい若そうなのにそんな仕事してるなんてすごいなあ…と思ってたら右手を差し出されてる!
「あ、えと、ルージュさん、ですね!わたしはエマ・フェル・ジェラールです」
しどろもどろになりながらおずおずと握手する。わたし、緊張しすぎよね!なにこれ!
なんて、浮かれていたのだけれど。
ルージュと名乗った彼の手に触れた瞬間、景色が変わった。
揶揄じゃなく文字通り、本当に景色が変わった。
視界で砂嵐のように舞っていた魔獣の魔力の残滓が、吹き飛ぶように晴れたのだ。信じられない光景だった。
「あれ…?嘘、収まった…?」
「どうしたの?やっぱりどこか怪我を…!?」
その言葉で自分が他人から見ればかなり不可解な反応をしていることに気付いた。
「あ、いえ、なんでもないです!全然元気です!むしろ調子がいいくらいです!」
「ならよかった…あ、それと、そんな畏まらなくていいよ。僕たちきっとそんなに年も違わないし」
「あ、うん、わかり…あぁ、じゃなくて、わかった!…けど、ルージュくんって今いくつなの…?」
「十四歳。だけど、あと数時間後には十五歳だよ」
「わあ!同い年なんだ!全然わかんなかった…しかも明日が誕生日ってすごい偶然!…あれっ、そういえば明日って」
「…うん、そうだね。あの日から十五年。僕は、その日に生まれたんだ」
新生暦350年10月31日。
それはこの世界に二度目の災厄が起きた日。
月が紅く染まり、人に進化と発展をもたらしていた魔力は、人に牙を剥いた。
あまりにも濃くなりすぎた大気中の魔力は草木を狂暴な食人植物に変え、人も獣も隔てなく、魔獣へと変えた。
空は月の光で真紅に染まり、大地は流れた血で朱に染まった。
そんなこの世の終わりのような光景を畏怖し、人々はこの災厄をこう呼んだ。
“ 朱き月”と。
“ 真紅”の名を与えられ、彼はその日生を受けた。
間違いなく彼は月に選ばれたのだろう。そして、彼に触れてわたしの呪いは解けた。
きっと、月にかけられた呪いだったのだろう、なんていったら夢見すぎなのかなあ。
実際、突拍子もない事だし、なんで突然魔力が視界に入らなくなったのかはわからない。
それでも、彼に触れて景色が変わった。
彼に命を救われた。
わたしにチャンスと可能性ができた。
だから、わたし、決めた。
「ルージュくん、対魔士隊ってどうやったらなれるの?」
「えっ、それは十九歳の年になったら訓練校に入って…卒業すれば、かな?あ、僕はちょっと特例で…」
「なるほどなるほど、うん、わかった!」
そうして彼の手を自分で後から恥ずかしくなるくらい強く握って、わたしは言った。
「わたしも、対魔士隊になる!」
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ルージュ君へ
久しぶり!返事が返ってこなくなっちゃったけど、きっと忙しいんだよね。一方的でちょっと気が引けるけど、どうしても伝えたいことがあったからこの手紙を書いています。
前の手紙から、こっちはいろいろあったよ!戦争が終わって、しばらくして帰ってきたお母さんが、ルージュ君と知り合ったってことにすごくびっくりしてた。ルージュ君のお父さん、すごく偉い人だったんだね!知らなかったよ!
あと、そういえばうちのお父さん、帰ってきたの。それも男の子を連れて!もうびっくりだしお母さんはかんかん。でもね、その男の子は戦争で家も何もかもなくしちゃったんだ。だから、わたしはうちがその子の新しい居場所になればいいなって思っていっぱい一緒に遊んで、今ではもう家族の一員!アズールっていうんだけど、とってもいい子だしきっとルージュ君も仲良くなれると思うから、今度サラも混ぜて四人で遊んだりできたら嬉しいな。
って、長々と書いちゃったけど、本題に入るね。
そんなこんなで、いつの間にかあれから五年になろうとしてる。
もともと見なくていいものまで見えていたわたしの眼は、あの日君に触れてから少しずつ自分で抑えられるようになってきたよ。あ、でも魔力以外のものは結局見えすぎちゃうから基本的に眼鏡は必須なんだけどね…。
わたしは今年十九歳。ルージュ君がこの手紙を見てるかも分かんないけど、あの日宣言したこと、覚えてくれてるかなあ?
わたしは、来週エスポワール国立対魔士隊訓練校の入学試験を受けます。
君のいるところまで行くための第一歩!精一杯頑張って絶対受かるから!
待っててね、ルージュ君!
エマより
初めまして。
五十藤 駿と申します。
始まりのプロローグ、読んでいただいてありがとうございます。
男主人公のタグつけといて女目線やないかい!と思ったそこのあなた様。申し訳ありません。
ストーリー上、この話は彼女、エマの目線で描写したかったためこの形となっております。
次話からが本編。ようやく主人公の話になります。誰だろうなー主人公(棒
文字数も増えると思いますので、もし気に入っていただけたら次話もぜひ読んでいただけると幸いです!
更新は遅くても9/9までには行う予定です!それではまたお会いできることを祈って!