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清き風は麗しく舞う  作者: 斎木伯彦
手鏡と耳飾りと
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手鏡と耳飾りと

平日毎朝8時に更新。

「よくも睡眠を邪魔してくれたな。この礼はさせて貰う」

「睡眠?」

 馬上の山賊たちは呆気に取られた。それだけの理由で、三十人は下らない彼らの前にノコノコと一人で出て来るなど思いも寄らなかったからだ。

「こいつぁ、面白ぇ。そのまま寝てりゃあ良かったろうに、わざわざ永遠の眠りに来るたぁな」

 頭目が笑うと、手下の山賊たちも大口を開けて笑い出した。しかし男の表情は微塵も動かなかった。

「まずは、お前からだ」

 男の声は怜悧な刃物のようだ。彼は反動を付けずに跳躍すると、目の前で笑っていた頭目の首を、あっさりと斬り落とした。その手には、いつの間にか人の背丈はあろうかと言うほどの、長い剣が握られている。彼が着地するまでに山賊たちは、宙に舞う頭目の首を眺めるしか出来なかった。

「次だ」

 男は着地と同時に地面を蹴った。続け様に二人を斬って落とす。

「うわ~ぁ!」

 情けない悲鳴で我に返った山賊たちは、慌てて反撃を行おうと得物に手をかけた。しかし、男はそれを許さない。剣を抜こうとしていた五人を瞬きもさせない間に斬り伏せると、槍を構え始めた六人へ切りつけた。至る所で血しぶきが上がり、馬は恐怖におののいていななきをあげる。けれども、鞍上の主が彼らを逃がすまいとして踏張る為に、馬たちは思い通りには動けない。

 暴れ出そうとする馬を抑えている間に、男は更に山賊を切り捨ててゆく。あっと言う間に山賊団は壊滅させられていた。後に残ったのは主の亡くなった馬と、その主が作った血溜りの平原だけだ。その真ん中には、未だに起き上がれずに彼女が横になっていた。

「おや?」

 男は剣をしまうと、今頃気付いたかの様に彼女に近づいてきた。

「これはお見苦しい所をお見せしてしまいましたね。立てますか?」

 男が手を差し伸べた。先程の表情からは窺い知れないほどの、優しい微笑みを彼女に見せる。彼女の頬は瞬時に赤く染まった。それから当惑を隠し切れない様子で返答する。

「あの、実は……。腰が痛くて、足に力が入らないのです」

「それはいけない。失礼させて頂きますよ」

 彼は彼女の脇にしゃがみこむと、何事かを唱えてから、彼女のお腹を触った。通常ならば、このような無礼な行為には、容赦のない平手打ちが炸裂する。しかし、相手に邪念を感じなかったのと、そのような平手打ちを繰り出すほどの元気が残っていなかった、という二つの理由が彼女を押し止めていた。

「暫くすると、動けるようになります」

 手を離して男は再び微笑んだ。確かに男の手からは暖かい脈動が彼女の中に流れ込むような感覚を受けた。それにつれて痛みが取れ、徐々に足の感覚も戻って来る。

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