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邂逅

 一方、光に包まれたイアールとシェラザードは、どことも知れぬ空間に飛ばされていた。二人は互いに手を伸ばすが届かない。

「シェラ!」

「イアール!」

 共に呼び掛けて精一杯に手を伸ばしたが、ついに離れ離れになってしまった。

「シェラー!」

 イアールの叫びがこだまする中、シェラザードは光に包み込まれた。

「ここは?」

 彼女は突然の事態にも慌てずに周囲を見回した。石壁が続く廊下は何となく見慣れた場所だ。石の一つ一つが彼女の記憶を刺激する。

「そんな、まさか……」

 彼女の記憶と一致する場所は一つしかなかった。そろりと廊下を進んで確信する。王宮だ。最も近くの扉の前まで来た時点で、廊下の向こうから誰かが曲がって来るのが見えた。慌てて彼女は室内に入る。

「物置?」

 部屋の中は様々な物品が置いてある。彼女は部屋の奥にあった大きな棚の後ろへ隠れた。

「どうして?」

 王宮に戻って来てしまった理由を考えようとしたが、思考は中断される。扉を開けて誰かが入って来た。足音は二つ。扉が閉まる音が響いた。

「陛下、話とは?」

「オースティン、お前にしか頼めない内容だ」

 室内に入って来たのは兄と近衛騎士だった。

「シェラの子を預かって欲しい」

「お子を、ですか?」

「左様、私の后に子が出来た。あれがいたのでは、皇位継承に問題が残る。出来ればシェラに返してやりたいが、皇統を守る為だ、それは叶わん」

「陛下、如何なさるおつもりですか?」

「本来ならば始末する。だが、生まれて来る子が丈夫とは限らん。表向きは死去したことにする。その上で、お前が養育するのだ」

「……私には、重い任務です」

「だが、お前以外には務まらん」

 皇王の言葉に、有無を言わせる余地はなかった。暫くの沈黙の後、オースティンが口を開く。

「では陛下、死去の原因は私の不注意にして下さい。その責任をとって騎士を引退し、地方へ隠居します」

「お前、それは……」

「皇都にいたままでは気付かれてしまいます。かと言って、理由もなく地方へ隠退しては勘繰られましょう。私が泥を被ります」

「分かった。他言無用ぞ。カインは事故で亡くなる。お前はその責任を負って、地方へ引退、だ」

「はい、出来れば父祖伝来の土地も召し上げ、殿下のいる近くに新たな領地を賜りたく存じます」

「お前は、どこまで律儀な男なのだ」

 オースティンの提案に皇王は声を震わせた。

「では望み通り、我が慈悲として新たな領地を与えるものとする」

「心得ました」

 オースティンが頭を下げる。すると突然、彼はシェラザードのいる方向に厳しい視線を送った。

「何者だ!」

 彼の足音がシェラに近付いて来る。見つかったと身体を強張らせるのと、先程の揺れる感覚が襲うのは、ほぼ同時だった。オースティンが彼女の姿を見るよりも早く、シェラは異空間へ飛ばされる。

「どうした?」

「いえ、何者かがいた気配を感じたのですが……」

 訝しそうに周囲を見回す彼の鼻孔に甘い香りが漂う。

「この香りは、……殿下?」

「シェラ?」

 二人の鼻孔をくすぐったのは、シェラザードの愛用していた香水の香りだった。

「わたくしの子……」

 シェラザードはそれが愛しい男性との間に設けた子であるように願う。彼女は再び光に吸い込まれた。

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