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清き風は麗しく舞う  作者: 斎木伯彦
手鏡と耳飾りと
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手鏡と耳飾りと

平日毎朝8時に更新。

「浅はかな言動でした。申し訳ありません」

「シェラ、貴女のお気持ちは嬉しい。貴女のように麗しい方からそのように言われれば、誰でも連れ去りたくなるでしょう。けれども時と場合によります。私は貴女を正々堂々と連れ去りましょう」

「それは?」

「今は、秘密です」

 尋ね返そうとした彼女の唇を、彼は人差し指で押さえる。大きく目を見開いたまま、彼女は彼と見つめ合った。吸い込まれそうなほどに澄んだ瞳に、彼女は目眩がしそうなほどの衝撃を受ける。

「わたくし、貴方様は盗賊だと思いますわ」

 どうにか理性を取り戻しつつ、彼女は言葉を繋ぐ。

「だって、わたくしの最も大切なものを盗んでしまいましたから」

「それは、どういう事でしょう?」

 イアールには彼女の言葉の意味が理解できなかった。その困惑した表情を見て彼女は嬉しそうに微笑む。

「わたくしの心を奪った罪は、重いですわよ」

「慎んで、その罰を受けましょう」

 言葉の意味を知った彼は照れ臭そうに微笑んだ。その答えを聞いて、彼女は彼の胸に顔を埋める。

「イアール様、わたくしは信じております」

 二人は寄り添ったままで、彼女の帰りを待ち侘びている人々の元へと、馬に揺られながら進んでいった。

「殿下!」

 騎士の一人が彼女たちを見付けて駆け寄って来た。その頃には彼女も、彼とはそれなりの節度を保てる距離を置いている。駆け寄って来た騎士は、美しい金髪の男だ。

「ご無事で何よりです。こちらの方は?」

「イアール様と仰いまして、わたくしを救って頂いた方です」

 シェラは誇らしそうに彼を紹介した。騎士も丁寧に頭を下げる。

「殿下に成り代わり、篤く御礼申し上げる」

「それよりも、兄は?」

「陛下は、事の次第を聞き及びまして、我々を派遣して捜索にあたっております。逸早く陛下にご無事である旨を伝えなければなりません」

 騎士は今にも駆け出しそうな勢いだ。けれども彼女を置いても行けず、やや急かすように馬を進めようとする。

「シェラ、どうやら貴女とはここでお別れです」

「え?」

 イアールは優しい微笑みを崩さないまま、彼女との別れを切り出した。これにはシェラも驚く。

「貴女はどうやら高貴なご身分のようです。私のような不逞の輩と共にいる所を見られてはなりません。さあ、そちらの騎士とご一緒にお帰りなさい」

「そのような、ご無体な……!」

 しかし、彼女の反論も届かない。彼は馬から降りてしまった。

「オースティン!」

 シェラが騎士に呼び掛ける。

「今すぐ馬車まで行って、わたくしの手荷物を持っていらっしゃい」

「今、すぐですか?」

「そうです、早くなさい。貴方が戻って来るまで、わたくしはここから動きません」

「は……、畏まりました」

 彼女がこうなると、梃子でも動かないのは彼ら騎士団では周知の事実だ。オースティンと呼ばれた騎士は馬首を返して走り去った。

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