余計なプライドは必要ない
ある日、ハルがみんなからハブられて、一人、神社の境内で遊んでいると、一羽の白いカラスがハルの近くに降り立った。
「やあ、お嬢ちゃん」
ハルは耳を疑った。カラスが喋ったのだ。
「君には、現実の変更点を速やかに受け入れる訓練が必要だ。たとえば、カラスがいきなり喋り出したとしても、自らの見たもの聞いたものを疑っちゃいけない。事実をありのままに見るんだ」
カラスはそう言った。
「あなたは何者? どこから来たの?」
「人は寝ているときに夢を見るだろう? あれは空想のようで、リアルの一つの形なんだ。君とぼくは、かつて会ったことがある。思い出せないのは、思い出したくないからさ。無意識に記憶に蓋をしてるんだ。でも、君とぼくは、決して見ず知らずの他人というわけじゃないのさ」
「ついに私は、気がおかしくなっちゃったのね。いつかこうなると思ってたわ。だから、特別悲しいとか、そういう感情はないわね。だって、いつかこうなると思ってたもの。それで、要件は何かしら」
「君が物わかりのいい子でよかったよ。だからぼくは君に会いに来たんだ。それで、昨夜はよく眠れたかい?」
ハルはうなずいた。
「なら、話は早い。突然だが、君はイデオロギーという言葉を知っているかい?」
ハルは首を横に振った。
「もちろん、知らないからと言って、引け目を感じる必要はない。今、余計なプライドは必要ないんだ。ともかく、イデオロギーと呼ばれる、人々の頭にこびりついた偏見が、今、圧倒的に巨大化している。で、ぼくはピンチを感じたわけだけれども、それを救えるのは、イデオロギーに汚染されていない無垢な子だけだというわけだ」
「つまり、私に世界を救えってこと?」
「本当に君は、スポンジのように、なんでも吸収するね。よろしい、ついてきて」