表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
清き風は麗しく舞う  作者: 斎木伯彦
耳飾りの徴
28/55

耳飾りの徴

「それ以上、彼女への狼藉は許さぬぞ!」

「な、何を? 曲者め、姿を現せ!」

 皇王は彼女の手を握ったまま、周囲を見渡した。決して連れ去られないようにとの思いからだ。シェラの表情は明るさを取り戻しつつある。それと言うのも、その声の主は彼女の想い人だったからだ。伯爵は腰の剣の柄に手を掛けて、油断なく身構えている。不意に窓が大きく開け放たれた。

「何奴!」

「如何に血族といえども、彼女の意向を無視するとは、許せぬ」

 皇王は目を見開いた。窓の外に足場はない。にも拘らず、そこに一人の男性が立っていたからだ。漆黒の衣装を纏うその男性は音も無く部屋の中へ滑り込んで来た。

「シェラ、貴女の願いを叶えましょう」

「はい!」

「シェラ、このような曲者の言うことを聞いてはならん!」

 皇王は首を横に振る。伯爵は扉を開けると、廊下に向かって大声をあげた。

「曲者ぞ! 出合え!」

 伯爵の声に応じて、真っ先に飛び込んで来たのは金髪の騎士だった。

「殿下!」

 部屋に入るなり、その異様な雰囲気に彼ですらも圧倒される。部屋の中央には漆黒の衣装を纏った男性が浮き上がっており、その彼を取り囲んで二人の男性が額に脂汗をにじませていた。微動だに出来ないその緊迫した空気の中へ、彼は入ってしまったのだ。

「三対一か……、それでも差が有り過ぎるな」

 黒い衣装の男性、イアールには余裕があった。三人で取り囲んでいるにも拘らず、彼らは身動き出来ない。それでも伯爵は、オースティンと共に何とか彼を挟み込む位置まで移動した。

「出来る……!」

 伯爵は柄に手を掛けたままで、剣を抜けなかった。抜いた瞬間にその隙を衝かれてしまう。

「望み通りにしてやろう、受け取れ!」

 焦れったくなった皇王はシェラをイアールの方へ押し出した。彼が受け止めている隙を衝いて、斬り付けようと言うのだ。その意図を察し、伯爵とオースティンは左右から斬り掛かった。

「やったか!」

 どのような達人といえども、誰かを庇いながら左右の挟撃を避けるのは至難の業だ。どちらかの剣撃は受けざるを得ない。そしてこの時、斬り掛かった両者は国内きっての使い手だ。確実にその生命を絶つであろう。皇王は期待に胸を躍らせた。

「甘いな」

 皇王の期待を裏切るかのように、イアールは平然と佇んでいた。その胸にシェラを抱き込み、あまつさえ右手には長大な剣を持っている。右から斬り掛かった伯爵は、利き腕から血を流していた。左から斬り掛かったオースティンに至っては、剣を失った自らの手元を呆然と見詰めている。彼の剣は天井に突き刺さっていた。

「さらばだ」

 マントで彼女を包み込むと、彼は来た時と同様、宙を滑るように窓の外へと去って行く。

「待て!」

 皇王が後を追おうとしたが、飛べない人の身では、それ以上に追跡出来ない。まるで伝説の吸血鬼のように、彼らの姿は漆黒の夜空へと消えて行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ