邂逅
「……、と、これですわね」
王宮の一室。そこは現在、物色している女性の部屋だ。部屋の中では二人の女性が横になっていた。その二人を尻目に、赤紫の髪を束ねた女性が化粧品や、身の回りの品を物色している。部屋の入り口付近には、一人の男性が佇んでいた。
「これで、全て揃いましたわ」
女性は満悦の表情で、待っていた男性に微笑み掛けた。彼女の手には満杯に詰められた手提げ鞄が二つある。
「それで、全てですか?」
男性は念押しするように確認を求めた。女性は僅かに首を傾げて考える。
「あっ、あれを忘れていましたわ!」
慌てた素振りで彼女は引き出しを開ける。
「これを忘れるなど、どうかしておりますわね」
彼女は目当ての品を取り出すと、嬉しそうに微笑んだ。それは手鏡だった。全体を銀で作り、裏面にはバラの花が浮き彫りされている。彼女はそれを鞄の中へ収めた。
「これで、全てです」
「分かりました。それでは行きましょう」
男性は荷物を持ち、彼女を抱え上げた。横たわる女性たちを一瞥する。もう暫くは目を覚まさないだろう。魔法による眠りは深い。
「それでは二度と、ここへは戻りませんよ?」
「はい、そうして下さい。わたくしも戻りたいとは願いません」
彼の腕の中で、彼女は大きく頷いた。直後、二人の身体は夜空へと躍り出していた。法術によって夜空を自在に翔ける。眼下にキャンプを見ながら、二人は小屋に戻った。
「騎士たちは、明朝ぐらいには来るようですね。早めに休みましょう」
「はい」
二人は手荷物はそのままに、並んで寝台の上に横になった。
その頃、キャンプ地の騎士たち。
「オースティン、やはり小屋を調べないのは、手落ちだったな」
「そうだな。このままでは子供の使いだ。明日は小屋を調べよう。何か手がかりがあるかもしれない」
騎士たちは、野営を続けながら、明日の行動を煮詰めていた。
一夜明け、暁が地平線を優しく撫でる頃、イアールは目を覚ました。隣では彼の大切な女性が健やかな寝息をたてている。不意に小屋の中へ一人の女性が現れた。
「マスター、一大事でございます」
「サリアか、どうした?」
燃える衣裳に身を覆う彼女ではあるが、不思議と熱は感じさせなかった。
「ファルティマーナ様が、お亡くなりになりました」
「……何だと?」
イアールの表情が凍り付く。伝えているサリアは微塵も揺るぎなく同じ内容を繰り返した。
「マスターの母上、ファルティマーナ様が、お亡くなりになりました」
「分かった。急ぎ戻る」
彼が答えるとサリアの姿はかき消すようになくなる。それを待っていたかのように隣で眠っていた女性が目を覚ました。
「あふ……」
欠伸を噛み殺した彼女を見て、イアールは幾分落ち着きを取り戻せた。
「どうなさいました?」
「何でもありませんよ」
努めて笑顔になるようにしながら、イアールは彼女の髪に触れようとするが、その手は拒否された。
「隠しごとはなさらないで下さい。わたくしに何か至らない点があるのでしょうか?」
シェラザードの真摯な視線の前に、彼は抵抗できなかった。
「私の母が、亡くなりました」
突然の申し出に今度はシェラザードがどうして良いのか混乱する。
「私の故郷は、貴女を連れて行くには危険な場所です」
「構いません。お母上の葬儀には、必ず行かなければならないでしょう?」
彼の心遣いに、彼女は遣り切れない想いを抱く。
「自分の身は、自分で守ります」
「……いいでしょう。では、すぐに出ましょう」
彼らは朝食も摂らずに出立する。その彼らと入れ違いになるようにして、オースティンたちがやって来た。
「遅かったか。既に、逃げた後だ」
「まだ遠くには行っていないはずだ。手分けして探そう」
オースティンの命令も、空しく森に吸い込まれるだけだった。




