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清き風は麗しく舞う  作者: 斎木伯彦
哀の剣と愛の盾
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哀の剣と愛の盾

  〈哀の剣と愛の盾〉


 シェラザードが身支度を整えると、不意に扉が開いた。薄衣(うすぎぬ)で口元を隠した見たことのない女性が黒髪を(なび)かせて迫る。彼女が身の危険を感じて剣を引き抜くと、入って来た女性は無言のまま斬り付けて来た。

 キーンと硬質な音が響く。シェラザードは手にした剣で、相手の短剣を受け止めていた。しかし受け止められるのも計算の内なのか、女性は身を翻して逆の手にも刃を持って、突き込んで来る。

 室内では満足な動きができないシェラザードではあったが、突き込まれる刃を返す刀で弾く。再び切り掛かって来た短剣は左腕の籠手で打ち払った。

 その防御は予想外だったのか大きく体勢を崩した相手に、シェラザードは剣を素早く突き出す。ピタリと喉元に切っ先を突き付けた。

「何者ですか?」

 口元を薄衣で覆った女性にシェラザードは誰何(すいか)する。相手は持っていた短剣を床に放り出すと、両手を頭上に挙げた。

「長が連れて来るだけあって、見事な剣技です」

 剣技を褒められて満更でもないシェラザード。しかし何者か分からない以上、油断して良い相手ではない。シェラザードは注意深く相手を観察する。

「何をしている?」

 そこへイアールが戻って来た。彼は二人の様子を見て、何が起きたのかを察する。

「シェラ、剣を下ろして下さい。ユーゼラート、悪い癖ですね」

 シェラザードは彼に言われるまま剣を引いた。対するユーゼラートと呼ばれた女性はホッとした様子で数歩下がる。

「長のお目の高さに感服致しました」

「冗談はやめなさい。それよりも早めに出ますよ。エリスは薄々勘づいている様子でしたから」

 本格的な追跡を受ける前に、彼はシェラザードを連れて逃げようと考えている。一族の者を己の我が儘で手に掛けたくないのだ。

「ユーゼラートは、安全通路を確保して下さい。とは言え、既に手は回されているでしょうけど」

「そう悲観しないで下さい。私一人でも血路は開いて見せます」

 ユーゼラートと呼ばれた女性は、イアールから短剣を受け取って、部屋の外へと駆け出して行った。

「何者ですの?」

 剣を鞘へ納めたシェラザードが問い掛けると、彼は寂しそうに微笑む。

「私の姉です」

 その答えに彼女は息を飲む。

「もっとも、向こうは私を弟と知ってはいても、私が姉と知っているとは思いもしていないはずです」

「どういうことですの?」

 事情があるのは理解できるが、彼の一族の風習は地上とはかけ離れていて予測もつかない。

「私の一族は、母が別であれば兄弟姉妹で婚姻ができます」

 彼の説明に、シェラザードはルーディリートの娘の存在を納得した。

「ユーゼラートは私と母が同じですから、一族の掟で私以外の者と婚姻することになります」

「それと姉弟であることを秘匿する理由は結び付きませんけど?」

「迂闊な婚姻ができない娘は、ああして闇の巫女として長やソフィアの手足となって働く定めなのです。闇の巫女は任務に公平性を持たせる為、その血筋や家族関係は知らされません」

「それでは彼女は、ご自身の親さえも……?」

「ええ、ただ私とは母を同じくする関係とだけ伝えられています」

「それは、先程の掟を守る為ですわね?」

「そうです。その上で姉は母から直接の命令により、今は妹の護衛を務めています」

 彼の説明も不充分とシェラザードは感じたが、それでも微笑んだ。

「貴方様が何でも仰って下さるのは、とても嬉しいです」

「シェラ、一族の(いさか)いに巻き込んでしまい、心苦しいのですよ」

 彼なりの気遣いを感じて、彼女は満足した。

「そろそろ行きましょう。決して離れないで下さい」

「ええ、もう離れ離れはイヤですもの」

 大きく頷いた彼女を見て、イアールは扉を開けた。

 扉の向こうは応接間になっており、長椅子と卓が置かれている。室内を通過して、更に扉を潜ると左手に仕切り台が見え、台の向こう側には一人の女性が腰掛けていた。

「暫く空ける。誰も通すな」

「畏まりました」

 女性は表情も変えずに命令を受諾する。シェラザードは夫に連れられて扉を通り抜ける。その先は石造りの廊下で、イアールは左右を確認してから右へ進んだ。

 サブタイトルの変更と、振り仮名の追加、語句の修正を行いました。

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