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転落タイムスリップ  作者: ノリチカ
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我が人生に一片の悔い有り

高橋和成。日本で彼の名を知らぬ者は少ない。

高校3年間で甲子園出場4回、優勝3回を経験し、読売巨人軍にドラフト1位で入団。1年目からサードのレギュラーとして活躍し、2年目には三冠王、3年目にはシーズン安打記録、本塁打記録を更新し、日本球界の宝と呼ばれた。5年目にしてメジャーに挑戦。メジャーリーグでも大活躍し、ワールドシリーズ3連覇の偉業を達成した。メジャーリーグに3年在籍後、日本食が恋しいという理由で日本に帰国の後、オフシーズンにテレビで共演した美人女優と結婚した。今世紀最大のお似合いカップルとして、ワイドショーを騒がせた。

年俸は5億円を超え、何不自由ない生活を送る。彼は日本国民の誰もが羨むスターであった。


刺激のない人生ではあったが、私自身も概ね自分の人生には満足していた。好きだった野球に明け暮れ、野球界の頂点に上り詰めた。顔は普通、勉強もできなかったが、周囲からは羨望の眼差しで見られ、手にした地位と名声、多額の年俸により、望んだものはだいたい手に入った。言うなれば私の人生はイージーモードであった。バラエティ番組で前世でどれだけの徳をつめばこのような人生が送れるのかという特集を組まれたこともあるくらいだ。


彼の人生で唯一手に入らなかったもの、それは高校時代に好きだった女の子である。名前は小林なぎさという。弓道部所属の可愛い子だった。一度も同じクラスになることはなかったが、私は1年生の時に彼女に一目惚れをした。とてもガードが硬いようで、サッカー部のイケメンFWの佐伯が振られただの、文武両道東大間違いなしの明智が振られただの、多くの男どもが彼女の前に散っていったという噂を聞いた。

当時私のもとには毎日のようにラブレターが届き、同級生の女の子は選び放題だったが、私は彼女しか眼中になかった。私は高校3年生の春の選抜に優勝後、ろくに話したこともない彼女に告白をした。


当時から、私の前には成功者の道が広がっていた。プロ入りは確実だったし、高校野球界のスターとして毎日のように取材陣が訪れていた。また高校のミスターコンテストでは1位を取ったし、体育祭のMVPもとった。例え他のハイスペックな男子が振られようとも、ろくに話したことはなくとも、自分ならいけるという確信があった。


しかしながら、私はあっさり振られてしまった。

小林は言った。私は弓道に打ち込んでいる人が好きなの、と。


まさかの理由での失恋に春大会は若干調子を崩したものの、なんとか夏の大会では調子を取り戻し優勝することができた。小林とはそれっきりで、高校卒業後は一度も会っていない。風の噂によると大学時代の弓道部の主将と付き合ってそのまま結婚したらしい。


プロに入ってからはストイックな高校生活の反動で遊び回り、多くの女性と関係をもった。しかしスター街道まっしぐらで何も怖いものはなかったはずの当時でも、小林に振られる夢を何度も見た。そして美人の奥様を迎えた今も時々彼女の夢を見る。


私の人生に一片の悔いがあるとしたら、彼女と付き合えなかったことであろう。

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